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「短期の資金繰り」CFOが語るシリーズ Vol.2


CFOが語るシリーズ、第2回目

「CFOが語る」シリーズは、Flex Capitalが提供する、CFOキャリアを目指している管理部・財務部・金融職の方や、これからCFOを迎えたいスタートアップ起業家の方にオススメのコラムです。

難しいスタートアップのファイナンスの問題に対して、CFO経験豊富な方に登場していただき、実際におきた問題の解決方法や、なかなか学ぶ機会の少ないファイナンスの手法などについて、記事をアップしていきます。

第1回コラム記事担当

Sさん
CFO歴:本業2社10年、アドバイザー3社
経験ステージ:シリーズA〜IPO
経験業種:SaaS,モビリティ,教育など
略歴:金融機関勤務の後、スタートアップに転職、複数社で約10年財務・会計、IR等中心にコーポレート領域全般をカバー、IPOも過去経験している

短期の資金繰りについて

今回は、Sさんにシード・アーリー向けの体験談とナレッジを教えて頂きます。

-どのような時期の体験談でしたでしょうか?

今回は、プロダクトのリリースをし、事業拡大フェーズへ移行中というようなアーリーからミドル向けのステージの企業での資金繰りの体験談です。前回のコラムがシリーズDのタイミングの経験でしたので、もう少しシード・アーリー期に近いタイミングのお話にしようと思います。

-アーリーからミドル向け短期資金の資金繰りについてお話お伺いできればと思います。

そうですね。プロダクトのリリース以降、プロダクトの継続開発を進めながらも、プロダクトを活用したコンサルティングや派生する受託案件などを受注するケースがありました。大手企業との協業軸での話でもあったので、営業サイドは前向きに検討進めたいと思いが強い一方で、ファイナンス目線で行くと、通常のプロジェクト開発などのキャッシュアウトに加えて、受注案件の先行支払いによるキャッシュアウトが発生し、ビジネスは前進するのに、資金繰りはタイトになっていく状態が発生することがあり、非常に苦労しました。

特に大企業との共同のサービス開発みたいな話ですと、先方の社内検討にも時間かかることも多く、受注までにも数か月手弁当状態で稼働するなんてこともあります。

今回は短期の資金繰りということで大企業との共同案件のプロジェクトを受注、受注から、資金回収まで6か月以上かかるような事例をベースに、受注から資金回収までの短期資金の資金繰りを考えていきたいと思います。

<想定事案>

ビジネスシナジーがありそうな大企業から、自社プロダクトも一部活用したシステム開発又はPOC案件等の受託。売上金額:3000万円、想定原価は、社内500万円、外注パートナー1,500万円 合計2,000万円、案件粗利益1,000万円と仮定します。想定のスケジュールは以下の通りです。

<プロジェクトのスケジュールイメージ>

  •  24年5月    金額3,000万円の受注

  •  24年6月~12月 外注パートナーへ毎月支払い250万円×6か月、計1,500万円

  •  24年5月~11月 社内メンバーの工数80万円×6か月= 約500万円 

  •  24年11月    納品・請求書の発行

  •  24年12月    金額3,000万円の入金

このプロジェクトだと社内の人件費で500万円、外注パートナーに1,500万円の支払が先行費用として発生し、PJ終了時に3,000万円の入金があり資金回収となります。

-プロジェクトに関する資金をエクイティ調達で行うというのはどうですか?

はい、基本的にお金に色はないと言いますか、エクイティによる資金調達が出来るのであればそれでも構いません。ただエクイティによる資金調達はダイリューションやバリュエーションの問題もありますし、やはり返済義務のないエクイティによる資金は中長期の自社の成長につながる資金としてプロダクト開発や採用などの資金として使っていきたいと考えます。したがってこのプロジェクトの資金回収までに必要な資金については、案件に紐づいた資金としてデットで調達するのが基本的な考え方になると思います。

ただし、金融機関などからデットで調達ができない可能性もあるので、その他の選択肢もあわせて考えていきたいと思います。

短期資金の調達の方法について5選

-なるほど、確かにエクイティによる資金は中長期の事業資金として使っていきたいですね。では、短期資金の調達についてはどのように考えていくのが良いでしょうか?

