諦めずに、割り切って、前に進む | 堀江 麗
1ヶ月で100種類以上飲むくらい、クラフトジンが好き。
今では、その大好きなジンの商品企画に携わっている。
そんな彼女が、昔はカシスオレンジを飲むだけで顔を真っ赤にしてしまう女の子だったなんて。
もともと苦手だったアルコール文化。けれど、突然訪れたクラフトジンとの出会いによって、それは苦手なものではなく、単に飲むためのものでもなく、自身を表現できる自由な舞台へと変化した。
飽きることのない探究心。
好きなことも、心の安定も、どちらも諦めないしたたかさ。
やりたいことができなくても、割り切りまずは前に進むしなやかさ。
その一方で、妥協せずに自分の作りたいものを信じ抜く、こだわりの強さ。
そして、とにかく「クラフトジンが好き」という気持ち。
その全てを携えて、堀江麗はアルコール文化に優しい革命を起こしはじめた。
たった数年の間に起きたこととは思えない。探求を続けたからこそ出会えた、ドラマチックな展開の連続だった。自分にぴったりの表現方法を見つけた人は、これほどまでに輝いて見えるのか。
とある日の『Flat Share Magazine』。
堀江 麗
1992年生。東京都出身。2017年にGoogle Japanに入社。デジタル広告のコンサル業務に携わった後、大手企業の幹部対象の企画運営に従事。2019年より株式会社カンカクに酒販事業のPMとして、2020年よりエシカル・スピリッツ株式会社にてクラフトジン事業に企画PRとして参画。その他アルコール・ノンアルコールの領域を問わず、飲料の開発コンサルを行う。
聞き手:キルタ(Flat Share Magazine)
書き手:はし かよこ
ようこそ、堀江 麗さん。
堀江 麗(以下、麗):堀江 麗です。今は、クラフトジンの企画やノンアルコール飲料の商品開発をやってます。廃棄されてしまう素材をジンとして蘇らせる蒸留ベンチャー『エシカル・スピリッツ』と、テクノロジーをリアルの生活に落とし込む取り組みをしている『カンカク』という会社の2社に携わりながら、個人事業もやったり…割と自由に働いてる感じですね。
──麗ちゃんは、最近では『HOLON』っていうお酒を作ってるのもあって、今は「お酒を作ってる人」っていう印象だと思うんだけど、前職は全然違うキャリアだったんだよね。
麗:そうだね〜。
──だから今日は、そもそもジンやお酒を好きになったきっかけ、自分でも作ってみたいと思った理由を時系列で追いながら聞いてみたいなと思ってます。
好きだけど、割り切って趣味にした。
──新卒で入った会社が、前職?
麗:うん、新卒で入った会社がGoogleだったんだけど、それよりもっと前の話でいうと食べ物に触れるのがすごい好きで。
──それは、学生時代?
麗:いや、もっと小さい頃。よく分からないけど、粉と牛乳と水を入れてパンみたいな謎なものを焼いたり、どんぐりを潰して食べちゃったりとか...(笑)
──すごいね...!
麗:とにかく食べることに対する興味が貪欲で。家族からも「麗ちゃんの舌はピカイチだ!」って言われ続けてたから、「私は舌が良いんだ!」って思いながら育ってきて。だから、学生の頃はオイシックスとかRettyとか、“食×IT”の分野のインターンで働いてたんだよね。
──そうだったんだ。大学は、いわゆる4年生の大学?
麗:大学は女子大だったんだよね。
──栄養系とか、そっちの方に行こうとは思わなかったの?
