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NOT TOO LATE #9: タカマユミインタビュー

文:Jumpei Sakairi
アーティスト: Taka Mayumi

Title designed by Shingo Yamada

店の前でのポートレート


1st写真集『恋するとりこ』発売時に、それまでの仕事や写真集について話をお伺いしました。

Jumpei Sakairi(以下J): パリから日本に拠点を移した経緯について教えてください。

Taka Mayumi(以下T): 2007 年ぐらいからパリでも(仕事が)回り出して、いろんな雑誌から声がかかっていたんだけど、最後の方は仕事の頼まれ方が Too Much になり始めていた。Taka Mayumi はこういう人間だと勝手に向こうがイメージを膨らませてるみたいな。ちょっと嫌な方向に流れ始めていたし、たとえこのまま有名になってもつまらない人生になりそうだなあと。
それからニューヨークで写真展があって、それに世界中のフォトグラファーの中から選ばれたんだよ。そこで 1 番評価が高かったらしく、ニューヨークのエージェンシーからも声がかかった。ただ、ニューヨークに直接行くには技術的にもまだ不安があったから日本でお金貯めた後に行こうと思って。けど、日本で働き出してお金が溜まってくるうちに、自分のやりたいことを制作としてやった方が幸せだなってことに気づいた。
で、気づいた時点でもうファッションも別に興味がなくなって。興味がないなら、パリもニューヨークも行く必要ないから日本で行くかって思ったのが悪夢の始まり(笑)
仕事しかしてなくて蕁麻疹出るとかあったね。(帰国後)2年間はライティングのチェックっていう位置付けもあったから、パリの時にはできなかったいろんなライトを試したんだよ。それでライティングの幅が広がったから、仕事の幅も同時に広がった。ただ一気に広がったからそれがストレスになっちゃって。

店頭に並ぶ1st写真集「恋するとりこ」

J: 写真集ではパリでの雑誌、広告とはまた違った雰囲気のスナップが多いですね。

T: 仕事ばかりの日々が続いてたけど、ちょこちょこ作品撮り的なことはやってたんだよね。今とはちょっと違う感じなんだけど。2015 年あたりもフランスの雑誌に仕事じゃない写真を送ってくれって言われてたんだけど、スナップをはじめたのはその後くらいかな。
基本自分の頭の中のイメージを形にするタイプだったからスナップはほとんど初めてだったし、最初は山手線を1 周くまなく歩いてみようと思って。そこからだね、もうこれ東京の全路線制覇しようと思って暇な時はずっと電車に乗ってた。それを「電車で GO」って言ってたんだけど(笑)
あと、すごく仲のいいフォトグラファーが「タカさんは事務所半年に 1 回ぐらい変えた方がいいですよ。毎日同じ道通ってるし、場所変えると違うところを撮りだすじゃないですか」って言いだして。で、俺が動けばいいだけかと考えて「電車で GO」をやってみようと。
結局人間の脳って、毎日通ってる道だと脳内が覚えちゃってるからほんとはちゃんと目で見てないんだよ。ここは危険、ここは危険じゃないっていうのが分かっているから、危険じゃないところは全く素通りする。旅とか新しいところに行くと素人でも写真撮り出すじゃない。全く情報がないから風景とかを急に見出すんだよ。もちろん映える風景なとこ行ってるせいもあるかもしれないけど。「電車で GO」だとそんな状態になるんだよね。
ただ意外と写真集の中でも近所の写真を選んじゃってる側面は大きい。 結局、普段歩いてて何回も見てるけど撮っちゃうところの方がやっぱり深く見てるよね。事務所に行く時にも結構毎回撮っちゃってるから。また事務所に行くまでに撮っちゃった、フィルムもったいねえとか思ってたけど (笑)事務所ももう 6 年ぐらいになるけど、2、3 ヶ月前にふと見上げたら、これ初めて見た気がすると思ったことがあって。よっぽど見てないんだなと。だから常に見るという行為の継続的行動が全てなのかなとは思う。

店内での展示の様子

J: 風景など被写体を選ぶうえで何か考えてることはあるんですか?

T: 外国人が言い出したらしいんだけど、俺もある人から聞いて。アラーキー(荒木経惟)とか(森山)大道ってなんとなく「東京」のイメージあるじゃない。でもあれ昔は本人たちも東京と思って撮ってなかったらしいんだよ。急に外国人があの 2 人の写真見て、「あ、これは東京だ」って言い出しただけで。それ聞いて、周りとかも東京東京言い出しちゃって。ただ、別にあの2 人だけが東京っていうことじゃないよなと。もっと本当に普通な感じの人たちもいっぱい住んでるわけだよ。逆にスポットをそっちに当てて取り出してみようと。
まあ、別に俺だけじゃなくてやってる人たちもいっぱいるとは思うんだけど。新宿は欲望とか、それこそインパクトもあるし、強いからなるべくそうじゃないところで撮りたかったんだろうね。「波動」が弱いっていうかなんていうか。インパクト重視じゃなくてね。あとは、枠に収まるような写真は撮りたくないなっていうのもある。暴力とか幸せとか喜びとか、そういうパッとワードが出てくる写真じゃないような写真が好きかも。