そうですね。まずは現状の認識の整理というか、資金繰表の整理・確認からはじめましょう。CEO一人で資金調達に奔走していたりすると意外と、資金繰表に抜けもれがあったりして、ランウェイが想定より数か月短くなるなんてことも起こります。資金調達のなかで1か月想定が異なると、打てる選択肢の数が全く異なるので、ここは丁寧にやっておきたいですね。

今回の短期資金の資金調達の場合、まずはプロジェクト終了までの期間(3,000万円の入金があるまで)の資金繰りに重点を置いて整理・確認します。

資金繰表の作成の詳細は今回は割愛しますが、チェックポイントとして資金繰表に漏れやすい項目、特に大事なのは、大口の支払が漏れていないか等の大口のキャッシュアウトの漏れがないかの確認は丁寧にやっておきたいですね。

<抜け漏れしやすい項目チェックポイント>

  • 賞与の支払と賞与加味した社会保険料(賞与の2か月後くらい)

  • コロナ関連で支払猶予になっていた社会保険料など

  • 大口の支払や入金が漏れていないか(特に年一括の支払や大口の外注の支払がないか)

  • 金融機関やその他からの借入の期日確認

  • 税金の支払いや税金の還付がないか

-確かにクラウドサービス関係は年一括支払の契約が多かったりするので、PLとCFが乖離することがありますね。

次にメインシナリオになる金融機関からの借入を中心にいくつかの選択肢を同時に検討していきます。

1:金融機関から受託したプロジェクトに紐づいた借入を行う

まずは銀行等の金融期間からのデットの調達から検討します、フェーズとしてアーリーくらいを想定するとメガバンクなどからの調達は少し難易度が高いかと思いますが、商工中金や地方銀行、信金あたりがねらい目になるかと思います。大よそ下記の資料で初期検討はいただけるのでないかと思います。 

<準備資料>

  •  試算表

  •  金融機関ごとの借入一覧、預金残高一覧

  •  資金繰表

  •  受注案件の提案書、契約書、発注書、外注パートナーへの発注書

    •  (新規取引であれば決算書3期分や株主名簿などの資料も)

金融機関のスタンスにもよりますが、ポジティブに評価頂ける金融機関があれば新規の取引なども狙っていきたいですね。基本的には借入期間中の資金繰り=3,000万円の入金がされるまでの資金繰が回るのかという部分と、そもそもなぜこの会社を融資するのかという基本方針をベースに融資判断すると思います。(そもそも支援方針がネガティブな場合は資金繰的には大丈夫でも難しい場合もあるかと思います)

また借入期間中の資金繰表の中で重要な項目、例えば別の金融機関から借入予定やエクイティによる資金調達、その他の大口の入金予定がある場合には、それらの蓋然性も確認項目になると思いますので準備をしておきましょう。

2:仕入や外注の支払を入金期日に合わせる

次に受注プロジェクトに紐づいた外注パートナーへの支払計1,500万円を、プロジェクトの入金が完了したあとのタイミングに猶予してもらうという方法もあると思います。そうすると社内リソースの500万円の資金負担のみになります。避けたいのは受注案件は請負契約で納品時に一括入金、外注パートナーへの支払は準委任契約で毎月支払となると資金繰りがタイトになるので、外注パートナーへの支払いも入金と同じタイミングに交渉しましょう。(営業サイドがこの辺気にしてない時があるので注意してください)

3:プロジェクトの資金の全部または一部を前受け金で受領する

先ほどは、支払を先延ばしにしましたが、プロジェクトが完了まで半年以上かかるため、入金を前倒しにするため一部を前受金で受領する、もしくは、そもそもの契約のフェーズ段階でフェーズを細分化して分割受注・分割回収することで資金繰りを改善も検討しましょう。

-なるほど、受注や発注の段階で資金繰りまで考慮した形で契約交渉しておくことが重要ですね。上記難しい場合には他の検討しておきたい選択肢とかはどうですか?

