見出し画像

神戸北野で推し香水を作ろう

 神戸北野異人館、香りの家オランダ館で推し香水を作ろう!

 始まりは友人の言葉だった。「北野異人館で推し香水作りたいねんけど付き合ってくれへん?」

 オタクたるもの、私も推し香水の存在は知っている。読んで字のごとく、推しをイメージした香水だ。鼻から推しを吸うことができるヤバいブツである。何なら持っている。ただそれは公式が出したもので、オーダーメイドのものではない。

 オーダーメイドで推し香水を作ることができる、というのももちろん知っていた。楽しそうだな~とは思いつつ、そういうオシャンな施設は関西にはないと思い込んでいた。いかんせんこの国は東京にすべてを抱え込みすぎている。東京解体すべし。

 が、友人の言葉によって、私は我が地元、神戸にもそういったオシャンな施設があることを知った。さすが神戸。オシャンで東京などに負けてはいられない。断る理由はもちろんなかった。二つ返事で彼女の誘いを了承したわけである。

神戸北野異人館 香りの家オランダ館
入館料 700円
オリジナル香水 3960円(税込)
内容量 9mL
所要時間 調合に10分程度
予約不要
年中無休



香りの家へ

 さて、我ら神戸っ子(正確には私は神戸っ子ではないが厚かましくも神戸っ子を名乗っている)にはおなじみ、北野異人館であるが、これがクソきつい坂の上にある。神戸とは南に港、北に山を擁する都市のことであり、北野など名前からしてもう坂の上の野なのである。もちろんそれを理解していた私は、もっとも歩きやすいぺったんこのブーツで挑んだ。が、それにしてもきつい。これはもう登山である。普通にトレッキングポールがほしい。しかしこの坂の先にかぐわしい香りが待つのである。あきらめてなどいられない。

 かくして約15分間の登山を終えれば、目の前に青い窓枠がかわいらしい洋館が現れる。今回の目的地、香りの家オランダ館だ。

オランダ館

 ちなみにシティループバスなる観光用のバスも出ているので良い子は是非利用するべきだが、降りてからの坂もクソほどきついのでやはりヒールは避けたほうがよい。

 入館パスポートを購入し、さっそく中へ。中は土足厳禁なので脱ぎにくい靴なども避けたほうがよいだろう。穴あきのタイツにも注意されたし。

 入口からすでにいい匂いが漂っている。案内のお姉さんがどこからともなく現れ、「オリジナル香水の調合はいかがですか?」とたずねてくれた。

「年齢や星座、好きな音楽・花・果物などのデータからあなたの個性にあったオリジナル香水をお創りします。声やしぐさ、人柄の印象も香りに織りこみますよ」

 すごーい!! 声とかしぐさまで香りに織り込んでくれるんだ!! それもちょっと興味あるなあ……と思いつつ、今回の目的は「自分の香水」ではないので断念。代わりにこう尋ねる。

「好きなキャラクターのイメージ香水を作りたいんですけど……」

 その途端、まとう雰囲気ががらっと打ち解けたものに変わるお姉さん。「あ~~はいはいそっちね!! はいはい!!」と席に案内され、アンケート用紙を渡される。

アンケート

 見ての通り、「血液型」「星座」に始まり「好きな花」など知る由もない項目で埋め尽くされている。これは困った。するとお姉さん。

「キャラクターの場合は、すべて想像で書いてください。あなたの想像する血液型、あなたの想像する好きな果物。もちろん公式から出ている場合はそれを書いて下さればいいです。で、『使用している香り』の欄の空白に推しの性格や魅力を書いてください。『一番好きな香りを選んでください』のところは、前に置いているサンプルを嗅いで『推しっぽいな』と思う順番に番号を振ってください。最後にあなたの名前の下に推しの名前を書いて下されば完成です」

 なんと。つまり推しのプロフィール帳を作成するということ。そして出来上がる香水は、究極の「私の考える推し」の香りになるということだ。これは楽しそう。早速記入開始である。