J: 確かにパリでのインパクトが強い写真と比べると一見穏やかな印象を受けます。

T: たしかにパリではインパクト強い写真撮ってたよ。李禹煥さんがインタビューで、日本にいるのと海外にいるのでは強度を変えないと、とか。一方でそれは行けば自然に変わるみたいな話をしていて、それもそうだなと思って。ヨーロッパの時は鉄の棒みたいな感じだったんだよね。ガンって硬くて。で、なんだか撮ってる写真も硬いし。
今はどうなりたいんだろう…ゴムってわけでもないし。ある時はものすごく芯があって、硬くて。でもなんだか柔らかくて。やっぱりそれが理想だよね。写真の中にそれを感じさせたいっていうのが強いのかな。自分がそうなると、写真も必然的にそうなってくるとは思うんだけど。
ただ、日本に帰ってきたから自然にこうなったっていうのもあるのかもしれないけど、 自分で仕向けた感じも強い。こっちの方向に行きたいっていうのがあったんだよね。最初はインパクトにいってたから。今は写真の「波動」を無くそう無くそうっていう。 まあそれでも多少はインパクトあるようなやつ撮っちゃってるけど。

店内の展示の様子

J: 1st写真集発売に合わせて flotsambooks での展示も開催されました。1st 写真集発売時の展示では、その中の3 枚の写真が自身のすべてを表すと言っても過言ではないとおっしゃっていましたね。

T: 簡単に言うとポートレート、スナップ、メイク。スナップもポートレートも好きだし。あとはヌードで頭の中にあったイメージを作り上げる。3 つ並んだ時にこれが自分だなあと思ったから。

J: その中でも特にbetcover‼︎のボーカルである柳瀬二郎さんのポートレートへの思い入れが強いとおっしゃっていましたね。

T: まあ、彼が好きっていうのはもちろんある。すごい尊敬してるし。ただ撮ったものがあんまり無理して撮ってる感じもないから長く続きそうだなと。タレントとか撮ったらニコパチじゃないけど、自分が無理して笑わせてみたいな。そういう写真ももちろん好きなんだけど、撮った枚数も 1.2 枚だったし本当にすっと自然に撮れて。まあ、結局自分のポートレートへの思い入れが強いってところもあるのかもしれないけど。

J: 何とも言えない良い表情をしてますよね。それこそキメ顔ではないというか。

T: どんどん仲良くなっていくと、ああいう顔しなくなるからね。出会って初対面で人見知りしているような顔も本当にその瞬間しかないから。どんどん喋っていけばお互いにわかってきて、表情も打ち解けて逆にその顔が撮れなくなる。そういう面で言うと貴重な写真かもしれないし。多分もう二郎君のあの表情は撮れない。もう友達とまでは行かないけど結構親しくなり始めてるから。


写真集を見るタカマユミ氏

J: あの写真は出会ったばかりで撮ったものだったんですね。

T: そうだね。コンサートに最初行って、その時はたしか会ってなかったんだよ。で、2 回目偶然京都での仕事が終わった日の夜にコンサートやってるって知り合いの AD から連絡があって。その時(コンサートが)終わって客が帰った後にみんなで喋ってて、「明日大阪でまたやるんですよ」って二郎君が言うから「ポートレート撮りたいな」って言ったら、「あ、全然いいっすよ。」と。
元々京都からそのまま金沢まで車中泊しながら旅して写真撮ろうと思ってたんだけど、 一旦それを辞めて大阪に下って。結局金沢の方までもう 1 回戻ったんだけど。やっぱ撮りたい顔だなと思うと行動に出るよね、どうしても。フォトグラファーとして撮っておかないとって思う顔はそんなに見かけないし、出会うもんでもない。

J: 撮りたいと思う顔ってなにか基準みたいなものはあるんですか?

T: 結局「目」だよね。目は口ほどに物を言うとはよく言うけど、 いい目をしてるなとか、きれいな目をしてるなとか。だから、撮影中のポートレートに限らずファッションとかも基本顔しか見てない。服はもうスタイリストとかに任して表情だけ見てるってことが多い。

J: 最後にこれからの活動についてもお聞かせください。2 冊目以降の写真集の制作にも既に取り組まれているそうですね。展示はまた開催する予定ですか?(※1st発売時点で)

T: 4 冊目も人以外は撮りだしてる。1 月に3 冊目まで出せれば御の字かなと。まあ、ずれて 2 月以降になったりしそうな気がしなくもないけど。ただ3冊目まではもうほぼほぼできてるから。展示はここがいいかなっていう話になり始めてるけど。なんかもうホームグランドにしちゃおうかな(笑)ぶっちゃけ狭いからできることは限られちゃうけどね。でも、規制があった方が逆に考え出すから。ちゃんとしたところも考えたりはするだろうけど、なんでもそうで結構自由がないところから始めた方が人間考え出す。
それはそれでいいなと思って。

2022/10/4 flotsam booksにて

執筆者
Jumpei Sakairi
早稲田大学法学部卒
フリーライター
写真、ファッションについて。
編集の仕事がしたいです。
Contact: nomosjp@gmail.com


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