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K-popの日本語版ダサい問題に革命が起きた

 K-popで定期的に話題になるのが、「日本語版の歌詞ダサすぎ問題」。

 個人的にはそんなにダサくないと思う……というか、日本語版を出そうというその心意気だけでありがたいので多少ダサくてもべつに良いというか、まあそんな感じなのですが。

 しかし世間一般的には「ダサい!」という声が多いのが事実です。まあそら歌を訳すってめちゃくちゃ難しいですよね。字数が合っていなかったらもちろん「ダサい」。イントネーションと音程がずれていたら「ダサい」。あとは母音にも気を遣うでしょうし、原曲での韻を日本語でどう活かすか……などの問題もあると思います。その上で言葉選びが洗練されていなければ「ダサい」。

 K-popに限らず、訳詞はどの言語でも難しいはずです。けれどミュージカルなどでは、あまり訳詞がダサいとは言われません(ダサい訳詞もあります)。ではなぜK-popではこう定期的に日本語版ダサい問題が起きるのか。

 個人的には、韓国語と日本語が言語的にかなり近いことが原因なのではないかと思います。

 韓国語は日本語と文構造がほとんど一緒です。主語があり、助詞があり、述語があります。そのため、単語を逐語的に訳せばそれなりの和訳が出来上がります。すると必要以上に言葉を変える必要がなくなり、原曲から直訳しただけのような日本語歌詞が多くなるのではないかと思うのです。

 つまり。直訳でなければ、ある程度「ダサすぎ」問題は回避できる。

 それを証明してくれたのがTOZのデビュー曲、Magic Hourです!!!!

 TOZは日本でデビューした四人組ボーイズグループで、韓国では未デビューです。そのためMagic Hourは最初日本語版でリリースされました。日本語詞を担当したのはなんとK-popアイドル髙田健太さん。

 しかしこの曲は(おそらく)もともとは韓国語で書かれたものでした。原曲とも言える韓国語版は長らく謎に包まれていましたが、昨日ようやく韓国語版がリリースされたのです。

 で。この韓国語版と日本語版を読み比べてみると、あらためて健太さんの日本語版の素晴らしさがわかりました。

 というわけで、以下ではMagic Hourの韓国語版と日本語版を見比べてみたいと思います!

※韓国語版の和訳はすべてパパゴと私です。勉強中ですので間違いもあるかと思いますがご容赦ください。
※おそらく元は韓国語だと思うのですが明言はされていないので違うかもしれません。違ったらすみません。

Magic Hour
作詞 PAPERMAKER(TENZO, WWWAVE), KEBEE
作曲 PAPERMAKER(TENZO, Freez), LOOGONE, KEBEE
編曲 PAPERMAKER(Freez), LOOGONE
日本語詞 髙田健太

パステルかましbaby

 逐一見比べていきたいところですが、長くなりすぎるのでさすがにそれは我慢して。まずはこの部分をご覧ください。

yeah 색깔을 칠해 매일 매일 (色を塗って毎日)
파스텔톤으로 baby(パステルトーンにbaby)
저 햇살처럼 lay down
(あの日差しみたいにlay down)

yeah, 染める君と俺 olé
パステルかましbaby
太陽までlay down

 韓国語でメイㇽメイㇽ(毎日毎日)と発音する場所を、俺 oléというように訳しています。同じ音を二回繰り返すという形式はそのままに、言葉遊びに変えているんです。さらに元の詞では「メイㇽメイㇽ」と「ベイベー」で「eie」と韻を踏んでいたところですが、日本語版では「ole」と「ベイベー」の最後の「e」で韻を成立させています。

 また、私が注目したいのは次です。

 「パステルトーンにbaby」を「パステルかましbaby」と訳しています。ここは字数的にも意味的にも直訳で「パステルトーンにbaby」で通じるところだと思います。でもあえてそのままにせず、「かまし」という一見パステルと相容れない言葉を使っている。

 こうすることで、パステルトーンのやさしい世界観に一気に少年らしいやんちゃな世界観が混ざり始めます。そしてこの世界観がMVやアルバムのコンセプトと非常にマッチしているんです。この発想は本当にすごいと思います。


日差しにbye, chillin' 波乗れば

아침부터 밤(朝から夜)
밤부터 아침 그 사이(夜から朝の間)
찾아온 이 마법 같은 찰나
(訪れたこの魔法のような刹那)

日差しにbye,
chillin' 波乗れば
訪れる魔法の刹那

 注目したいのが、chillin'という言葉。韓国語版でバㇺ バㇺと発音しているところを、日本語ではbye, chillin'としています。

 これすごくないですか? 私だったらbyeを思いついた時点で二個重ねてバイバイにしちゃいます。だって韓国語はバㇺバㇺなんだもん。バイバイでいいだろ。でもそこにchillin'というスラングを入れている。