麗:自分が料理研究家みたいな作り手になることを考えてた時期もあったんだけど、「それで食べていけるのかなあ?」っていうのはあって。それで、ITを切り口に食と関われないかと思ってインターンをやってみたんだけど、実際働いてみたら思ったより食周りの問題解決をする会社で、IT色の方が強かったというか。
なかなか仕事で食に関わるっていうのが自分ごと化ができなくて。それで、「いったん割り切って、食は趣味にしよう!」って決意をして、IT側に振り切って、新卒でGoogleに入ったんだよね。
──じゃあいったんは、ITに舵を切る決意をしたんだ。
麗:うん、縁がなかったと思って。いろいろ探してたけど、「なんか違う!私がやりたいことじゃない!」って思ってた。たぶんね、好きなことだから逆に...
──嫌いになりたくないみたいな?
麗:それもあるし、自分と違う思想に敏感すぎて。ちょっとでも違うと思うことがあると違和感になっちゃって。例えば在庫が捨てられてしまうこととか...。ビジネスとしてやるには仕方のないことだけどね。
──ビジネスで考えるとそうだよね。
麗:飲食店に興味を持っても、廃棄の問題にぶつかったり。とにかく、在庫がダメになっちゃう状況に対して、自分のなかですごく嫌な気持ちがあって。
これがジンに繋がるところでもあるんだけど、ジンってアルコールだからずっともつんだよね。当初持ってた違和感が、今やっていることに繋がってるっていうのはある。
──お酒は好きだったの?
麗:いや、それが飲めなかったの。
──えっ!飲めなかったの!?
苦手だったお酒が、得意になった瞬間
麗:人と喋るのは好きなのに、お酒が飲めないから飲み会やコミュニケーションにすごい苦手意識を持ってた時期もあって。大学時代は、甘いカクテルの代名詞みたいな「カシオレ女」だった(笑)
──マジか...!
麗:飲めないから残念がられてしまう空気とか、大学生になってお酒で盛り上がる場ってあると思うんだけど、そういう雰囲気に急に馴染めなくなっちゃって。夜は帰るキャラみたいな。昼だけパリピの子と遊んで、夜クラブに行く時はさよなら〜って感じで。
──テキーラとか飲めません、みたいな?
麗:それがね、まさかの話なんだけど、蒸留酒を飲めることに気づいてなかっただけだったんだよね。
ビールとワインと...いわゆるお酒飲める歳になって最初にみんなが飲むような醸造酒が全部飲めなくて。ビール1杯で気持ち悪いみたいな。それがGoogleに入ってちょっと経って、長く付き合っていた彼氏と別れてから解放されて...
──お酒飲めなかったのって、そのせいもあるの?夜遊びできなかった的な...?
麗:そうかもしれない(笑)合コンとかクラブとか行かなかったから...その彼氏と別れてから、本当に仲良い子達がクラブに誘ってくれて。
それでショットをガンガン飲んでたら、なんか周りの人たちみんな潰れていって...
──あれ、飲めるぞ?って(笑)
麗:そう、「私、蒸留酒飲める!」って!(笑)
蒸留酒って基本的にアルコール度数が高いから、蒸留酒を飲めるとお酒強いっていう印象になるんだけど、実はアルコール成分は醸造酒の方が多く含まれていて、色んな不純物とかもが入ってるから悪酔いしやすかったりするんだよね。本当にこれは相性。
──俺ね、逆なんですよ。ビールと日本酒は全然飲めるけど、ジンとかウォッカはすぐ酔っちゃう。麗ちゃんは蒸留酒派だったんだね。そこでハマったの?
麗:ハマるのはその後だね。クラブで飲む蒸留酒って、ウォッカとかテキーラじゃない?ドライのジンもショットで飲んでもそんなに美味しくはないから...ハマるというか、ちょっとお酒いけるぞってなった感じ。
──なるほど、それでお酒を嗜むようになっていくと。
Googleで芽生えた「作り手」への憧憬
──仕事は仕事でやってたんでしょ?Googleは良い会社だよね。
麗:そうなんですよ。良い会社なんですよ!
Googleはプラットフォーマーだから、やっぱり余裕があって。広告といっても、コンサルとしてお手伝いするというより、配信してもらった分が収益として入ってくるモデルだから。私は広告の営業をやってたんだけど、営業しなくても伸びるんだよね。
──そう!余裕が違うんだよね!
