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詩| 郷愁

駅に降り立つ。
甲斐性なしを宥める匂いが膜となってへばりつく。
おかえりと鳴く湿風も気のせいなのに。

歩道橋を駆け上がる。
純然たる筋肉が己の所在を叫んでいる。
導べを務めたランドセルも気のせいなのに。

茂みをかき分ける。
一度潜ったトンネルは跨いで越えねばならぬ。
凱歌を唱えるリンリン虫も気のせいなのに。

ただいまなどは気のせいだ。
気のせいではない道程だ。
いってきますの原動力は、
さよならだけが担うのだ。