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中之島美術館『デザインに恋したアート♡アートに嫉妬したデザイン』

 5/21、大阪中之島美術館のデザイン展へ行ってきました。予定していたわけではないんですが、お隣の国立国際美術館に行ったので、せっかくだし気になってた中之島美術館の展覧会も見てみよう♪というかんじで。

 おもしろかったです。デザインとアートの垣根を問う展覧会で、会場に投票用のデバイスが設置されてるんですよね。この作品はデザインか、アートか、数直線上のしっくりくる位置を選んで投票。すると集計されて、出口で結果がわかる……という。またリーフレットと鉛筆が配布されるので自分の手元にも結果を残しておけます。

 デザインか? アートか? と改めて考えると難しくて、ときどき混乱しながら鑑賞しました。まず冒頭、大きなキャンバスに「恋する美術だ。」という文字だけが並んでいる作品が展示されていたんですが……これは……なに? あきらかにタイポグラフィなのでデザインだと思うんですが。キャンバスにデザイン、するか? ポップアートの文脈として捉えるべきなんでしょうか……。悩んだんですけど直感は裏切れないのでデザインに投票しました。

 その隣に草間彌生の作品があってうわ~~~と脳髄揺さぶられました。うまい。草間彌生の作品って正直何も知らずに見たらデザインなんですけど、「草間彌生」というネームバリューがあるから一瞥で「アートだ」って思っちゃうんですよね。作家の名前で判断してしまう。自分の固定観念を突きつけられました。これ冒頭に持ってくるのいいですね。

 作家の名前で判断してしまうから、横尾忠則のポスターが出てくると思考がかき混ぜられるんですよね。横尾忠則のことはアーティストだと思ってるけど、ポスターはデザインの最たるものだという固定観念があるから……。

 そのあとも自分の固定観念と戦いながら鑑賞するような感じで、

 これはどう見てもデザインに見えるし、

 これはどう見てもアートに見えるんですが、

 これは……デザイン? 椅子なんだからデザインだろと思う反面、やたらアーティスティックに見えるというか。座りにくそうな椅子だなあという印象で……。アートですと言われたほうが納得する見た目です。あとで調べたら作者の剣持勇は著名なインテリアデザイナーらしいので、デザインということになるんでしょうか。

 もっと困ったのがこちら。なんじゃこれ~~。しかも調べてみたら作者の吉岡徳仁は「デザイナー、アーティスト」。どっちかわかんないじゃん!

 こうなってくるとそもそも「デザイン」「アート」という二項対立は正しいのか? という話になりますよね。最近デリダをかじっているので、練習の意味ですこし脱構築的に考えてみたいと思います。

 アートはデザインより優位に立つとされ、デザインを排除し外部としてきました。けれど実際はアートの内部にも原デザインとでも呼ぶべき根源的なものがあって、両者は明確な二項対立関係にはない。アートとデザインの間の差異は、実際には固定化されておらず常に生み出され続けていて、それゆえ「これがアート」「これがデザイン」と正確に言い表すことはできない(要するに現前は遅延し続ける)。

 こんな感じになりますかね……? あまり自信はありませんが。ただこの立場に立つと、純粋なアートと呼べるものはなくて(そしてまたおそらくは純粋なデザインと呼べるものはなく)どんなアートもあるいはデザイン的なのかもしれません。だからと言って「デザインとアートに境界はない」と言ってしまうのはおそらく間違いで、やはりその境界は探られるべきなのだと思います。なぜなら脱構築は決定の思想だから。

 そんな感じで興味深く見たのですか、

 最後の展示室のこの展示がすごく象徴的でした。草間彌生だからアート!と言いたいのですが、アートが施されているのがなんと携帯電話という。おもしろいですね。アートでもあり、デザインでもあり、でもやっぱりどちらかではあるのだと思います。

 最後の部屋で見られる結果なのですが、結構「100%アートorデザイン」と投票している人が多くて驚きました。みんなあんまり悩まずにさくっと決められるんだね……。私決められなくてアートとデザインの中間ぐらいで投票したのが何個かありました。


 ちなみに一番面白かったのはこちら。

《恋文》 小川信治 2006年

 有名なフェルメールの絵画のパロディですね。たしか数年前に大阪に来てたと思う。フェルメールの作品では中心に二人の女性が書きこまれているんですが、その主役二人が不在になっています。恋文自体も、恋文を受け渡す主体も不在で、それでも《恋文》と名付けられているのが不思議です。

 フェルメール関係なく独立した油彩画として見ればアートですが、フェルメールの作品から要素だけを抜き出して反復したものと見ればデザインに見えるかもしれません。ただ私はアートに投票しました。「不在」自体がこの作品のテーマだと思ったからです。この作品の主眼は反復された要素としての部屋にあるんではなくて、あくまで「主体の不在」なんじゃないかな~と。


 おもしろい展覧会だったのでたまにはこういうのがあってもいいな~。楽しかったです。行けてよかった!

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