 ちなみに私たちは誰も待っている人がいなかったので時間をかけて記入したが、並ぶことがないとは言い切れないのであらかじめ記入内容を考えてから行ったほうがいいかも。

 なお、次の章は私がだらだらとアンケートを記入しているだけなので読み飛ばしてもらって構わない。

アンケート記入のための部屋。かわいい

アンケート記入

 まず、誰の香水を作るか。これは前日に決めていた。推しは二次元にも三次元にもたくさんいるが、三次元の推しのイメージ香水をまとう勇気はまだないので二次元から選ぶことにする。しかし二次元の私の好みは「ガサツな女」というもので、推したちは軒並み香水などつけそうにない。そんな中、甘い香りがぷんぷんしそうな女が一人。FGOの推し、キルケーである。ここは君に決めた!

 というわけで、まずは血液型占いを参考にキルケーの血液型を想像してみよう。ちなみに私はこの手の占いが大嫌いで今まで履修したことはない。血液型で性格は変わらないというのは科学的にはっきりしていることである。しかし今はそんなことも言っていられない、推しの香りがかかっているのだ。

 まずA型女性の特徴を調べる。責任感が強くマメ。あ~~、もう違うな。全然違う。

 ではB型女性。自由を愛し、好奇心が旺盛……。う~~んこれも違う……かな? なにせキルケ―ときたら長年同じ島に留まり続けた魔女である。アイアイエー島にとらわれ続けたあの魂を自由とは呼べないだろう。

 次。O型。ロマンチストで情に厚い。これは……あるかもしれない。続けて恋愛運のところを読んでみる。「ライバルがいると遠慮してしまう傾向にある」いや~~~違うな!! キルケ―は恋敵を六つ首の怪物に変えるような清々しい女である。というわけで却下。

 残るはAB型だ。「プライドが高いが実はとっても寂しがり屋で繊細」「一途なのでとことん愛しぬく」これじゃないか……!? いろいろ当てはまらないところももちろんあるが、「寂しがり屋で繊細」「一途」ここが気に入った。正確にはキルケーは原典(ギリシア神話)では一途ではないが、FGOでは一途っぽく描かれている。よし、キルケーはAB型に決定!

 続いて星座について考察してみよう。星座占い、性格、検索、と。ていうか今気づいたけど黄道十二星座って12個あるじゃんね。十二って言ってるもんね。12個の星座について検討しないといけないってことですか? め、めんどくせ~。しかしそうも言っていられな以下略。まず牡羊座から見てみよう。

「好き嫌いがはっきりしていて感情をストレートに表す」「やや不器用」「負けず嫌い」「好きなタイプはいわゆるモテ男」

 こ、これだーーーー!! キルケ―、おまえは牡羊座に決定!! ふふ、最初からあたりを引いてしまったな…… はい、バトルフィニッシュ!

 とはいえ一応ほかの星座も確認しておくのが私である。ざっとすべての説明に目を通し、改めて牡羊座の意思を固くする。やはりキルケ―は牡羊座以外ありえない。オデュッセウスとかいう公式モテ男を好きになっているのだから間違いないだろう。

 次は年齢! これもわからん! 一応女神ないし魔女であり、長命の存在であることは間違いない。実際ほかのキャラクターからは「ロリババァ」など呼ばれている模様。

 しかし「ロリ」の言葉通り、まさしく彼女の容貌は少女を通り越して幼女的なのである。それに「この姿でいるのは複雑なんだ。この長い髪も乙女のようで落ち着かない」と述べている。実際の年齢はともかく、ゲームに実装された姿の時の年齢は若い/精神的に未成熟であると考察できるだろう。

 とはいえ「10歳です」と堂々と言うのは私がロリコンと間違えられる可能性があり社会的に危険である。よし、ここは20代に決定だ。

 次は好きな色~? え~ピンクかなあ……髪ピンクだし……と安直な思考に流されそうになるも、回答欄にピンクの選択肢がない。しばらく選択肢とにらめっこして気づく。

「濃紺」がある! これはキルケーの思い人、オデュッセウスの纏う色だ。え~~い腹が立つがここは濃紺ということにしておこうではないか。まことに腹が立つが。もうほんとに腹立たしいんだけど。だいたいオデュッセウスおまえほんと何? あんたあの子の何なのさ??

