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『仕掛け人・藤枝梅安』に震えました。

アーティスト・デート2回目は、「映画を独りで観に行ってみる」です。おいおい、本気でどうでもいい冒険だな。まぁ、毎週失われたアークとか聖杯をナチスと奪い合ったり、海賊ウィリーの財宝をグーニーズ仲間達と探し回ったりする訳にはいかないので、これぐらいでひとまずご容赦いただければ。
映画に限らず、私は一人でお店に入るということはまずありませんで、行ってせいぜいコンビニぐらいです。特に観たい映画はサブスクで観ることができますし、大画面で観たければホームシアターで観ることもできますから、わざわざ独りで映画館に行くなんてことはなかった訳でして。今回は敢えて独りで「映画館で」観に行ってきました。

さて、今日は何を観てやろうか

近所のムービックスで何をやってるのかスケジュール表を見てみると、『鬼滅の刃』『レジェンド & バタフライ』『THE FIRST SLAM DUNK』とか魅力的なラインナップ。そんな中で「あ、これはこういう機会がないと観ないわ」という作品が『仕掛け人・藤枝梅安』でした。
居合を志すぐらいだから時代劇は嫌いじゃない。でもこの類のシリーズは避けて通ってきました。「だって、これって『必殺仕事人シリーズ』のなんかでしょ?俺、あの殺し方エンターテインメント嫌いなんだよね」ぐらいのことを思ってましたので、冒険のつもりで敢えてこの作品をみることにしました。
この映画が始まって約2時間後、明るくなった映画館の席で、梅安が研いでくれた長い針で自分を刺してしまいたいほどの自己嫌悪に襲われました。

メチャクチャ面白かったです。第二部も観にいきます。ここからはどうしてもこの映画の感想を残したいので、思ったことを書いていきたいと思います。

トヨエツ梅安の色気に引き込まれる

この映画の白眉は何といっても豊川悦司の藤枝梅安の色気です。坊主頭と髭、背が高く筋骨隆々といういかにも「ただものじゃない」感じがプンプンします。目の鋭さや身のこなしが、市井に混じりながらも暗殺者の気配を消せない感じもまたいい。本当にいい役者になりましたね。『NIGHTHEAD』の頃から注目していた俳優さんですが、当時より今の方が断然かっこいいです。冒頭の石丸謙二郎が殺されるシーンで見せた肉体美から、そちらの気がない私も惚れ惚れしてしまいました。

梅安さん、女は怖いねぇ・・・

「あれ?これは判で押した様なありきたりの作品じゃないぞ」と感じたのは冒頭のシーンからでした。
石丸謙二郎扮する侍と不義密通を交わす妙齢の女性。その情事の後から映画は始まります。女性はこれを最後にしてほしいと泣きながら頼むのですが、侍は小判を女性の懐に捩じ込みながら「お前もこれに会いたくて来ているのだろう」と下衆に笑います。するとさっきまでの泣き顔は何処へやら、その小判を見ながら少し笑うんです。
この笑いの意味はすぐにわかるんですが、この後彼女がどの様な選択肢を取ったのかを鑑みて、彼女の女としての覚悟に少し鳥肌が立ちました。こういうところで震えたのは、五社英雄の『吉原炎上』『肉体の門』以来かな。
とにかくこの映画に出てくる女性は、男性から酷い目に遭わされます。自分の親の上司に母親を手篭めにされて、両親共々殺された挙句、自分も手篭めにされたり、自分の継父から性的虐待を受けていたり、女中として働きにきていたはずが客に犯されてしまったり。でも、それでも必死に生きています。良い悪いは別にして、そんな酷い状態でも生きる女性たちの強さ、人によっては健かさすら感じました。

天海祐希が更に好きになりました。

特に天海祐希演じるおみのは、「生まれた環境さえ良かったらこんなことにはならなかったのに」という女性です。商才に長け、方法は間違ってましたが料亭を大きくしていました。16の頃から人目を引くほど器量が良かったという彦次郎のセリフは、天海祐希の佇まいから説得力を得ていますね。本当にキレイ。彼女がフレームインすると、どんなシーンもパッと明るくなります。
本当は心根が優しいおみの。小さな頃にあんな親に育てられなければ、こんな馬鹿な選択肢は取らなかっただろうに・・・。仕掛けられる側の人間なのだから、悪役には変わりはないのですが「梅安、おみのだけは見逃してやってくれないかな」と期待しながら観てしまいました。

わかりやすいエンターテインメントとしては高得点

全体的にわかりやすい作品でした。作品として無理がなく、布石もちゃんと回収しています。映画としては間違いなく面白かったし、明日職場の人にも間違いなくすすめます。

でも観終わって独り余韻に浸っている時、何か物足りない感じがしている。

そして気がつきました。この映画を観ている最中、完全に作り手側の意図するように感情をコントロールされているってことに。観客に解釈を委ねることなく、しっかり作り込まれている。だから映画を観終わった後のモヤモヤもないからスッキリして終わっているんです。スッキリとした喉越しの良さという感じでしょうか。
監督はテレビの人らしいので、テレビの手法なんでしょう。そう思うと納得できる気がします。

まぁ、今回は「いい映画を観られました」というのが最高の成果、ということで。

独りで映画を観ても、面白い映画は面白いわけで。ただ、映画を観たテンションそのまま車の中やファミレスで盛り上がる会話がないのは寂しいかな。
それから「仕掛け人・藤枝梅安」の作品群にも興味を持てたのも成果ですね。4月公開の第二部も観にいきます。
というわけで、アーティスト・デート終わり。またおっさんの小さすぎる冒険を報告します。

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