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詩| 冷たい雨が降っていて

さよならの途中で土砂降りになって中断した夜は、万華鏡みたく変幻し、なにひとつ確かなものがない。首都高速に川が流れて、古都の桜を狂い咲かせた。
あの道をまっすぐ行って、赤信号をそそくさ渡ったところに、かつて螺旋階段が聳えていた。一段飛ばしで駆け上がった。穴の空いた靴下を早く脱ぎたかった。
極彩色のその靴下は、いつかの街の光をすべて内包していた。綻びから零れる光が眩しいうちに風に預けた。今その片足がタワーのてっぺんで旗めいている。
タワーには無表情な顔があった。そのコンクリートの造形よりも冷たい顔を知った。髪を掴んでアスファルトに、タバコの火を消すみたいに、磨り潰してしまいたくなった。
タバコはおまじないだった。ずっと一緒にいられたら、それはそれでそれらしいと、二つ目の月を望むベランダで火をつけた。余命いくばくと引き換えに、明日、一年後、十年後のおはようを夢見てた。

冷たい雨が降っていて、夜を抜け出せないでいる。
冷たい雨が降っている。