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あの日見た光のこと(前田晴翔/BOYS PLANET)

 オーディション番組を見るのが苦手で、普段はあまり見ないようにしています。他人の人生に同調しすぎてしまうので。勝手につらくなってしまうんですよね。一回それで寝込みました(弱すぎ)

 でも今回のBOYS PLANETは見てみようと思っています。参加者の中に、6年前から密かにずっと気にかけていた名前があったので。

 前田晴翔くん。私は彼を、2017年11月4日、梅田芸術劇場の2階から見ました。

 ビリー・エリオットというミュージカルをご存知でしょうか。リトル・ダンサーと言ったほうが日本では馴染みがあるかな。2017年、16万人を動員し、4ヶ月にわたってロングランされたミュージカルです。バレエダンサーを夢見る少年の物語で、晴翔くんはそのミュージカルでビリーという主役の少年を演じていました。

 彼は1346人の中から一年以上に及ぶオーディションで主役を勝ち取り、4ヶ月の間、5人の役替わりではありますが、体力的にかなりハードなビリーという役を一度も休演することなく演じきりました。たしかそのとき、彼は12歳だったと思います。

12歳!? 調べてみてびっくりしちゃった。当然オーディション開始当時は11歳ですよね。そんなん赤ちゃんじゃん。みなさん12歳のとき何してました? 私クラスの女子全員でかごめかごめしたりアルゴリズム行進したりしてましたよ。ちなみにこれは14歳になってもしていました。

 私のクラスが仲良すぎた話は置いておいて。

 ともかく12歳なんて多くが責任感もなければ社会性もない、平凡な子どもだと思います。何かひとつのことに打ち込んで、ほかの楽しみを犠牲にすることも、そこに生ずる責任を負うこともまるで考えていない、健全な子ども。私もダンスやバレエをやっていましたけど、週に3、4回通う程度の「真剣な趣味」でした。ちなみに脚は110°くらいしか開脚できませんでした。週に3回も通っていて……?

 でもビリー・エリオットに出ていた子どもたちは、ほかとは少し違ったように思います。少し? いやとても。彼らは、私の目にはとても特別な子どもたちに見えました。


 この公演には私の推しが出演していて、私は彼女目当てでチケットを取りました。けれど結果的に、私は前田晴翔という少年に強く心を動かされて劇場をあとにしました。

 もともと、私が取っていたチケットは晴翔くんが出演する回のものではありませんでした。けれどビリー役の一人だった未来和樹くんが成長に伴う痛みのため降板することになり、その代役を晴翔くんが務めたんです。私が見たのはその回でした。

 その日は大千秋楽でした。劇場の空気が今まで経験したことないくらい白熱していたのを覚えています。舞台はもちろん、客席が。もしミュージカル鑑賞にジャンピング文化があればあの日私たちは地震を起こして隣のMBS本社から訴えられていたでしょう。そのくらい凄まじかった。この類稀なる公演を見届けるという熱量を2階にいても感じました。

 千秋楽というのは、役者にとってただでさえプレッシャーだと思います。私の推しは「いつも千秋楽はうまくやろうと思うけど、気合が入りすぎてうまくいかない」と言っていました。その上4ヶ月のロングラン公演。一年以上のオーディション期間に半年のレッスン。ビリーは自分以外に4人いて、大人のキャストもたくさんいるなかで、大千秋楽の主役を務める。それも代役。大人でもとんでもないプレッシャーです。

 でも晴翔くんは過熱した客席にも一切怯まずに、ビリーを演じきりました。

 彼の、信じられないくらい研ぎ澄まされた表現力のことを覚えています。

 Angry Danceというダンスナンバーがあります。父親からバレエをすることを反対されたビリーが怒りと悲しみの中でタップダンスをするナンバー。プレスコール時点のものですが、以下の動画の4分40秒から見ることができます。

 そもそもタップダンスというのが他に比べても技術を必要とするダンスです。晴翔くんは幼少期ニューヨークでダンスを学んでいたそうですが、ヒップホップ以外は学んでいないとも言っていました。つまりタップダンスは初経験だったはずです。しかも動画を見ればわかる通り、このダンスにはコンテンポラリーの要素も含まれています。

