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D-JUNGLE/ドイツのジャングルとブレイクコア

先月末、ブレイクコアとレフトフィールドなドラムンべース/ジャングルの発展に多大な影響を与えたドイツのChristoph de Babalonが新作『Ach, Mensch』を発表した。1994年にレコード・デビューを果たして以来、Christoph de Babalonの音楽は常にジャングルとアンビエントがコアパートにあったが、『Ach, Mensch』でも現代的なドラムンベース/ジャングル〜アンビエント/ネオクラシックの要素を巧みに取り込みながら彼が長年に渡って追求していたスタイルが更新された傑作を生み出していた。

同じく先月にはドイツのブレイクコア/ハードコア・ドラムンベース・アーティストAmbossの未発表曲をまとめたコンピレーション・アルバム『Basic Training』が発表されている。AmbushやPraxisの影響下にあるハーシュなブレイクコアをメインとしており、曲の深部には90年代中頃にAlec Empire達が展開していたD-JUNGLEとの繋がりを見出すことができ、ドイツのアンダーグラウンド・シーンの血筋の濃さが垣間見えた。

去年10月にAlec Empireは自身のBandcampにて1992年から1994年に掛けて作られていたジャングル・トラックをまとめたコンピレーション・アルバム『Gang Wars』を発表。今作はデジタル・ハードコアの原型となるハイスピードなハードコア・ジャングルがぎっしりと収録されている。これらのジャングル・トラックは90年代にAlec Empireが残したミックス・テープにも幾つか収録されており、マニア達はその秘蔵のダブプレートがリリースされる日を長らく待っていた。『Gang Wars』はD-JUNGLEとカテゴライズできるトラックで構成されており、D-JUNGLEの特殊性を上手くパッケージングしている。

少し前になるが、ドイツのオールドスクール・ハードコア/ジャングル・レーベルParallax Recordingsは2020年にMartin Damm(The Speed Freak)が1994年に発表していた12"レコード『Force Fields Vol.1』を再発している。今作はイギリスのジャングルとは違ったドイツ独自のスピード感のあるジャングル・スタイルでD-JUNGLEとも通じる部分がある。90年代前半にAlec EmpireとMartin Dammが多数のレコードを残していたForce Inc/Riot Beatsが展開していたブレイクビーツ・ハードコア/ジャングルがモダン・ジャングルの盛り上がりによって再評価へと繋がっているかもしれない。

前途のChristoph de Babalonも自身のBandcampで過去の未発表曲を公開しているのだが、Alec EmpireやMartin Dammのジャングルに共鳴するドイツ的といえる冷たく激しいジャングル・トラックを発表している。D-JUNGLEとドイツのブレイクビーツ・ハードコアに関しては、『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』でのデジタル・ハードコアのチャプターで触れているので、興味のある方はそちらを読んでいただきたい。当事者であるDJ MoonrakerとDJ Bleedのインタビューも載っており、ドイツのブレイクビーツ・ハードコア/ジャングルや初期RAVEシーンの貴重な話を聞いている。

「D-JungleはCarl Crack(ATARI TEENAGE RIOT)が生み出した言葉なんだ。元々、Jungleはドイツ語の綴りではDjungelなんだ。D=Deutschland(ドイツ)+ジャングルで D-Jungle =ドイツのジャングルってこと。ちなみに、Djungleだと= Digital Jungleで、Digital Hardcore Jungleの短縮形だよ。(DJ Moonraker)」

『ハードコア・テクノ・ガイドブック オールドスクール編』

D-JUNGLEはイギリスのブレイクビーツ・ハードコア/ジャングルを模範としているが、そこにハードコア・パンク~インダストリアル~ハードコア・テクノのフィーリングが溶け込んだ高速で攻撃的なサウンドとなっていて、90年代中頃にあれだけ尖ったレコードをリリースしていたのが驚きだ。実際にドイツ以外の国でもD-JUNGLEのレコードがプレイされていた記録は残っており、RAVEシーンの中でハードさを求めるDJ達によってサポートされていたらしい。
D-JUNGLEの影響はやはり自国に強く表れており、ドイツのブレイクコアは確実にその影響下にある。Amboss、Istari Lasterfahrer、Zombieflesheater、LFO Demonといったドイツのブレイクコア・シーンを代表する彼等の作品はジャングルの要素が強い。彼等は2000年代にラガコア~ジャングルコアのクラシックを残しているが、これらのクラシックもモダン・ジャングルの流れと並行して再評価されるのを願う。

優れた音響技術を用いてジャングルの可能性を広げている魔術師LXC、スピードコアからダブステップまで幅広くクリエイトするBazooka、ドイツらしいテクノのバックグラウンドを存分に反映させたHoover1(Shed)といったアーティストもおり、最近ではDJ Fuck Himselfといった若手も登場。ドイツのジャングルも見逃せない進化をしている。






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