 閑話休題。次の項目はっと……好きなテーブル……テーブル!? の素材!? なんじゃそれ!? みなさんは推しの好きなテーブルの素材について考えたことがありますか?? 私はないです。

 とはいえここはほとんど悩まず脳直で「大理石」に丸をする。たぶん重厚感のあるほうが好きだろう。うん。

 次は好きな果物。う~ん、キルケーは宝具演出(ゲーム内でのアニメーション演出)でたくさんの果物とともに登場している。どんな果物があったかな~。りんご、バナナ、ぶどう、あと……桃? 桃! 桃がいいじゃんかわいいし! よーしキルケーの好きな果物は桃に決定! あとピーチってひっくり返れば愛のマークって誰かが言ってたもんね! キルケーにぴったり!

 ここからはひたすら脳直でアンケートを記入していく。好きな音楽。やっぱクラシックでは? 好きな香水……甘い感じ……オリエンタルかな~。好きな花。意外とすずらんとか似合うけどな。あの華奢で可憐な花に毒がある感じが。でもキルケー本人はもっと気品があって堂々としたカトレアのほうが好みかも! 好きな服装か~。ドレッシー……と見せかけて意外とスポーティだったり。概念礼装でも登山ルックを身にまとってたし。

 さて。ここまで来たら目の前に置いてあるサンプルを嗅いでみよう。まずGreen。続いてBrown。……うん、香り音痴すぎてまったくわからない。普段から香水を嗅ぎ分けるということをまったくやっていないため三秒後にはさっき嗅いだ香りを忘れている。これはむずかしい。必死でサンプルを嗅ぎ、アンケート用紙に番号を振る。まあ……なんとか……なるだろう!!

 最後に、推しの魅力を空欄に記入する。キルケーの魅力は怪文書や敗北拳やキュケオーンなどさまざまあるけれど、やはり恋に対するスタンスじゃないだろうか。気に入った男を豚に変えてしまう苛烈さもありながら、一度の失恋をサーヴァントになっても引きずり続けるいじらしさ。そういうところがかわいい。というわけで、その旨をつらつらとしたためた。

 さて、あとは氏名、住所、電話番号、推しの名前を記入し、完成。調香師さんに「できました」と伝える。

カウンセリング

 さて、ここからは調香師さんとのカウンセリングである。

「一番好きな『推しの画像』を用意していただけますか?」

 そうきたか! 一番好きなのはやっぱりゲームの立ち絵。の、第二再臨かな~。そそくさとゲームを起動し立ち絵を示す。すると驚いたような顔の調香師さん。わかる。わかるよ。ロリじゃねーかって言いたいんだよね。私も思う。が、それはお互い口に出さずカウンセリングを進める。

「キルケー様はどんな香りがしそうですか?」
「甘い香りです」
「甘いと言うとフローラル、フルーティ、オリエンタルなどのバニラ系、お香っぽいムスクなどありますが、どんな感じの甘さでしょう」

 ちょっとは香りについて勉強してくればよかったかも! と思うが時すでに遅し。しどろもどろになりながら答える。

「オリエンタルかムスク……?」

 フローラルでフルーティというよりはもうちょいこう……蠱惑的で濃厚な……エキゾチックな……言葉を選ばずに言うとエロい香りがしそうなのである。

「なるほど……」

 ロリなのにオリエンタルかムスク……? て思ってるよね。わかるよ。私も変だなって思うもん。

「えっと、『気に入った男を豚に変えてしまう……』」

 あ、そこ音読するかんじ? あっぶね、音読されて恥ずかしいこと書かなくてよかった~。皆様も「使用している香り」の欄に書く「推しの魅力」は音読されても大丈夫な内容にしましょうね!

