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Outer Wildsのはなし④「量子エクスペリエンス」

注意:”Outer Wilds”未プレイの方へ

この記事には超名作ゲーム”Outer Wilds”のネタバレが含まれています。
DLCのネタバレは無いつもりです。
(そもそも未プレイの人がこの記事にたどり着く可能性は低いと思うけど)未プレイの方は読まないでください。
「安心してください、今後もプレイする予定もないですよ」という人も、いつかプレイする機会が来るかもしれないので読まないでください。
「(Switch版)一年間も…待たせやがって…」とメガネ君も言ってます。

前回③の続きです。

やっと観測所まで話が進んだ。今後は加速していくはずですのでご辛抱ください。

観測所によるチュートリアル+α

観測所もまた素晴らしい施設で、体験できる展示物のおかげで小学生が社会見学や遠足でに行く科学館っぽさ、宇宙の不思議展っぽさがあって非常によい。

村人の教育施設というよりベンチャー社の成果発表会ぽさもある

観測所は「初心者の館」のようなチュートリアルのための施設という役割以外に、プレイヤーにHeartianという異星人を理解させるという役割も担っていると思う。観測所の展示物とその説明文を読むことで、Hearthianが太陽系やNomaiについて「何が理解できていて、何が理解できていないのか」を知ることができる。別の言い方をするとプレイヤーはHearthianの常識を身に付けることができる。

これはプレイヤーが「Hearthianのひよっこ宇宙飛行士」としてゲームを進めていく上でとても重要なプロセスで、この観測所の展示物のおかげで、地球人としてではなくHeartianとして未知の宇宙を探索することができる。
「万有引力がある」、「恒星はいつか超新星爆発を起こす」などの地球人とHeartianで共通している常識がある一方で、「宇宙にnomaiという異星人の文明の痕跡がある」、「重力をピンポイントで生み出す石がある」みたいに地球人にはびっくりだけどHeartianにとっては既知の情報もある。

Outer wildsというゲームにおいて、いわゆるオープニングが一切省かれ、(いつも通りに)たき火で目を覚ますだけ、という美しいプロローグを可能にしているのは、開始直後にプレイヤーの常識レベルをHeartianに合わせてくれるこの観測所のおかげだと思う。
『おきなさい、おきなさい、わたしの可愛いひよっこや…』とSlateに起こされるオープニングとか、FFシリーズみたいに重厚なナレーションで始まっていたら、だいぶ印象が変わっていることでしょう。

『かつて重力をも操ったとされる謎多き超古代文明Nomai
…彼らはその痕跡を残し、忽然とこの太陽系から姿を消した…』

FFみたいな オープニング

量子の「博物館のかけら」の魅力

そんな観測所において、一番インパクトがあった展示物は量子ゆらぎを発する「博物館のかけら」だった。

この形状、このテクスチャ、この佇まい……

なせそんなにインパクトがあったのか、ちょっと考えてみる。

まず1つ、「村の雰囲気と唐突なSF感のギャップ」というのがあると思う。それまでの村の探索から、木の炉辺の村には「ファンタジー」よりも「リアリティ(現実感)」を感じるプレイヤーは多いと思う。
人間ではなく三つ目の種族ではあるが、二足歩行だし、ワインも作ってるし、木こりもいるし、知ってる楽器も弾いているし、虫も鳴いているし…とても地球と似たような環境で、なんなら「やすらぎ」とか「実家のような安心感」を感じるようにデザインされている。
それに加えて、プレイヤーが操作する主人公も、極めて普通のことしかできない。マリオよりも低いジャンプ力だし、歩くのも走るのもペタペタゆっくりだし、スライディングもできないし、マシュマロ焼いて焦がしてるし…。
そこに急にSFめいた瞬間移動するデカい岩が現れたら、ギョッとなりますね。

次に「不思議なことが起こるトリガーが『対象物を視野から外す』というシンプルさ」も効いていると思う。たとえば「スイッチを押す」とか「レバーを引く」とかをトリガーにして目の前の岩が瞬間移動したとしても、その裏にあるであろうメカメカした機構とかを想像し、ある程度不思議なことが起こっても納得してしまう。
「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない」ということは我々人間もご存じなので、何か不思議なことが起こっても「これは未知の超技術なんだな」である程度は納得してしまう。(nomaiのいろいろな技術もだいたいは「謎の古代文明スゲー」で納得してしまう)
その点、量子のかけらのふるまいは「視野から外す」という、ブラックボックスが介在する猶予のない、極めてシンプルで自然な動作がトリガーになっている。
我々も普段、スマホやリモコンやメガネなど、ちょっと目を離した隙にモノを見失うことはよく経験しますが、ここまで鮮やかに一瞬で移動されると、すごくインパクトがある。

最後に、これはプレイヤーの知識量にもよるけれど、この不思議なふるまいに関係しているのが我々の現実にも存在している「量子」であることも効いている。
私は量子力学は門外漢なので「シュレーディンガーの猫」とか「二重スリット実験」とか、量子に関しては有名どころのうすい知識しか持ち合わせていなかった。その薄い知識でも、量子というものは「観測者の有無でふるまいが変わる」という一般人の頭ではなかなか直感的に理解しがたい、挙動をするモノらしい、ということは知っていた。
量子コンピュータなど実用化は進んでいますが、今の地球人には、なかなか身近に感じることは難しい量子。それをこういう形でわかりやすく体験できるというのは、インタラクションを伴うメディアであるゲームの強み。「ゲームでしか得られない体験」は、ゲームを遊ぶ醍醐味でもある。
ゲームクリエイター様は神様です。

そんなこんなで発射コードを手に入れ、宇宙船に乗り込みました。次回、やっと宇宙に飛び立ちます。

ゾンビのみなさまのお腹の足しにしていただければ幸いです。


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