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Meat Beat Manifest『Radio Babylon』

ブレイクビーツやテクノといったダンスミュージックからデジロックやインダストリアル・ロックにも影響を与えているイギリスのMeat Beat Manifestが1990年にリリースした名曲「Radio Babylon」について纏めてみる。

Meat Beat Manifest(以降MBM)はSchaft、Boom Boom Satellites、Air(車谷浩司)、Gariといった日本のバンドへのリミックス提供で国内での知名度も高く、映画『マトリックス』に彼等の曲「Prime Audio Soup」が使われたことで、その名は広く知られていると思う。

MBMというとデジロックの先駆け的な紹介をされていたのと、WAX TRAX!や Nothing Recordsからの音源リリース、Nine Inch Nailsのリミックス・ワークなどでロック系のフィールドで語られることも多いが、Raveミュージックにも大きく関わっており、その後展開される様々な派生ジャンルにもMBMの遺伝子は流れ込んでいる。その中でも「Radio Babylon」の影響は非常に大きく、この曲が無ければ生まれなかった曲も存在する程である。

「Radio Babylon」はブレイクビーツ・ハードコア時代にはDJ Hype & DJ Clarkeeのミックステープに使われ、その後もSpecial Request、Photek、AutechreのDJミックスでもプレイされるなど、時代とジャンルを超えた名曲として鳴り響いている。

1990年にPlay It Again Sam Recordsからリリースされたシングル『Helter Skelter / Radio Babylon』はカップリングの「Helter Skelter」も重要度が高いが、今回は「Radio Babylon」のみにフォーカスする。

「Radio Babylon」は1989年に製作された曲。ビートにはクラシックなBobby Byrd「Hot Pants (Bonus Beats)」を再構築し、印象的な"Woo, Alright"と"Babylon"のフレーズはBoney MとCheryl Lynnのディスコから、ダブステップでも頻繁に使われる"Riddim full of culture y'all"のフレーズはMikey Dreadからサンプリングされている。
様々なエフェクトが交わったサイケデリックなビートにはアシッド・ハウスとダブの高揚感が混入されており、そこにヘヴィーウェイトでダビーなベースラインが重なってグルービーにループしたトラックに、誘惑的なフレーズが合わさって極上のトリップ・ミュージックが完成している。
80年代のインダストリアルとポスト・パンクの質感、アシッド・ハウスの手法、ダブのメンタリティが軸となって出来上がったのが「Radio Babylon」であり、ジャングルのプロトタイプとも称されている。

「Radio Babylon」の優れた要素の一つに、サンプリングソースとして名曲の誕生にも関わっていることがある。
The Prodigy「Charly」とThe Future Sound of London「Papua New Guinea」は「Radio Babylon」のベースラインを、Cubic 22「Night in Motion」ではビートをサンプリング。この3曲はRaveミュージックを代表するクラシックであり、3曲ともに「Radio Babylon」のリリースから一年後の1991年にリリースされていることから、この曲が当時どれだけプロデューサー達に影響を与えたのかが伺える。
The ProdigyのLiam Howlettは「Radio Babylon」からの影響を公言しており、Mix CD『The Dirtchamber Sessions Volume One』や『Back To Mine』に「Radio Babylon」を収録。最近ではサイケアウツGが「Babylon Bass」で「Radio Babylon」を再構築していた。

ベースラインやビート以外にも、フレーズ単位でサンプリングしているものも含めれば「Radio Babylon」から生まれた曲は相当な数になるはずであり、この1曲だけで幾つもの名曲の元となっている。

「Radio Baylon」には複数のバージョンが存在する。
MBMのEP『 Version Galore (All Versions In One)』には「Radio Babylon (Space Children Intro Mix) 」と「Radio Babylon (Version Galore) 」が収録。1993年にリリースされた『Peel Session』にはライブバージョンが収録され、1997年にNothing RecordsからリリースされたMBMのアメリカ向けの編集盤CD『Original Fire』にLuke VibertとThe Orbによる「Radio Babylon」のリミックスが収録。
どのバージョンも素晴らしいが、やはりオリジナル・バージョンには特別なものが感じられる。Luke VibertはBoiler Roomでオリジナル・バージョンの「Radio Babylon」をプレイしており、この曲は未だ世界中のDJ達にプレイされ続けている。

「Radio Babylon」だけにフォーカスしたが、MBMにはまだまだ歴史的な名作が多くあるので、今後他の作品もピックアップして記録を残していきたい。



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