TOZのCHIPSがめちゃくちゃいい
TOZのCHIPSがめちゃくちゃいいという話をしたい。
私は夕食のカレーを煮込みながらnoteを立ち上げた。もはやカレーなどどうでもよくなっていた。ともかくこの良さをしたためねば気が済まぬ、ほかの何事も手につくものかという有様であった。それというのもCHIPSが良すぎるからだ。断じて年末調整から逃げているわけではない。
さて、CHIPSである。この曲をご存じない方のためにもここにMVを貼るのが礼儀とはわきまえているが、いかんせんこの曲、MVがない。そう、タイトル曲ではないのである。その上ダンスプラクティス動画もまだない。なんということだろう。
しかしそれは、この曲がタイトル曲には一枚及ばないなどということを意味しない。TOZメンバー、ハルトが真剣な顔で「ぼくCHIPSがタイトル曲でもいいと思う」と述べたというが、CHIPSはまさしくタイトル曲にもなれるポテンシャルを秘めた曲なのだ。ただタイトル曲はふたつもいらないから、じゃんけんぽんかあみだくじでその座を惜しくも掴み損ねたというだけのことなのである。知らんが。
ともかく、CHIPSを聴いたことがない方はいますぐspotifyやapple musicなどを駆使して聴いてみるべきだ。なんのための文明の利器、なんのためのストリーミングサービス。ここで使わねばその真価が曇るというものである。そしてspotifyもapple musicも登録してないな~という時代の波に乗り遅れがちなあなたに朗報なのだが、spotifyは無料でも音楽を再生できる。その際PCから操作するほうが利便性が高いだろう。Good luck.
さて、聴いたか? 聴いたな? では本題に入ろう。
めっっっっちゃよくない?
いや、いい。言わずともわかっている。おそらく今頃みな四肢をフローリングやベッドに投げ出し大の字になっていることだろう。うっかり公共交通機関で聴いてしまった方などは無言で顔を覆い天を仰いでいるかもしれない。わかる、わかるよ、CHIPSいいよね。かく言う私も初めてこの曲を聴いたときは冒頭から電流の走ったような衝撃に襲われた。別に音量設定をミスって突然の大音量に鼓膜をつんざかれたわけではない。なかったと思う。
軽やかなドラムの音から始まり、重く響くベースの低音に呼応するように「CHIPS, CHIPS」とハルトの声が曲の世界へと聴くものをいざなう。洒脱で軽快でありながらも重い一撃を秘めており、まさに痺れるような冒頭である。メロい。このメロいはメロディアスとかけている、とかそういうことは特になくただメロメロというだけの意味だ。
そして続くはこの歌詞だ。
あ~~~~かわいい。大変にかわいい。
何を隠そう、CHIPSは「十代の少年の恋心を歌った曲」なのである。なんというみずみずしい響きだろう。「十代の少年」だけで眩しくて目を細めるほどなのに「恋心」と続けばもう直視できない。もちろん二十代にも三十代にも六十代にもそれぞれの良さがあり、人間の魅力が減退していくなどということはありえないが、やはり十代の良さは十代にしかない。不安定さと直情をもちあわせた少年の青い輝きというものはたしかに存在する。
そして「恋心」ときた。私は恋愛至上主義者ではないし、恋愛より尊いものなどこの世になんぼでもあると思っているが、それはそれとして恋はかわいい。愛猫家だってなにもネコチャンがこの世でもっともすぐれた生物だと信じているわけではないだろう。それと同じことだ。恋は愚かで盲目で数ある人間の感情のうちのひとつにすぎないが、しかしやっぱりかわいいのである。恋に振り回されながらも恋を支配しようとする人間の営みの、なんと微笑ましいことか。
引用した歌詞に戻るが、「一欠片で上がる体温」はこの少年の十代のみずみずしい感性をよく表している。恋に惑う少年の姿がこの短いフレーズで伝わってくる。かわいい。私など体温が上がるのは生姜湯を飲んだときくらいだ。そうでなければ風邪である。
