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田中 孝幸13歳からの地政学: カイゾクとの地球儀航海

田中 孝幸著
13歳からの地政学: カイゾクとの地球儀航海

まず、なぜアメリカが強大な国家であるか。
それは、広大な国土に豊かな天然資源がある事はもちろん、国土の割には国境を守る負担が低く、海底ケーブルで情報を押さえ、ドルで通貨を支配し、移民で世界中から優秀な人材を集め、国土を取り巻く大きくて深い海に原子力潜水艦を潜ませて核爆弾を自在に放つ潜在力を持ち、世界中に配置した海軍で有事には貿易もコントロールできるなど、奇跡的に物理的にも立地的にも恵まれているからだ。

ただ、これらの強力な利点を活かす源泉がないと国家として機能しない。
その源泉とはアメリカが民族意識よりも国家意識が高い事にある。
アメリカ大統領選挙は盛大なイベントだが、あれこそ、多民族国家であるにも関わらず、民族意識よりも国家意識を高めている証といえる。
こんなアメリカでは中国の様な少数民族の問題など起きないわけだ。

それに対して、アフリカは、民族意識が国家意識を凌駕していて、政治的リーダーは、国よりも自分の民族を優先させる事に走るので、結果的に腐敗や汚職が蔓延し、国家としての成長ができない。

アメリカの対抗馬である中国は、アメリカと比較して国境リスクも民族問題も多く、しかも圧倒的に海に恵まれていないので、南シナ海を抑えることに躍起になっているわけだ。

この著書の醍醐味は、この様な地政学の整理で終わらず、対話を通じて示唆やヒントに富んでいることだ。

たとえば、後半に出てくる他国とバランスを取る必要性の低い大国の課題として自国の言葉しか話さない自国優先的な"モノリンガル"の傾向であるという指摘は今の日本に置き換えると示唆に飛んでいると感じた。

このバイリンガルやトリリンガルの反対語のモノリンガルと言う言葉がとても刺さる。

日本も海や人口や国境リスクの低さなどに恵まれてきた事により、日本語や日本市場だけでも成長できたモノリンガル大国である。
しかし、世界の大国になったとはいえ、アメリカほど強大ではなく、最近では少子高齢化や経済停滞などにより大国から小国へ向かおうとしている。
この本でも書かれている通り、世界の小国の外交官は多言語を操り、他国との微妙なバランスに苦心してきたわけだ。
モノリンガル日本が大国の存在感を失いつつあ今、モノリンガルから脱却し、世界中から人材や情報を集めたり、世界に向けて発信していく多様性や機動力が求められてきている。

日本は、アフリカ諸国と違って、国家機能が強い国である事を活かして、多民族国家への道も個人的には推奨したいと感じた。
元々、日本は移民からできた国であり、また、アメリカと同じく、民族意識よりも国家意識が高い国であるという利点を鑑みれば、日本は多民族化を内包し、モノリンガルから脱却しつつ新たな国家として再生できる可能性を秘めていると思う。

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