麗:私が入りたての頃はまだまだデジタル広告って伸び代があって。純増で市場が年に2倍くらい増えていって、何もしなくてもボーナスが出るみたいな。
──しかも、世界中どこのオフィスでも働けるんだよね。
麗:そうそう、だから旅行も出張もしまくってて、年に10カ国くらい行ってた。
留学のノリがそのまま続いてるような雰囲気もあったかも。オンオフがはっきりしてるというか、働いてる間はがっつり働いて、金曜日はTGIF!会社にお酒があるから、若手メンバーみんなで乾杯して、六本木で遊んで...みたいな。今とは全然違うカルチャーだった。
──めちゃくちゃ外資バリキャリ!何年働いたの?
麗:2年半くらいかなあ。途中から刺激的な仕事はできてたんだけど。金の原石を探すというか。面白くて伸びそうな会社を自分で選んでサポートするような部署に入れてもらえて、そこは大変だったけど、すごく楽しかったんだよね。
ただ、それをやってみて、広告とかPRとか、他人の言語を自分で解釈して世の中に伝えていくことが実は苦手分野だったって分かったの。「せっかく好きな会社の担当なのに、私なんも意味ないなあ」って思って。それが苦手だってなったから、「やっぱり私は自分で本当に良いと思ったものを作っていく方が性に合ってるし、得意なのかなあ?」って。
──そもそもを作る方ってことね。
麗:そうだね、広告やっててすごく思った。
──わかる。本当に良いものって広告しなくても売れるじゃん。俺もその矛盾にはずっと囚われてるかもなあ...。それで、会社で働きつつも、自分で作ってみたいという想いが出てきて、どうしようかなって感じだったんだね。
麗:うん、それはわりと長い間、どうしようって。
──作りたいものはあったの?
麗:ないの(笑)広告も分かんないし、自分は”食”の分野を諦めてるし、どうしたらいいんだっていう1年。
──なんかアクションはあったの?
麗:ちょっと考えてはいて、ゴリゴリ頑張ろうとしちゃうと辛くなるから、副業で何か関わろうと思って。
──転職しようというわけではなく、何かがあるわけじゃないけど、とにかく会社じゃない仕事をしようみたいな?
麗:そう、何があるわけでもないけど、なんかで副業しようって。
Googleって20%ルールっていう制度があって、自分が主体的に面白いと思えるプロジェクトがあれば業務外で関われる。だから、割と自分がサブの業務をすることに理解はある環境だったんだけど、Googleって食に関連する事業ってないんだよね。
──あー、確かに。
NPOの支援とか、人事システムの構築とか、ホテル業界とか色々あるんだけど、食関連って本当になくって。だから私は中じゃなくて、外だって思ってたんだよね。そのとき、別の文脈でクラフトジンに出会うんだけど。
「クラフトジン作りたい人いないかな」
何かの二次会で入ったお店にすごくいろんな種類のクラフトジンがあったの。さらにトニックウォーターが5種類もおいてあって。「トニックウォーターってそもそも1つじゃないんだ!」ってすごく驚いて。
「ジンのボトル全部開けて、香り嗅いでいいですよ。」って言われて、「香り嗅ぐものなの?ジンってショットじゃないの!?」みたいな。それでみんなで香りを嗅いでたら、例えばイギリスのものは、ふわーっとバラの香りがしたり。それでもう大興奮して「ジン、私すごい好きかも!」って。その夜10杯くらい飲んだんだけど...。
──すごいな...!
麗:全然酔わないの(笑)
っていう出来事があって「ジンいいなー」って思ってたけど、まだそこは趣味として、毎日ジン屋さんに行くという感じで。大興奮で、1ヶ月で100種類以上飲んだかな。会社の中でもジン博士みたいになってて。
──毎日ジン飲んで、次の日出勤してって、すごい働き方!趣味として極めてたんだね。でも、まだ副業はせず。ここからどうなるんですか?
