テクノ・ダンスホール/ミュータント・ラガの先駆け～Eight Frozen Modules～

2010年代中頃からLow Jack、Mr.Mitch、East Man、Lueke、SeekersInternational、Low End Activist、Gaikaなどによってテクノ～インダストリアル～アンビエント〜グライムをダンスホール・レゲエに落とし込んだエクスペリメンタルな作品が各国から登場し、それらはテクノ・ダンスホール～インダストリアル・ダンスホールといったカテゴリーを生み出した。

Mr. Mitch’s “Techno Dancehall” Mix Captured a Musical Movement in Progress

勿論、これらの実験的なダンスホール・レゲエが登場する以前から様々なジャンルを意図的に交配させた異形のダンスホール・レゲエは生まれており、The Bugを象徴的な存在としてStereotype、Timeblind、DJ/rupture、Ghislain Poirier、David Last、Modeselektor、さらに辿ればBill Laswell、The Rootsman、Sub Dub、Supersoul、DJ Spooky That Subliminal Kid、Alter Echo(Sound Secretion)といったアーティスト達がその土台を作り上げ、レーベルでいえばMo Waxのコンピレーション『Now Thing』やWordSound、Metatronixのカタログにもテクノ/インダストリアル・ダンスホールへと繋がるものがある。

だが、これらの流れに欠かせない重要なアーティストがもう一人いることを多くの人は知らない。

LAを拠点に活動している作曲家/エンジニアのKenneth James GibsonによるソロプロジェクトEight Frozen Modulesはレフトフィールドなダンスホール・レゲエの可能性を大きく広げた功労者であると思う。

Eight Frozen Modules(8FMとも)は、エレクトロとIDMをダンスホール・レゲエとミックスした作品を2000年代にPlanet-MuやShockoutから発表し、それらの作品は特にブレイクコア・シーンに大きな影響を与えた。
IDMのカットアップ手法を駆使してスライスされまくったラガマフィン、ダンスホール・レゲエのダーティーなグルーブをグリッチ化させた変速ビート、本質的なダブの精神性をラップトップ上で表現した三次元的な空間処理などを用いたEight Frozen Modulesの楽曲は今こそ再評価すべきだろう。

Kenneth James Gibsonは、[a]pendics.shuffleやDublonerなどの名義でダブ～ハウス～アンビエントをクリエイトし、今も精力的に作品を発表している。

Eight Frozen Modulesとしては、1998年に1stアルバム『The Confused Electrician』をCity Slangから発表。当初はダブをベースとしてアブストラクトやブロークン・ビーツの楽曲を製作。徐々にIDMやドリルンベース的な要素を強め、アメリカのブレイクコア・シーンとの関わりが増えていき、2003年にKid606とのスプリット・レコードを発表。

そして、2004年にTerminal Duskのコンピレーション『Crimson』に提供した曲でブレイクコア・ヘッズの注目を掻っ攫うことになる。

翌年、Planet-Muから発表された4曲入りの『DJ, Riddim & Source EP』でEight Frozen Modulesのミュータント・ダンスホール・スタイルが開花。
今作が与えた衝撃は凄まじく、Eight Frozen Modulesの知名度は一気に広がっていった。

同年、ジャマイカのレゲエ・ディージェイの音源をオフィシャル・リミックスするShockoutの12"レコード・シリーズにGhislain Poirierとのスプリットで参加。そして、この時期の集大成的なアルバム『Crumbling And Responding』と『Rejected Resident EP』の2枚の作品を発表。

Eight Frozen Modulesのミュータント・ダンスホールには数々の電子音楽のギミックが注ぎ込まれており、二層三層に作り込まれた曲には当時から多くの可能性が感じられていたが、近年のテクノ・ダンスホールにあるクリエイティビティやフィーリングに通じる部分がある。

この頃、Modeselektorも「Tizzy Tixbown Riddim (Mdslktr's Babielon Version)」や「Black Barbie (Modeselektor」といったリミックス・ワークでブレイクコアナイズしたダンスホールを披露しており、「Silikon」というデジタル・ダンスホールの傑作も残していた。テクノやエレクトロのバックグラウンドを持ったアーティストによる型破りなダンスホール・レゲエの道が切り開かれていった重要な時期であり、Eight Frozen Modulesの功績も忘れてはならないだろう。