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桜の森の

坂口安吾の「桜の森の満開の下」って、とにかくタイトルが素敵ですよね。

桜の蕾がひとつふたつ、ほころび始めるこの季節にはいつも読み返したくなります。

話の中には、姫が山賊の夫に生首を集めさせて生首でおままごとをするっていう、何とも言えない所もあるのですが。

野卑な男が都の姫を手に入れ、みやびやかな様子にふれることで、自分の野暮さに対する羞恥心が生まれる。そして、都に居づらくなった男は自分の居場所を求めて都を去り、山に帰る。

知らなかった世界を知り、故に元の居場所にも孤独を持ち込む事になり、、

なんだか、毎年、読むたびにだんだんと、私自身しっくりとくる様になってしまうのも

ちょっと、いかがなものかなあ、
とは思いますが。


桜の森の満開の下で
彼は四方を見廻しました。
頭上に花がありました。
その下にひっそりと
無限の虚空が満ちていました。
ひそひそと花が降ります。

それだけのことです。



本の中に広がる桜の情景を思いえがく時、自分の、とある憧れがそこに重なっている事に気づきます。

それは自分にとっては永遠の眠りにつきたい場所。つまり、理想のお墓のイメージなのです。

小さな頃から何故か、四角柱の墓石のたったお墓の中に、よく知らないご先祖と入るというのが、どうにも怖くて、ね。

人里離れた桜の山、まわりの音を吸い込んでしまう程に咲いた、淡くも白い頭上の花々。

明るい春の陽射しに音もなく、はらはらつもる花びらの絨毯。

そんな場所に、人知れず、ひとりひっそりと埋ずまりたい。


そんな風に、思うのです。

様々な人生の役割を、ひとつづつ剥がして
最後はただの土塊れになり

ああ、そうすれば、根から吸い上げられた欠片として、桜のその、ひとひらに。