 慣れていない、技巧的なダンスを踊りながら「怒り」「悲しみ」それらの感情を爆発させる。その難しさを思うと私は寒気がします。

 でも晴翔くんはそれを完璧にこなしていた。彼のAngry Danceを見たとき、彼が爆発させた怒りと悲しみの渦に巻き込まれて私は泣きました。彼は広い劇場の2階にいた私を巻き込んで踊っていました。

 物語の最後には、ビリーはElectricityというナンバーを歌い踊ります。ロイヤル・バレエ・アカデミーのオーディションで、「踊っているときはどんな気持ちになるの」と聞かれ「まるで電気のような」と答えるナンバーです。

 この曲を聴いて、ダンスを観たとき、私にも電気が走りました。12歳にして、ダンスに人生の多くを傾けて生きている晴翔くんの生きざまがそこにあったと思います。彼がダンスにかける思いがそのまま歌とダンスに現れて私の眼前で電気のようにはじけたんです。

 ビリー役のオーディションを受けようと思ったキッカケを聞かれたとき、晴翔くんは「いろんなジャンルのダンスを学べると聞いて」と答えていました。踊ることが大好きで、ただダンスを学びたい一心でオーディションを受けたその11歳の子どもの情熱が、すでに踊ることをやめてしまっていた私の胸をひどく揺さぶりました。

 とても技術がある。けれど技術だけじゃなくて、そのダンスで人の心を揺さぶる力がある。ダンスに対して真っすぐで、才能と可能性に満ちている。私が二階席から見た晴翔くんは、そんな少年でした。

 終演後のカーテンコールでも私は彼に心を打たれました。彼は大千秋楽のあいさつを求められて、こう言いました。

和樹の分まで頑張らなきゃってプレッシャーもあったけど、和樹がいつも言ってたように自分らしいビリーを演じました。

 わかりますか? これを聞いたときの客席のミュオタたちの声にならない嗚咽が。12歳の少年が、ですよ! 友人が突然降板してその代役を務める状況の中で、彼の分まで頑張らなければならないとプレッシャーを感じる責任感。その上で自分らしいビリーを演じる舞台人としての意識の高さ。そしてそれが、友人の信念を継ぐことにもなるという舞台によって結ばれた友情。さらにそれを言語化できるスマートさ。

 私にはちょっと信じられませんでした。彼は12歳だったけれど、プロとしての責任感があるんだとまで思いました。私が実際に舞台を見るまで、公式Twitterや共演者のInstagramで見ていた彼は、年相応でちょっとお茶目な男の子でした。お辞儀をするときに一人だけ先に頭を上げちゃってあわててもう一度頭を下げたり、突然親子ほども年齢の離れた共演者の楽屋を訪問して「ただちょっとあいさつに来ただけ」と言ったり、配られたばかりのカンパニーTシャツを着て張り切って写真を撮ったり。かわいい子なんだな、と私は思っていました。

 でも実際にこの目で見た晴翔くんはとてもかっこよくて、輝いていて、特別でした。ダンスをやめてしまって、夢もなく、情熱もなかった私にとって彼は光でした。私は彼の歩む道に栄光ばかりが降り注ぐことを願ってやみませんでした。


 それ以降、私は晴翔くんのことを気にかけるようになりました。2018年、渡韓したと聞いたときも、2021年、オーディション番組に出演すると聞いたときも、この少年の夢が叶うことを心から願いましたし、信じてもいました(このとき私はK-popに対して無知で、投票という制度があることも、日本でLOUDが視聴可能なことも知りませんでした)。

 今、18歳になって、再び私の前に現れた晴翔くんは、いえ、ハルトは、あのときと変わらず輝いていました。

 この記事を読んでくださっている方は、BOYS PLANET 1話はもう見たのでしょうか。ハルトが30回のグラン・フェッテ・ロン・ド・ジャンプ・アン・トゥールナンを披露したのはもう見ましたか? これは彼自身言っていた通りバレエの技です。バレエの中でも最も花形と言っていい、重要な技です。

