プロジェクションマッピングの導入は若者を劇場へといざなうか【前編】

1.はじめに


 このマガジンは『「最新技術×アート」を通した若者の舞台芸術離れの解決』というテーマのもと様々な分野について論じていますが、僕はその最新技術のうちプロジェクションマッピングが若者を惹きつけるのに有効な手段なのではないかと思いました。というのも最近では全国各地の広告やイベントでプロジェクションマッピングが行われており、プロジェクションマッピングが生み出す感動が若者をはじめ多くの人々を魅了しています。そこでプロジェクションマッピングが生み出す斬新な映像表現を舞台芸術に持ち込めば、演出できる表現の範囲は広がり、舞台芸術は今よりももっと見ごたえのあるものに進化します。そうすればきっと若者も舞台芸術に興味を持ってくれるのではないかと思ったからです。そこでこの記事では僕が調べたことを中心に、実施したアンケートの結果と分析を交えながら、本当にプロジェクションマッピングは若者を惹きつけるのに有効な手段なのか、プロジェクションマッピングを導入した舞台芸術はどうあるべきなのかについて話していきたいと思います。


2.そもそもプロジェクションマッピングとは?


 皆さんはプロジェクションマッピングの定義について考えたことがありますか?実はこれ、よく間違って認識されています。多くの人は、プロジェクションマッピングとは映像を立体に投映すること、つまり建物などにプロジェクターで投映することだと思っているはず。しかし単に建物にプロジェクターで投映するだけでは「プロジェクション=只の投影」です。では、普通の投影とプロマの違いとは何なのでしょうか?それは「マッピング」というスクリーンと映像を対応させる作業があるかないかです。プロジェクターで映像を投映するとき、投影される対象(建物など)に、デザインしたCG映像やグラフィックスなどを配置し、重ね合わせて初めて「プロジェクションマッピング」と呼ばれる表現技法となります。


3.プロジェクションマッピングは最新の技術か?


 プロジェクションマッピング(以下、「プロマ」と表記)を最新技術だと思っている人は多いです。しかしこれもよく間違って認識されていることなのですが、プロマの概念と手法自体は昔から存在し,多くのアートシーンで行われてきたのです。「プロジェクションマッピング」という言葉自体がここ数年で広く人口に膾炙されたというだけなのです。ただ実際のところ、プロマは新しい技術を取り入れて日々進化しており、最新技術だと言うのもあながち間違いではない、というのが実情です。では今度はその最新技術部分に注目して、その使用例も一緒に見ていきます。


・プロジェクター
調整技術では,複数のプロジェクターをつなげる場合,合わせ目が自然に繋がるための「ブレンディング」といわれる作業をプロジェクターだけでできるようになっています。これによって複数のプロジェクターを使ってより巨大な映像表現が可能になりました。また、プロマといえば大きな業務用プロジェクターでやるものが印象的ですが、タバコの箱ほどに小型化して、個人でプロマを楽しめる、といった商品もあります。

Ex. 「ハコビジョン」:スマートフォンとパッケージの箱と、付属する「フィギュア」という動画を投影するプラスチックパーツ、透明なプレートを使い、ちょっとしたプロジェクションマッピングを楽しめます。東京駅などの建造物というオーソドックスなものから、ガンダム、初音ミク、ラブライブ!など様々なシリーズが発売しました。
https://www.bandai.co.jp/candy/hakovision/about/


・センサー、プログラミング
独自にプログラミングやインタラクション(双方向)を組むソフトウェアの開発や、扱う技術も進んでいます。単なる映像マッピング作業を超え、人の動きに反応させたり、その日の時間や気候などのデータから映像を生成させたりすることもできる。

Ex. 「深海4Dスクエア」:立体模型(3D)+気象情報(1D)ということで4D。ダイオウイカが生息する小笠原諸島海域の気象データに基づいて生成した映像を、実物大のダイオウイカの模型をスクリーンにして投影しています。
https://weekly.ascii.jp/elem/000/002/616/2616888/


・スクリーン
透明なフィルムやスクリーンを用いて空中に映像を浮かばせるような技術も進化してきています。「高輝度反射フィルム」という透明なフィルムを用いて、普通は映像が投射しづらい場所(例えば透明な物や黒い壁面)でも,はっきり映像を見せることができるようになります。これによって、ライブなどで本当の人と映像の人が競演したり,人の動きに合わせて映像が生成される表現などが可能になります。またフォグスクリーン、ミストスクリーン、ウォータースクリーンなど、水や油を用いて一時的に現れるスクリーン技術も増えてきています。