そして「好奇心くすぐられ」と続く。これもいい。好奇心とは人の成長を促すもっとも重要な感情のひとつであり、そしてときに身を滅ぼすほどの可能性を秘めた劇薬だ。それゆえ少年の青さを的確に表すフレーズでもある。好奇心を失った大人は健康の話しかしない。私もまだ20代だというのに、最近友人と会えば気づけば健康の話になっているから恐怖を覚えている。
さらに次の歌詞はこうだ。
おわかりいただけるだろうか。とにかくかわいいのである。
「夢見る」←かわいい。どこか甘く未熟な響きがある。「nineteen」←成人し、大人になった自意識と裏腹にまだ少年の領域に身を置いているアンバランスな年齢。「下手すりゃ最後」←危うさと緊迫感の見え隠れする言葉選び。少年の不安定な心情が伝わってくる。「期待隠すpoker face」←期待に赤らみそうな頬を必死で隠すさまはかわいいのにpoker faceという言葉からは駆け引きが連想され、大人びた雰囲気をまとう。
うだうだ言ったがとりあえず夢見るナインティーンが期待を隠してポーカーフェイスをしているところを想像してみてほしい。かわいいだろう。そういうことだ。
さて、このまま歌詞のかわいさをひとつひとつ解説していたのでは年調どころか確定申告まで提出し損ねる。税務署に目を付けられたくないのですっとばしてサビに言及しよう。
ひたすらにChipとCheekが繰り返されるフック。始めこの部分だけが公開されたときは物議をかもし、もしやトンチキソングなのでは……? と期待と不安の入り乱れた憶測および混乱がTwitter上に散見された。私も正直この部分だけを聞いたときは特にいいと思わなかった。
しかしどうだろう、全体を通して聴いてみると、このフックが非常にキャッチーでスパイシーな役割を果たしているのである。チッチッチッチチッ♪というシンプルで誰でも口ずさめるメロディだが、それでいて聞き流せないような妙な感じがある。それはまさに恋の渦中にいて、周りが見えなくなっている少年の熱病のような様相をよく表している。かわいらしい10代の少年から放たれるチッチッチッチチッ♪には、えも言われぬ魔性の魅力があるのだ。
しかしこの曲の真のキリングパートはフックではない。と私は思う。キリングパートは実のところ、ダンスブレイクなのだ。
ダンスブレイクも何も、MVがないからどこがブレイクかわからないかもしれない。痛恨だ、あんなにすばらしいダンスブレイクをここですぐさま提示することができないというのは。しかし二番のサビとCメロのあとに間奏が挿入されているだろう。この間奏こそ、キリングパートことダンスブレイクなのである。
このダンスブレイクがめちゃくちゃいい。とにかくいい。10代の少年、バチバチに踊る。アンタの恋心、めっちゃロックじゃん!! と叫びたくなる。そう、ここまでかわいいかわいいと言ってきたが、かわいいだけではない。熱く強く、激しくもなる。恋はいつでもハリケーンなのだ。
そんなこんなでCHIPSがめちゃくちゃいいという話をしてきたが、どうだろう。べつにあなたがCHIPSの良さをわかってくれなくてもいい。そういう人だっているだろう。しかし私にとってはCHIPSは乾いた日常に現れたオアシスのようなものだった。
大人びたポーカーフェイスで恋の駆け引きに臨むも、その中毒性に夢中になって抜け出せなくなっている少年。この曲では、青く甘い恋の様子が軽快なサウンドにのせて綴られている。健康以外に話題のなくなった20代の私には、年末調整も確定申告もまだしたことがないであろうこの少年の恋心が、魔剤よりも生姜湯よりもよっぽど滋養に富むように思えるのだ。人の生き血を吸って生命力を得る吸血種のように、最近の私は10代の若人の生気を吸って元気になっている。
それでは、気が済んだところでそろそろ年末調整に戻ろうと思う。いや別に年末調整から逃げてたわけではないんですけど。
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