そうですね。検討のコストが最小限でクイックに可否がわかるという点ではRevenue Based Finance(以下RBF)や債権ファクタリング、クレジットカード利用なども短期の資金繰改善の選択肢としておきたいですね。

4:RBFやファクタリングを活用する

RBFは将来の売上予測に基づいて資金を提供する資金調達手段で、継続的な売上、いわゆるリカーリングレベニューが期待できるSaaS企業やEC/D2C企業などと親和性が高いです。売上1000万程度のシード・アーリーステージの段階でも活用事例もあり、検討に対してのコストも低いので積極的に狙っていきたいですね。(※RBFの詳細はFivotさんのサイトも参考にしてくださいね https://flex-capital.jp/service/rbf/

つづいて債権ファクタリングを簡単に説明すると、サービス・役務提供の対価としての売掛債権をファクタリング会社に売却し、売掛債権を早期現金化することです。月末締め、45日で回収予定の債権を売却して月末締め10日、15日などに早期化するも可能です。

RBF、債権ファクタリングはシード・アーリーステージの段階のベンチャーにとって必須といっても過言ではないほど非常に有効な資金調達手段になると思います。具体的に話すとどうしても文字量が多くなるので、ここでは詳細を割愛させて頂き、次回のコラムでまたお話出来ればと思います。今回は、一部のファクタリング事業者は売掛金=納品後の売上債権の買取ではなく、受注時点の契約をベースに買取してくれる先があるという点をご紹介しておきたいとおもいます。

ご紹介したケースだと24年11月の納品後の債権ではなく、24年5月の受注時点の契約書や受注書をベースに債権譲渡し現金化することが出来ます。手数料は融資などに比べると高くなりますが、プロジェクトの受託時点で資金の目途が立っていれば、資金繰りを気にせずプロジェクトが進めることが出来ます。

次回のコラムでは、更にRBFやファクタリング、後払いサービスなどについて具体的に解説予定です。

5:外注パートナー以外の支払を遅らせる

資金繰りという観点では、今回の受注プロジェクトには紐づいていない自社プロダクトの開発費用や広告費等の支払タイミングを遅らせることが出来ないかも検討します。

実践例としてはクレジットカードの利用などが利用しやすいと思います。通常の振込ベースの支払は月末締め、翌月末支払いが多いと思いますが、クレジットカードによっては支払が60営業日後などのものもあります。また最近では業種にもよりますがBtoB向けのビジネスなどではGoogle等への広告出向も少なくないと思います。広告用途に限定したクレジットカードを利用すると支払を4か月に分割で払うようなクレジットカード(サービス)もあるので、資金繰りの改善につながると思います。また年一括払いで支払しているようなサービスで更新のタイミングで分割払いに出来ないか交渉することも地味に効果があるのでやっておきましょう。

-なるほど、複数のプランを同時並行で検討進めていくことは理解できましたが、優先順位などはどうでしょうか?

そうですね。まずは銀行からの借入を中心に検討進めながら、受注先からの入金前倒しや、外注パートナーへのへの支払を調整する交渉も可能であれば行って頂きたいと思います。ここまでで対応できるのが良いと思いますが、難しい場合に備えとして、資金繰りの状況を見ながら④RBF、債権ファクタリングや⑤支払タイミングを遅らせることのできるクレジットカードなどの利用も検討進めておき、全体で資金繰りマネジメントできるのが良いですね。RBFや債権ファクタリングやクレジットカード関係は、利用しやすい反面、通年で継続利用すると手数料が安くないと思うので、必要なタイミングで利用できるよう手札に備えておくという感覚がよいのかなと思います。

さいごに

短期の資金繰りについて紹介をいただきました。

  1. 金融機関から受託したプロジェクトに紐づいた借入を行う

  2. 仕入や外注の支払を入金期日に合わせる

  3. プロジェクトの資金の全部または一部を前受け金で受領する

  4. RBFやファクタリングを活用する

  5. 外注パートナー以外の支払を遅らせる

ぜひ参考にしてください。

いかがでしたでしょうか?
今後もCFO経験者が語るシリーズとして、経営者・CFOにとって役立つコンテンツを提供していきます。

次回、RBFやファクタリング、後払いサービスなど資金繰りサービスについて、CFOの目線からさらに解説していただきます。

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