 前述したように、ハルトは11才までヒップホップしかやってこなかったと言いました。だからバレエを始めたのはビリーのオーディションが初めてのはずです。11歳と言うのは正直、バレエを習い始めるのにはかなり遅い年齢です。

 その上ビリー・エリオットには、30回転のグランフェッテ(回転)を披露するシーンなどはありませんでした。だからあの30回転は、彼がビリー・エリオット以降もバレエのレッスンを続けていた証拠にほかなりません。

 私はそれを、本当にすごいと思いました。

 ビリーとしての経験が、今も彼の中に生きていること。遅くに学び始め、その後も学びを続けたこと。それを彼自身がひとつの武器と認識していること。彼が過去の経験をひとつも無駄にせずに前に進める人であること。

 彼の30回転は、バレエだけを専門にやって来た人の30回転ではなかったけれど、でもちゃんと基礎を積んだ人の30回転でした。顔の切り方もとてもうまかったし(顔を切るとはバレエの基礎のひとつで、体がまわっても顔だけはぎりぎりまで正面に残し、瞬時に首を回してまた体より早く顔を正面に戻す技術のことを言います)、足もよく角度を保っていました。そもそも30回続けて回るのはバレエをしっかり学んでいる人たちにとっても難しい技術です。

 バレエなんてK-popアイドルとしてデビューするためには必要ない技術で、それでも彼はビリーとして学んだことをひとつの武器として自分の中に取り入れた。その貪欲さを、私はほんっとうにすごいと思う。

 ダンスのことだけではなくて。言語についてもそうです。彼はパフォーマンスの前にチームメイトと韓国語で打ち合わせをし、コーチの評価も瞬時に理解して韓国語で受け答えをしていました。他の事務所のパフォーマンスを見ている際も、同じ日本人のアントニーとあえて韓国語で会話をしています。それが有利に働くと知っているから。

 貪欲というだけではなく。14歳で韓国に渡って、韓国語を学び、韓国の高校に入学した。私はそれを覚悟だと思います。彼がダンスに、そしてK-popアイドルにかける覚悟が、言語の面からも見えるような気がしたんです。

 彼は日本にいたらミュージカル界できっと大成したと思います。けれどその可能性を捨てて、頼るものなど何もない状態で韓国に渡りました。夢のために。

 ちなみにそんなハルトが一話で唯一日本語を話したのが、オールスターをもらって仲間から祝福を受けた瞬間の「やばー!」です。オールスターをもらってどれだけ嬉しかったかうかがえます。もうこれ聞いた瞬間泣いちゃったよね。かわいいね。


 12歳、技術の面でもそのほかの面でも輝いていた晴翔は、やっぱり18歳になっても輝いていました。それは彼がこの6年間あきらめず努力し続け、向上心を持ち続けたからだと思います。努力も覚悟も根性も、そして才能も実力も。ハルトは持ち合わせていると思います。

 私にとってハルトは今でもビリーです。ビリーは様々な障害を乗り越え夢を叶えました。ハルトも、きっと夢をかなえることができると信じています。彼の歩む道が花道であると、信じています。

 あの日、梅田芸術劇場で見た電気のようにはじける光。それが私にとってのハルトです。


 というわけで、苦手なオーディション番組も見ようと思います。見もせずに投票するようないい加減なことはしたくないし。まあ一話見て早速寝込んだんですけど(弱すぎ)

 全員が夢を持っていて、努力していて、そんな中で順位がつくのはとてもつらいです。現実って厳しいなあとも思いました。同時に、やっぱり一話を見て確信しました。

ハルト! あんたはめたくそ特別よ!!



「オーディションを受けようと思ったキッカケ」42秒~

「お辞儀をするときに一人だけ先に頭を上げちゃってあわててもう一度頭を下げたり」4分39秒あたり(Electricityのパフォーマンスも素晴らしいので是非冒頭から見てください)

「突然親子ほども年齢の離れた共演者の楽屋を訪問して『ただちょっとあいさつに来ただけ』と言ったり」

「配られたばかりのカンパニーTシャツを着て張り切って写真を撮ったり」

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