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「世界食料デー」月間をちょっと違った視点で眺めてみる

10月16日は世界食料デー。国連食糧農業機関(FAO)が「すべての人に食料を」を現実のものにし、世界に広がる栄養不良、飢餓、極度の貧困を解決していくことを目的に世界共通の日として1981年に制定したものだ。10月は世界食料月間と位置付けられ、日本でも世界の栄養不良や飢餓の問題を学び、食品ロス削減に向けた啓発イベントが多数行われた(資料1)。国際協力NGOや国連機関主催のイベントに参加した学びを、筆者のちょっと違った視点を含めて伝えたい。

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1.最新の測定指標に基づくフードロスの現状

飢餓撲滅を掲げて制定された国際食料デーであるが、今年最も注目されたキーワードはフードロスだ。今年の食料デーに合わせてFAOがまとめた最新の報告書(資料2)の最大のウリは、Food Loss Index(収穫後、加工、物流を経て小売に辿りつく前までのロス)とFood Waste Index(小売、消費段階のロス)という2つの指標を開発し、現状の定量的な測定を試みたことだ。

報告書によればFood Loss Indexは14%、つまり小売に到達する前に全食料のうち14%が廃棄されていることになる。またロスが最も多い地域は南アジアで20%超、これは冷蔵・貯蔵施設の不足、道路の未整備、効率の悪い加工プロセスが主な要因だ。また全収穫量に比してロスの割合が高い農産物は、コメ、野菜、水産・畜産でもなく、実は根・茎・油の搾りカス等であり25%を超える。Food Waste Indexは現在算出中であり、Food Loss Indexに加えて小売・消費段階のロスを含めれば、食料全体の3分の1が廃棄されていると2011年にFAOが報告した数字(資料3)に近い結果が算出されると言われている。

2.栄養・健康という観点から見た食料問題

ユニセフの報告によれば(資料4)、2015年まで減少傾向にあった栄養不足人口は増加に転じ、世界で8億2千万人以上、つまり世界人口の9人に1人(約11%)が飢餓に苦しんでいる。特にアフリカ地域は人口の20%、アジア地域は15%であるが栄養不足人口は最も多い。さらに、食料不安の体験による尺度に基づき、必要な食料へのアクセスが制限された経験を持つ人の割合を算出したところ、世界人口の17.2 %、13億人もの人が栄養価の高い十分な食料を定期的に入手できず、さまざまな形態の栄養不良や健康不良の危険性が高い状態に陥っていることを示している。その背景には、中所得国で起きた経済低迷や政治混乱、気候変動の影響があるという。適切な栄養をとり健康でいるためには

➀供給、②アクセス、③利用方法(安全で栄養価の高い食料が利用できているか)、④安定性(いつでも必要な食料を入手できるか)

の4つが確保されていなければならない(資料5)が、低所得国の食料供給やアクセスの問題に加えて、経済の脆弱性や気候変動により中所得国においてもこれらが担保されない現状が起きていることを明らかになった。

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3.環境という観点から見た食料問題

世界規模の食の問題を語る際には、基本的人権としての食へのアクセスや飢餓への対応、栄養対策が注目される傾向にあるが、環境との密接な関係も無視できない。

2019年9月の国連総会では気候変動対策を求める若者たちの声に後押しされる形で気候変動や環境問題に絡めて食料問題についても活発に議論が行われた。ニューヨークで取材にあたった国谷裕子キャスターによれば、2015年パリ協定で定められた「産業革命以前の時期に比べ、世界の気温上昇を2度未満にする、できれば1.5度未満に抑える」という目標の達成は、再生可能エネルギーへの転換などの脱炭素化だけでは困難であることがすでに明らかとのこと。食品の生産・運搬・廃棄に伴う二酸化炭素排出は世界の全排出量の約30%を占めており、環境対策という観点からも食料のサプライチェーンの見直しがまったなしの状況だ。牛肉の生産に必要な大量の飼料の削減を謳い、地産地消という目に見えやすい取り組みを推奨すべく、会議場内ではニューヨーク近郊で生産された野菜中心の食事が提供されたようだ。

4.ちょっと気になる「私の視点」

ちなみに、日本では毎年2842万トンの食料が捨てられていて、そのうち食べ残しや賞味期限切れなど、まだ食べられるはずのものが646万トンもある(農林水産省, 2014)。これら数字は、食べ物の大切さを訴え、店舗や家庭での食品廃棄を減らすよう働きかけるべく、教育コンテンツの開発や普及啓発イベントで多用されている。一方、数字をよく見ると、食べ残しや賞味期限切れではなく小売に到達する前に廃棄される数字(2842-646万トン)の方が、小売・消費の段階で失われる量に比べてはるかに大きい。規格外野菜の廃棄、運搬中に死んだもしくは傷んだ魚の海への廃棄、タネ・皮など一般的に不可食と言われている部分の廃棄等がこれに含まれるが、当然これら生産・流通過程にも改善の余地はあるであろう。また食品ロスの計算では、もともと人の消費を想定して製造された食料が途中で飼料用として販売された場合もロスとしてカウントされている点も注意が必要た。一人歩きしがちな数字を、ふと立ち止まり、たまには疑って眺めていることも大切だ。

<参考資料>

1.2019年世界食料デー「みんなで食べる幸せを」

2.The state of Food and Agricuture in the world (FAO, 2019)

3.Global Food Loss and Food Waste (FAO, 2011)

4.世界の食料安全保障と栄養の現状(ユニセフ, 2019)

5.日本と世界の食料安全保障(外務省, 2019)

タイトル未設定www.mofa.go.jp



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