ブライアン・エプスタイン日本語文献・完全保存版(自分のための)


『ビートルズで一番好きなメンバーは?』

ビートルズファンの間で星の数ほど繰り広げられてきた会話がこれだろう。ある一定の年代にとっては「ポール」と答えるか「ジョン」と答えるかでその後2人の間に友情が芽生えるか否かの見通しまで立ってしまうし、ジョージと答えれば通好みな印象で会話の輪からは少し遠ざけられ、リンゴと答えると珍しいながらも何故か平和的な空気が流れ万人に受け入れられる、という場面を幾度か目にしたことがある。

しかしその問いに対する私の答えは常に一択しかない。

「ブライアン・エプスタイン」

そう、あの凄腕営業マン、カリスマ家具販売員、裕福なユダヤ人家庭の長男として生まれ、飽き性で情熱的な、同性を恋愛対象とし、しかしリヴァプール訛りのないエレガントな口調で男女共に魅了するレコード店の主、そしてあの世界的バンドザ・ビートルズのマネージャー、ブライアン・エプスタインである…。

決してふざけて答えているわけではないのに、「そういうのはいいから」とあしらわれることが多々ある。何もその人が悪いわけではない。彼らはただブライアン・エプスタインの事を知らないだけなのだから…。

長らくまとめようと思っていた『ブライアン・エプスタインについて知ることのできる文献』を、彼の誕生日あたりのタイミングでここに記しておきたい。地下の洞窟でネズミのように泥臭くギターをかき鳴らしていた4人にスーツを仕立てたという有名な話から、車の運転が下手くそすぎてアーティストが皆困っていたという話まで、あらゆる方面からエプスタイン像を掘り下げるための資料を、なるべく多岐にわたって紹介したいと思う。

1)「ビートルズをつくった男」 レイ・コールマン 訳:林田ひめじ

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ブライアン・エプスタインファンの間で名著と囁かれる1冊。(要出典 ※誰によって?)

とにかくこれを読めば良い。バイブルと言って差し支えありません。

私の場合読みすぎてページがほぼ千切れてしまったが、それ程までに充実した情報と何より本そのものの構成が秀逸であり、文章のリズムも美しい。ジョン・レノンとの細やかなやりとりからは、当時の心情変化まで鮮やかに描き出されているかのような表現力がある。また、この本が「ブライアン・エプスタインファンにとってのバイブル」と言われている所以(要出典 ※誰によって?)はwith Beatlesではないエプスタインの顔が同時進行で描写されている所だ。ビートルズの他に彼がマネージメントしたアーティスト、その関係(特にシラ・ブラックとの生涯の友情は特筆するべきだろう)演劇に熱意を傾ける姿、今ではパワハラに該当するかも知れない癇癪持ちな一面…。ビートルズのマネージャーだけではないブライアン・エプスタインという1人の人間を垣間見る1冊だ。60年代初頭にユダヤ人として、ゲイとして、芸術を夢見る者として生きるという事。そして重要なのは、それら1つ1つの苦悩をものともしないかのような情念で激しく短い人生を駆けた事にある。人種や性的趣向はもちろんのこと、ビジネスマンとしても決して何にもカテゴライズされない、比肩するもののない人生を送ったのだ。いわば「マニュアルは白紙、カテゴリーは自分」という無茶で型破りな生き方ではあるが、そこから学ぶ事はあまりにも多い。

本の締めくくりとして挿入されたエピソードには、著者の妙が詰まっている。冗談じゃなく最後は涙なしには読めない。最後まで美しく、いつどの瞬間もエレガントに。そんな彼の人生哲学がふわりと香る、エプスタインへ向けた花束のような一冊。

2) ビートルズ神話 エプスタイン回想録 ブライアン・エプスタイン 訳:片岡義男

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ブライアン・エプスタイン本人の書いた自伝。(とはいえもちろんゴーストライターは雇っている。)本来なら本人著書ということでTOPに持って行くべきところではあるが、客観性に欠けるという理由から優先度を下げている。

というのもブライアン・エプスタインは少々誇張癖があり、話を盛る、倍にする、脚色するなどの常習犯だった。それだけを聞けば事実を曲げたフィクションエッセイだと言われるだろうが、エプスタインが少年の頃から演劇界に憧れ、演劇学校(Royal Academy of Dramatic Arts)にも通っていたという事実から、彼なりの美学があったのだろうと想像して、演劇の台本を読むようなつもりで読んでほしい…。1に挙げた本と比較して読むと矛盾したところが発見できるかも知れない。どれが真実かという事を突き詰める気はないが、客観的に見たエプスタインと彼が世間から見られたかった像という比較をしながら見るとまた面白い。

3)思い出のビートルズ①、② アリステア・テイラー 訳:斉藤早苗

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エプスタインの秘書が、彼との出来事やビートルズのメンバーと過ごした思い出を綴ったエッセイ。

「几帳面で慇懃な外面のベールを脱ぐと素顔はハンターの本能そのもの」であるブライアン・エプスタインの秘書を務め、怒鳴りつけられてクビにされかけたり、自殺を匂わす電話を受けて家に駆けつけたりと、その振り回されっぷりが素朴に書かれた、個人的にも大好きな1冊(2冊だけども)である。

続く。


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