 これは「まったりする」という意味でもともとヒップホップシーンから生まれたスラングだそうです。最近では日本でも若者の間で「チルする」というように使われていますよね。その影響もあって、この言葉にはどこか若くエモーショナルなイメージがあります。

 日差しにbye, chillin'。眩しい日差しが柔らかくなって、気の置けない友人たちとの間にゆったりとした時間が流れ始める。そういった情景がこの一言で広がります。

 後述しますが、韓国語版では「センチメンタルになる」というような歌詞もあります。そういった空気感を、このchillin'という言葉で表現しているのではないでしょうか。

 あと「日差しにbye」の部分、「iai iai」でキレ〜〜に韻を踏んでるんですよね……見事だ……。


駆けだす背中を追い嘆く

영원히 멈출래 이 순간(永遠に止める この瞬間)
그림과 영화 사이 (絵と映画の間)
그 어디쯤 우린 주인공이 되었다
(そのどこかで僕たちは主人公になった)
가장 멋진 사진 앞에 찰칵
(一番素敵な写真の前でパシャリ)

願う彼方に shooting star
裸足のまま
駆け出す背中を追い嘆く
まだ終わりは早いんだ

 ここはまったく韓国語版と日本語版で意味が違います。ひとつも重なっていません。

 MVでは、壁に映像を映し出すとヒーローの姿をしたメンバーが……というようなカットもあり、おそらくこの部分の韓国語版歌詞をイメージしたものだと思います。

 が、日本語版では「映画」や「主人公」といった言葉を一切使っていません。その代わりに出てきたのが「嘆く」「終わり」といった一見ネガティブな言葉です。

 「裸足のまま駆けだす背中」からは若い向こう見ずなエネルギーが感じられますが、「追い嘆く」はどういう意味でしょうか。正解はわかりませんが、個人的にはここは「切望する」という意味の「嘆く」なのではないかと思います。

 駆けだす背中を見て、この瞬間が続くように切望する。まだ終わりには早い。そういう意味で捉えると、この情景が映画の中の一枚の絵のように浮かび上がってきて、韓国語の歌詞とつながってくるようにも思えます。

 もちろん考えすぎかもしれません。しかしこの部分をじっくり聴いていると、どことなく韓国語版と日本語版は、永遠を切望して今この一瞬を抱きしめるような世界観を根底で共有している気がするのです。


刹那越えて爆上がり

나도 모르게 자꾸 날아가(思わず何度も跳んで)
머리를 흩날려 센치하잖아
(髪を振り乱してセンチになるじゃん)
당연히 ING(当然ING)
부르릉 달리지 my engine
(ブルルン走るmy engine)

迸り舞う花火
刹那越えて爆上がり
気持ちing,
broom,カケる my engine

 「センチになるじゃん」の部分のメロディーに日本語では「爆上がり」という詞がついている衝撃。真逆じゃん!!

 でもこれ韓国語版もすごいですよね。「何度も跳んで髪を振り乱して」というテンションアゲアゲ状態なのに「センチメンタルになる」というしんみりした心境を歌っていて、喧騒の中にふっと訪れる感傷や物淋しさが表現されています。

 日本語版ではおそらく、前後の歌詞との意味的なつながりやメロディーとの相性を考慮して「爆上がり」をはめたのではないかと思います。

 実際、この曲が生歌で披露されたときここのラップパートを担当していたハルトは「爆上がり」で一層ボルテージを上げるようにアレンジして歌っていて、それが曲調とぴたっとはまっていました。曲調的に「爆上がり」の歌詞がしっくりくるんですよね。

 それと韻の関係もあります。「舞う花火」と「爆上がり」で「auaai」と韻が決まってますよね。美しすぎる。ここは韓国語でも「ナラガ」「ハジャナ」で「aaa」の韻が踏まれているんですが、韓国語版と日本語版が同じところで韻が踏まれていると聞いたとき気持ちいい気がします。

 また、「センチ」という言葉はカットされていますが、「chillin'」や「嘆く」といった言葉があるので感傷的で情緒的なニュアンスは日本語版からも感じられませんか? 個人的には全体を通してみたときに、日本語版と韓国語版でそこまで大きなイメージの齟齬はないように思われます。

 あとは余談ですが「走るmy engine」のところを「カケる」と訳していて「エンジンをかける」と「エンジンで駆ける」のダブルミーニングにしているのがすごい。



 ほかにももっと紹介したい部分はあるのですが私の韓国語力が追い付かないのでこのあたりで終わりにしたいと思います。

 けれど韓国語版の歌詞もとっても素敵なので、興味が湧いた方は音源サイトで歌詞をスクショして一度パパゴなどに突っ込んでみることをおすすめします。そして是非日本語版と比べてみて下さい。

 ダサいと言われがちなK-popの日本語版ですが、こんな例もあるんだぜ! ということで紹介させていただきました。というわけでみんなMagic Hourを聴こう! TOZを応援しよう!

 そしてこのあとに公開される(はずの)CHIPSの韓国語版MVを一億回再生しよう!!!!


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