 さて、読み終えて顔を上げた調香師さん。

「失恋を引きずってるんですね。かわいいですね」
「かわいいんです……」

 限界オタクの鳴き声が出てしまった。申し訳ない。

「気に入った男を豚に変えてしまうんですか? 小悪魔みたいな?」
「はい、男を誘惑する魔女という設定なので」
「男を……? あの……」

 言いにくそうに口ごもる調香師さん。あ、今何考えてるかわかるぞ。

「幼児体型に見えるんですが……」

 だよね。どう見てもロリだよね。でもテクニックには自信あるってキルケー言ってるからさ。
 とはもちろん言わない。

「えっと、魔女なので多分見た目以上に年を取ってるんです。だから幼児ではなくて。でもおばあちゃんでもなくこの姿の時は精神的にもうちょい若くて」
「なるほど、長い時間を生きているけど心は乙女ということですね」

 理解はや!! そして正確!! 読解力EXですか!? あ、ありがてえ~~。

「わかりました、ではこのイメージで調合させていただきますね」
「よろしくお願いします!」

 ワ~~破れかぶれだったけどなんとかイメージを伝えられた! 楽しみ! というわけで、友人も順調にカウンセリングを終え、館内の見学をすることに。……の前に、「お客様のスマホで調合している風の記念写真をお撮りすることができますが」との提案。折角なので二人で撮っていただき、今度こそ館内の見学へ。

完成

 10分ほど館内を見て回っているとあっという間に完成。ちなみにオランダ館は館内もかわいいし写真撮り放題なので楽しい。

応接室

 応接室で調香師さんがサンプルの試香紙を手渡してくれるので、さっそく嗅いでみる。こ、これは……可憐ながらも優美な甘い香り……! イイ!

「ヒヤシンスなどのお花の香りをトップノートに、ミドルノートにはピーチなどのフルーツの香り、そのあとにラズベリーなどのベリー系が香り、ラストノートにはバニラとムスクが香るように調合しています。とても甘い香りの香水です。時間が経てば香りが変わってきますよ」

 その言葉通り、香りはその機微を変えてゆく。始めは清楚な香りがどんどん甘ったるくなり、みずみずしさと同時にスパイシーさも帯びていく。そして最後は濃厚で魅惑的な香りに。つまり……可憐な少女の見た目なのに実は危険な魔女で、素性を知ってしまえば豚にされ愛玩される……ってコト? すげー! キルケーじゃん! 天才!?

 ちなみに友人のほうは「お風呂上がりの推しや……」といたく感動していた。うんうん、よきかなよきかな。

 ちなみに香りについての説明は紙などではもらえないので調香師さんが話している内容をメモしておくことをおすすめする。あと自分が書いたアンケート用紙も返却はされないので写真で撮っておくと見返して面白いかも。

 と、いうわけであとは代金を支払い、品物を受け取って完了。瓶の裏側には「創香者:キルケー様」と書かれている。キルケーのイメージ香水だ~!! ウレシ~!!

完成した香水
「キルケー様」

 なお、本来オランダ館が提供しているのは「自分だけの香水を作るサービス」であって「推し香水を作るサービス」ではない。あまり長々と推しについて語りすぎたり、非常識な依頼をしたり(推しCP香水を作りたいなど)は控えたほうがよいだろう。常識の範囲内で推し香水を楽しもう。

 というか、「自分だけの香水」を調合してもらうのもかなり楽しそうである。友人やパートナーと自分の香水を交換するなどいかにも貴族の遊びではないか。

 以上、神戸北野のオランダ館で推し香水を作ろう! でした。皆様も神戸に足を運ぶ機会があればぜひ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?