Hammer BrosとKAK-A Recordings
今回は、日本の最初期ハードコア・テクノ・シーンで活躍したユニットHammer Brosと、彼等のレーベルKAK-A Recordingsについて纏めてみよう。
Hammer Brosには自分も多大な影響を受けており、アルバム『Air Raid Your Ass!』を聴いていなければ今の自分はいないと断言出来る。Hammer BrosとKAK-A Recordingsが纏っていた圧倒的な存在感は凄まじく、時代を超えて響くものがあり、彼等のコンセプトや世界観に強く魅了され自分は未だ彼等の後を追いかけ続けている。
Hammer Brosは現行の国内ハードコア・シーンの土台を作り上げた最重要ユニットであり、その影響は音楽以外にもデザインやアパレル関係者にも及び、多くの熱狂的な支持者が国内外にいる。その一例として、オランダのFFFはリアルタイムでHammer Brosに影響を受けたアーティストの一人であり、DJ Hardnoizeと共にトリビュート・ソングを作っていた。
Hammer Brosの活動歴については『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』にて本人達にインタビューをしているので、気になった方はそちらを見て頂きたい。ここでは去年立ち上げられたKAK-A RecordingsのBandcampや過去の音源をメインに紹介していき、彼等の功績を伝えられればと思う。
Hammer Bros結成とKAK-A Recordings始動
Hammer BrosはShit da Budo(MC Shit B)、Tatsujin Bomb、Tokyuhead(Librah、DJ Lib) によって1994年に結成。各メンバーはDJとしても活動していた。
伝説的なフリーペーパー『裏口入学 '83』の発行を手掛け、海外のハードコア・テクノの情報を積極的に紹介し、地道な活動によって国内ハードコア・シーンの土台を作る。
1995年にHard Core Baby Recordsが製作した日本のハードコア・テクノにフォーカスしたコンピレーションCD『Hard Core Baby Volume 1』にHammer Brosはフィーチャーされ、「The Ninja」「Let It Be Harder」「Air Raid Your Ass! (Remix)」の3曲が収録。
同年、ドイツのThe Speed Freak主宰レーベルShockwave Recordingsから同じく日本のハードコア・ユニットOUT OF KEYとのスプリット・レコード『Hammer Bros vs out of Key - Vol. 1』が発表。Shockwave Recordingsの名物コンピレーションCD『Braindead』にもHammer Brosの楽曲は収録され、翌年に続編『Hammer Bros vs out of Key - Vol. 2』も発表されている。
現在、Shockwave Recordingsのアーカイブをデジタル販売しているRe:Fusion CollectiveのBandcampにてHammer BrosとOUT OF KEYのスプリットが入手可能である。
Hammer Brosは初期スピードコア/インダストリアル・ハードコアやドイツのハードコア・テクノ/ダーク・レイヴを模範としながらも、自国のサブカルチャーをハードコア・テクノと結びつけ、日本独自のスタイルを当初から確立しており、コミカルであったりシリアスであったりシニカルであったりと、様々な視点から自分達の音楽を作り上げていた。
1996年にKAK-A Recordingsは第一弾作品として、Hammer Brosの12"レコード『Shin Gen EP』を発表。少数枚数のみプレスされたレアな一枚である。第二弾は海外のハードコア・ユニットBSE DJ Teamの12"レコード『Hardcore Disease EP』をリリースする。
KAK-A Recordingsのサブレーベル的な立ち位置と思われるミックス・テープ・レーベルHillpoint 417とメガネレコーズも運営しており、Hammer Brosの面々やJAP HARDCORE MASTERZ TEAMのメンバーのカセットを発表していた。
活動休止と再始動
Hammer Brosは海外のハードコア・シーンとダイレクトに繋がった最初の世代でもあり、彼等の作品はShockwave Recordings以外からもリリースされている。
