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東京都現代美術館『クリスチャン・ディオール 夢のクチュリエ』

  3/9、ディオール展へ行ってきました。

 めちゃくちゃ好評だということは聞いていたのですが、熾烈なチケット戦争が行われていることなどはつゆ知らず。のこのこと3/8の午後に行って撃沈し、翌日出直すことになりました。おかげで急遽滞在を一泊伸ばすことになり……宿取れてよかった+帰りの新幹線取ってなくてよかった。個人的に美術館はふらっと行ってふらっと入れるくらいが好きなんですが、好評すぎるとたまにこういうことが起こるんですよね。しかたないけど。

 それはさておき、評判通りの見ごたえある展覧会でした。たのしかった。いい空気を吸った気がします。

 クリエイティブ・ディレクターごとの展示がやっぱり見てて楽しかったです。ディレクターごとにそれぞれの特色はあるんだけど、全体を貫くメゾンの伝統もはっきり見えて。ディオールってやっぱりエレガントで良いなあと思いました。

 ラフ・シモンズやマリア・グラツィア・キウリの現代性というか、女性をできるだけ縛りつけない感じ、好きです。とくにキウリは「男も女もみんなフェミニストでなきゃ」という有名なスローガンをデザインに取り入れるなどしてメッセージ性もわかりやすいですね。彼女はメゾン初の女性ディレクターですが、やっぱり女性デザイナーの作品はほかとは違うなと思います。女性の目から見て一番着たいなと思えるのはキウリの作品でした。ほかのデザイナーのドレスもみんな素敵なんですが着たいとは思えないんですよね。

ラフ・シモンズ
マリア・グラツィア・キウリ

 あと2020年大阪のディオール展で大好きだったキウリの2017年の春夏コレクションがまた来ててめちゃくちゃテンション上がりました。かわいすぎる。

手前 キウリ 2017年春夏コレクション
奥 ガリアーノ コージ・サン

 鑑賞という意味では、ガリアーノの作品はやっぱり目が楽しいです。文化の盗用で問題になったデザイナーですが、やっぱり彼のセンスは天才的なのではと素人目にも思います。2020年大阪のディオール展や、このあいだの神戸ファッション美術館の『祝祭の景色』でも目を引いたのはガリアーノの作品でした。

ジョン・ガリアーノ

 イヴ・サンローランの当時にしてはアヴァンギャルドだけど現代からはクラシカルなシルエットとかも最高にかわいかったです。

イヴ・サンローラン

 でもやっぱり最後にクリスチャン・ディオールが登場したときの真打登場感が大好きすぎて。くらくらしました。結局ディオールの作品が一番かわいい……抗えない……。何なんでしょうかこの「女性の憧れ」感。もはや偶像というか、イデア的ななにかを感じます。女性の憧れの全部はここにつまっている。

クリスチャン・ディオール
クリスチャン・ディオール


 「女性らしさ」というものについては、私は懐疑的なたちです。たおやかさ? ナンセンス。優美で可憐? ご冗談を。女は男と本質的には何も変わりませんし、男が憧れるものには女も憧れます。その逆もしかり。

 しかしその一方で、たしかに「女性らしさ」と表現するしかないような優美で可憐な世界観がある、とも思います。それは代替の言葉が見つかればすぐに改められるべきですし、男性に一切当てはまらないのかと言えばまったくもってそんなことはないのですが、今のところ「女性らしさ」という言葉で表現するのが最善のようです。女性らしさ、女性の憧れ。ディオールが体現しているのは、そんな難しくて曖昧な世界観だと思います。

 第一次世界大戦後、ココ・シャネルはファッションによって女性を解放しました。コルセットは葬られ、動きやすいスーツが女性のスタンダードになりました。その20年後にディオールが「女性らしさへの回帰」を求めてニュールックと呼ばれる、ウエストを細く絞りヒップの丸みを強調するコレクションを発表したことは、わずかに皮肉ですが当然の帰結でもあるように感じられます。

 それは、革命とは長きにわたる旧時代と新時代の暴力的な相克だからです。直線的な革命などありえません。新時代の理想を受け入れられない旧時代の人々は、旧時代へと回帰しようともがきます。行きつ戻りつ、そしてゆっくり、時間をかけて新時代の理想が浸透していきます。

 ディオールのやったことはある意味で旧時代への回帰で、同時になんとか新時代の中に旧時代の美学を息づかせる努力だったのだと思います。だって「女性らしさ」は、廃れてしまうにはあんまり惜しいから。頭ごなしに否定されてしまうには、あんまり人を惹きつけるから。

 クリスチャン・ディオールのドレスを着たいとは思いません。けれどたしかに憧れます。窮屈で、女性を縛り付けるデザインにも、抗えない美学があります。

 ココ・シャネルの革命から100年が経ちました。私たちは、いまだに彼女の革命のさなかにいます。しかし確実に新時代へと進んでいます。ラフ・シモンズが「女性は動きにくい服には見向きもしない」と言ったり、マリア・グラツィア・キウリが「衣服は現代か」というスローガンをデザインに取り込んだりしたのはその証左です。今ディオールというメゾンは、創設者の理念を今に繋ぎつつも、「女性らしさ」を現代的に翻案する仕事をしているのだと思います。


 展覧会の話に戻ります! 個人的に一番楽しかったのはトワルの展示です。トワルというのは立体カンヴァスのことで、白い布によって作られる作品の型、なのですが、この展示を見てほしい……。最高じゃないですか?

 部屋一面トワル。浮遊するトワル。夢の世界みたい。私はトワルが本当に大好きで、なんなら完成した作品よりもロマンを感じるくらい好きなのですが、この展示方法は夢のようでした。未完成の美学というか、特有の形状を有しながらもまだ何者でもない個性の曖昧さというか、真っ白のトワルからしか得られない栄養があります。


 もうひとつ目を奪われた展示室が「ミス・ディオールの庭」です。ドレスを花にたとえ、庭園のようにディスプレイした展示室。鏡張りの床はさながら池で、そこに橋が架かっているさまはモネの絵画を思わせます。

 かわいすぎる……。あざやかなドレスがグラデーションになっているのはよく手入れされたお庭のようで素敵。ひとつひとつの作品に注目してみても繊細で美しいものばかりでとても目が楽しかったです。


 一日目に入れなかったとき、滞在期間を伸ばしてまでこの展覧会に行くかかなり迷ったのですが行って損はなかったです。これは人気出るのも仕方ない。楽しかった!

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