麗:そもそもジンに対して気づいたことでいうと、ジンづくりって、めちゃめちゃ自由だからすごく思想を乗っけられる。本当にクラフトジンの作り手さんって一人一人全然違うことを考えながらジンを作ってるし、そういうアウトプットの幅にすごい魅力を感じたし。
それで、自分でも家でジンを作るようになったんだよね。
蒸留以外にも、「浸漬」という漬け込むやり方で作れるんだよね。ジュニパーベリーとか、色々素材を買ってきて作り始めて。やってみたら「あ、これは自分が表現したいものを表現できる場所だな」って思えて、すごい楽しかったんだよね。
副業すると決めたのと、ジンが好きだっていうのが分かって、2年くらい前の1月に、新年の抱負として「今年絶対に副業を始める!」って、宣言したの。
──かわいい、会社辞める!とかじゃなくて、とりあえず副業を始めるって。
麗:ちっちゃい一歩。そしたら、ちょうど1月末くらいに、オフィスの下で残業ご飯しながらその副業の話をしていたときに、ふと見たら後ろにメルペイの松本さんがいて。
私、大学院生のときに自分でもサービスづくりをしてたこともあって、松本さんに会ったことがあって。
目線を送ったんだけど、全然反応なかったから、声はかけずにそのままオフィスに戻ろうとしてるときに、「いま松本さんって、何やってるんだろう?」と思ってTwitterのタイムラインを見てたら、松本さんが「クラフトジン作りたい人いないかな」って呟いていたの!
──ええ!すごい...何その運命...!
麗:一瞬でDMするよね!「私じゃん!」って思って。
──なんてDMしたの?
麗:「Twitterを拝見して、お話ししたいです」って。そしたら一瞬で返事がきて。六本木の『泡BAR』に松本さんとカフェカンパニーの役員がいるから、おいでよって言われて、行く!って言って。そこでもう一瞬だったよ。「やろう!」みたいな。
──すごいね!けっこうそのツイートには反応があって、他にもやりたい人はいたんじゃないの?
麗:いたいた、他にも起業してる人とかいたみたいだけど、こっちは100種類飲んでるからね!(笑)
──結局、いかに好きかが大事だよね!
麗:1月1日に新年の抱負で「食の副業をします」って書いて、そしたら1月末に出会っちゃったわけですよ。1月中に目標達成しちゃったから、もうこの一年やることないな〜って。
──これからじゃん!(笑)その後どうなっていったの?
麗:最初は蒸留所をやろうとしてて、土地探しから始まったんだけど、私がへぼすぎて...。ゼロイチをやったことないから、土地見ても何も分かんなくて。
──その辺から任せてくれてたんだ。
任せてくれてたんだけど、松本さんは「こいつやべえな...」って思ってたと思う。土地を見ても「いいですね〜」くらいしか答えられなくて。
──土地の条件とか、酒販免許とか、色々あるもんね。
お酒って度数が高いと危険物になるから、消防法的にも色んなことを考えないといけないんだけど、そういう知識もゼロ。
──とりあえず家探すくらいのノリだったんだね。
麗:そうそう(笑)それで、私が調べて「ここでやりたいです!」って言った場所が本当にちんぷんかんぷんな場所だったみたいで、もう一瞬でぽしゃった。そんな感じでリサーチしてはボツで、ぽしゃり続けてきたけど、熱意だけはあるからリサーチ担当として置いてくれてて。
そこから半年くらいはGoogleとの両輪でやってたんだけど、さらに半年後くらいかな?10月にGoogleを辞めるということにしたんだけど。
──なんでそうなったの?ある意味覚悟があったわけでしょ?あれだけいい会社を辞めるっていうことは...。
やりたいことも、収入も、どっちも諦められない
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