1997年にはアメリカのDigitalhut Soundsから12"レコード『Police Story』と、ドイツのBrutal Chudがリリースした2枚組LP『How To Kill All Happy Suckerz』にNasenbluten、Micropoint、DJ Freakなどと共に参加。他にもArcadeやTerrordromeのコンピレーションCDにも楽曲が収録されている。
90年代後半になるとKAK-A Recordingsはドイツのアンダーグラウンド・ハードコアとの共鳴を深めていき、ドイツのアーティストが参加した『F(r)ucksausen EP』と『Haldensleben Vs. Kamata - T.B.R. Vs. KAK-A Wolves』という二枚のコンピレーションLPを発表する。
同時期、日本のハードコア・テクノを取り囲む状況は大きく変化しつつあった。
WRENCHやCoaltar of the deepersの初期作品を発表していたオルタナティブ・ロック/ハードコア系レーベルZK Recordsは、1997年にHammer Brosの7"レコード『1to3for Hiroshima EP』を発表。
その後、ZK Recordsのサポートを得てKAK-A RecordingsとBass2 Recordsを母体としたハードコア専門レーベルKill The Restが始動。第一弾作品として、Hammer Bros、OUT OF KEY、2 Terror Crew、Play Boyz(Psyba & Yoji Biomehanika)、Siesteなどが参加したコンピレーション『The Last of the Mohicans』を発表。Quick Japanのハードコア特集でHammer Brosのインタビューが連載されるなど、広範囲に渡って徐々にハードコア・テクノが日本でも知られ始めていた。
そして、1998年2月に行われたDJ Paul、DJ Panic、Euromastersの日本ツアーGabba Stormの東京公演でのライブを最後にHammer Brosは活動を休止する。
活動休止後は10 Yard FightやKak-a Shadow Augustaといった名義での楽曲発表やライブ/DJプレイを披露しており、2000年にDJ Lib & MC Shit B名義で12"レコード『It's Tight Like That Remixes』をKAK-A Recordingsから発表。
その後、2006年3月に開催されたX-tream Hardにて8年振りとなるライブを披露する。(2003年か2004年のHardcore Championにシークレットで急遽出演していたのを除く)
同年に過去の音源を纏めたベスト盤的なアルバム『Air Raid Your Ass!』を発表し、2000年代の国内ハードコア・ファンにもHammer Brosの強烈なハードコア・サウンドが知れ渡った。
2010年代に突入してからHammer Brosとしてのライブ活動を再開させ、J-Core Core!!やCSRのコンピレーションに参加。Tatsujin Bomb氏とLibrah氏はDJとしてハードコア・イベントでDJプレイも行っている。
また、KAK-A RecordingsのWebサイトでは無料で楽曲をリリースしており、過去の写真なども多数公開されている。
2021年にKAK-A RecordingsのBandcampが立ち上げられ、幾つかの楽曲が配信中。『ハードコア・テクノ・ガイドブック』の発売記念としてDOMMUNEで番組を企画した際には、Librah氏にトークとDJでご出演していただいたのだが、当日のDJセットがmixcloudにて公開中である。
かなり駆け足で入手出来る音源をメインに紹介したが、他にもまだまだ知られるべき作品がある。興味が沸いた方は是非とも、ここで紹介した音源から深く掘り下げてみて欲しい。
日本にハードコア・テクノのシーンが出来上がるずっと前、ほとんど何もなかったと言える所から活動を始め、海外と繋がり作品を発表し、世界のハードコア・シーンに日本の存在を気づかせたHammer Brosの功績は計り知れない。
現在、日本には数多くの素晴らしいハードコア・テクノのプロデューサーが活動しており、今までに幾つもの傑作を生み出してきた。非常に多種多様なハードコア・スタイルが日本にはあり、それをサポートする心強いリスナーがいてくれている。現行のハードコア・シーンに関わっている人々、そしてリスナーの方々にも、この土台を作り上げた偉大な先人達の一員であるHammer Brosの作品に是非触れてみて欲しい。
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