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現行UKハードコア/インダストリアル

この数日、UKインダストリアルの考察をしてきのには幾つか理由がある。
2020年はUKハードコアにとっても多くのリリースがあり、改めてUKハードコアの特殊性に魅了された。PRSPCT XTRMからリリースされたThe DJ Producer『Cant Describe It B/W Can't Fuck With Me』には心の底から感動し、Dataklysmの作品も素晴らしく、Hellfishは相変わらず楽しませてくれた。そして、2020年も終わりに近づいていた頃、PRSPCTから放たれたDolphinのアルバム『Ebbs & Flows LP』で、僕はUKハードコア沼に再び深く深く浸かる事になり、以前からの疑問であったUKハードコア/インダストリアルを一度文字化してみたくなったのである。
UKハードコアについては記録したい事が余りにも多く、キリがないので今回で終わりにする。最後は現行のUKハードコア/インダストリアルについて書き残しておこう。

UKハードコアのオルタナティブ化を進めたDolphin
まず始めに、自分含む多くのUKハードコア・ファンをロックしたDolphinのアルバム『Ebbs & Flows LP』を紹介する。前作『Information Asymmetry』を超える壮大なスケールのアルバムとなっており、Dolphinのアーティストティックな側面が深みを増している。Dolphinの特徴といえばエレクトロニカやブレインダンスに通じるメロディアスなUKハードコア・スタイルであり、それによってオルタナティブなハードコア・アーティストとしてハードコア・シーン以外からも支持を集めていた。DolphinがNinja ColumboやKomplex Kommunicationsからリリースしたシングルやアルバム『Information Asymmetry』を聴けば解かるだろう。
『Ebbs & Flows LP』ではDolphinの作曲レベルが大きく成長している事が、今作のトピックの一つだと思う。表面的にドラマチックなだけじゃない、ストーリー性があってリスナーの心を引き込むストリングスとメロディ、ダンスミュージックとしての機能性を優先しながらもクラブ・トラックだけには収まらない変化自在のビートによって、まるで映画を見ている様な体験が出来る。メロディも更に表情豊かになり、サウンドデザインは以前より視覚的になっているのもあって、Dolphinが『Ebbs & Flows LP』で表現しようとしている世界観が見えやすく感じやすい。何故だか、『Ebbs & Flows LP』を最初に聴いた時にTwo Fingersの『Stunt Rhythms』に近い印象を受けた。Amon Tobinの劇画的なサウンドデザインと生々しいグリッチに近いテイストがあるからだろうか。『Ebbs & Flows LP』は少しだが、グリッチ・ベース系との親和性もあるのが興味深い。
収録曲はどれも完成度が高く、1曲目から16曲目までしっかりと繋がりがあり、アルバム全体を通して1曲という感じがする。16曲74分なので普段シングルやEPサイズに慣れ親しんでいる人にとっては、このボリュームを通して聴くのは難しいかもしれないが、時間のある時に最初から最後まで飛ばさずに聴いてみて欲しい。その価値は十分にある。


UK.ハードコアのメロディ
UKハードコア・シーンでメロディアスな作風を作り続けているのがDolphinであるが、HellfishやThe DJ Producerも素晴らしいメロディを使ったトラックを発表している。
Hellfishは90年代にSecret Squirrel名義などでハッピーハードコアを制作していたのもあってか、キャッチーで何処となく哀愁を感じさせるメロディを使う時がある。2017年にリリースした『Kildem』がまさにそうだろう。The DJ Producerはリアルタイムでブリープ・テクノの出現を体験しているのもあり、彼のトラックにもブリープ・テクノ的なメロディやサウンドが反映されている。「Witch Hunt」や「Positive Outlook」などがそうだろう。DiplomatがDeathchantからリリースしたシングルにも、同じ様なテイストがある。彼等のトラックにはThe Black DogやLFOとも重なる部分があり、イギリスのダンスミュージックの根深く濃い血脈が浮き出てる。
UKハードコアの第二世代的な立ち位置であるThe Teknoistはエレクトロニカの要素をふんだんに使い、90年代後期のブレインダンスやドリルンベースの泣きメロ感をUKハードコアに落とし込んでいる。Teknoistの代表曲である「Lion Girl」や「Richie's Breakcore Love Song」はエモーショナルなハードコアの傑作として、今も眩く輝いている。Teknoistの盟友であるScheme BoyもブレインダンスとUKハードコアを合体させたスタイルであり、2007年にリリースされた『The Section 20 EP』はハードコア化したSquarepusherの様でもあった。


現在のUKハードコア
現行のUKハードコア・シーンでは、メロディアスなトラックよりもインダストリアル・ハードコアやドラムンベース/クロスブリードをミックスした攻撃的なトラックが多く、UKハードコアの総本山DeathchantはRaxyorやKhaoz EngineのリリースでUKインダストリアルと呼べるスタイルにも特化してきている。だが、レーベルオーナーであるHellfishのリリースはインダストリアル・ハードコア的なエッセンスもあるが、UKハードコアそのものである。DJ AkiraとHellfishが展開しているFish And Rice Recordingsは、UKインダストリアルというスタイルの代表的なものであり、ここにUKハードコア/インダストリアルを分ける要因が存在しているのではないだろうか。
Oblivion Underground RecordingsはDeathchantとも違うUKハードコア・スタイルにフォーカスしており、Dustrializer、The SATAN、Deathmachineによるハイレベルなレコードを発表。新人アーティストを積極的にサポートしており、ハードコア・シーンの大御所アーティストのインタビューやディスカッションを動画配信して、ハードコアの魅力やシーンで活躍する為の知識をシェアしている。
以前から気になっていたが、UKハードコア・シーンにはニューカマーが登場する機会が他のサブジャンルよりも少なく、出て来たとしても数枚のシングルで終わってしまうケースもある。インダストリアル・ハードコアもそうだが、そのシーンで活躍するアーティスト達の作品は凄まじく完成度が高く、まだキャリアのないニューカマーがそこに入り込むのは相当大変だろう。現状クラブやフェスでの体験が出来ないのは痛いが、Oblivion Underground RecordingsやPRSPCTの動画配信によって知識を得ていき、技術面での問題をクリアしていくニューカマーが増える事に期待したい。


個人的な意見であるが、少し前までUKハードコアというジャンルはその特殊性もあり、イギリス以外の国で作られたUKハードコア・スタイルのものが認められる(UKハードコアとして)事は少なかった気がする。イギリスから生まれたものが真のUKハードコアであり、それ以外の国から生まれたものは、UKハードコアというカテゴリーに入れられる事は稀であったと思う(もちろん、例外はある)。だが、近年はその境界線も無くなってきている様に見え、UKハードコアは90年代にフレンチコア勢と邂逅した時と同じような瞬間を迎えているのかもしれない。UKハードコア自体が進化するというよりも、UKハードコアが様々なハードコアのサブジャンルに溶け込んでいき、ハードコアに自由さを与えている部分もあると感じる。
2021年はニューカマーの登場にも期待しつつ、UKハードコアの変わらぬ特殊な魅力を追いかけ続けたい。


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