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詩| 氷点下の耳たぶ

冷めていく、なにもかも。
サイフォンで淹れたコーヒーも、スクリーンに吸わせた興奮も、湿った髪で汗ばんだ腕も。
猫舌だからと言い訳をして、冷ました愛を啜った者には、触れられなかった耳たぶ。気まぐれに焦がれようとも、冷めていく、ただ冷めていく。
死んだら冷たくなるという。どうせ燃やすのに冷めていく。保ち続けた体温を、最期くらいは昂らせたっていいだろう?
一つ命が果てた時、一世一代の大爆発を。骨まで木っ端微塵に吹き飛び、見事に無くなるまでの僅かな、残り火たちをエンジンに、人は初めて自力飛行。見知った街のタワーは灯台、洗濯物を汚した先の、耳たぶを終着点に。
冷めていく。分かっている。種火も消してしまえる。冷めないでと縋り付いた、耳たぶが凍っている。