Ex. 「ライブ・スペクタクルNARUTO-ナルト-~暁の調べ~」:キャラの周りに禍々しい模様が投影され、不気味な雰囲気を高めている。役者の前に特殊な幕を引いておくことで、役者の姿を見せつつ役者に被せて様々なものを投影できる。
https://www.youtube.com/watch?v=CD87Bsx7uuE


・動く物体を追尾する技術
近年ステージでも、プロマを人の動きに合わせるものが増えている。そうした中、人の動きや衣装に合わせてマッピングする技術も開発されている。

Ex. ライブエンターテイメントショー「EXISTANCE」:パナソニック株式会社の最新技術であるハイスピードトラッキングを基盤としてP.I.C.S.が開発した3Dプロマシステムを用い、空手と日本の技術と文化を象徴する身体の動きをミックスさせたダンスに映像が高速追従し、その世界観を拡張演出する。
 https://www.pics.tokyo/works/exisdance/


このように、今この瞬間も進化を続ける表現技法・プロマの、演出における可能性は、作り手のアイデア次第で無限大に広がります。これを舞台芸術に持ち込めば、その演出はさらに高度化し、新しい表現が生まれるに違いありません!


4.プロマが抱える問題


 ここからは、プロマが抱える問題点について話していきたいと思います。それは、プロマが単なる客寄せのツールとして利用されやすいことです。
  「プロジェクションマッピング」という言葉が広まった転機として、プロマを使った建物への大規模な映像投影が可能になったことが挙げられます。業務用プロジェクターの性能向上、クリエイターの大きな表現シーンへの進出、インターネットを介した世界中への情報発信、といった要因が合わさりインパクトある表現のプロマはとても話題になりました。ただ、プロマというと現場で体験する芸術表現という側面よりも動画で閲覧させるプロモーション映像的側面が強くなっているというのが現状です。皆さんも「プロマ」という言葉を聞くと、イベントの場においてイベントそのものや映像の投影対象に話題性を持たせたり、何か特定のモノを宣伝したりするツールとして使われている場合を連想するのではないでしょうか。

Ex. 「進撃の巨人プロジェクションマッピング "ATTACK ON THE REAL" 」:プロマでは、投影対象(スクリーン)を全く別のものに見立てたりして様々な意味を持たせ、いかに投影対象(スクリーン)の形状を活かした演出ができるかが見どころとなります。しかし個人的にはあまりビルの形状を活かしているようには見えず、わざわざビルを投影対象(スクリーン)に選んだ意味がよく分かりません。普通の平面スクリーンに今回の映像を投影したのとさして変わらないと思いました。映像も漫画やアニメ本編の映像を切り貼りしたような映像で、プロジェクションマッピングの良さを引き出すように作られたものだとは感じませんでした。とりあえずプロマをやって「進撃の巨人」の宣伝がしたかったのだろうな、と思ってしまいました。
https://www.youtube.com/watch?v=-q6DO2pfREg

しかし、このようにプロモーションのためだけにプロマを利用してはいけないと僕は思います。なぜならこのようなプロマは、プロマの持つ「新しさ」やインパクトだけに注目していて、表現としてのプロマを軽視しているからです。これでは、映像と音響が作る世界の「体験」という、プロマが持っている感動を観客に提供することはできません。だからこそプロマをいち表現技法と捉えて追求し続け、「体験」的側面をもっとアピールすることこそが大切だと僕は考えます。

Ex. 「ライブ・スペクタクルNARUTO-ナルト-」:この舞台では、役者の迫真の演技、ダンス、劇場の豪華な音響という舞台的が持つ要素に加え、題字、人物がいる場所の風景、心象風景、役者の動きに合わせて動くキャラクター、迫力ある攻撃エフェクトなど、プロマを用いて様々な演出が行われています。劇場内で観客が目にするのは、漫画やアニメの世界の出来事が自分の目の前で繰り広げられている光景です。プロマによって舞台芸術は、2次元と3次元の狭間、まさに「2.5次元」の世界を味わえる体験と感動を観客に提供することができるのです。この舞台は一例に過ぎませんが、舞台芸術の場におけるプロマの表現は、観客に様々な体験と感動を与えることができる無限の可能性を秘めています。そう考えると、舞台芸術とプロマを組み合わせることは、プロマにとっても、新規客層開拓という意味で舞台芸術にとっても、理想的な道なのではないでしょうか。
https://www.youtube.com/watch?v=XoOYA5RDwR8


この記事の前編はここで終わりです。

後編もぜひ見ていただけると嬉しいです!