32口径02

イカれた真実は32口径弾とともに

『フィッシャー・ナカジマ』が殺された! その事実は、矢のような速度で傭兵界隈を駆け巡った。

 この世界で名を知らぬ者はいない。奴の殺人ロッドがキャッチ&リリースしてきた命は、有に五百を超える。装甲車やバイオビーストですら葬ったという男が、脳天にチャチな風穴を空けられ死んでいた。

「一体どうなッてやがんだ!」

 傭兵たちが集まるバーのカウンターで、ジョッキを叩きつけながら『ゲンバ・カントク』が叫んだ。左手には得物の改造マンホール蓋。

「誰がアイツを……クソが……!」
「落ち着きなよオッサン、みっともなァい」

 ゴシックなエプロンドレスに身を包んだ『ブラッドマザー』がドリンクのグラスを揺らし、カントクを嗜める。彼女はしがない保育士であったが、ある日レイダーから子供たちを守るために鉄パイプを手にし、内なる破壊的母性に目覚めたのだ。

「マザーの言う通りだよ……これでボク達『オラクルガーディアンナイツ』の絆が乱れれば、それこそ『混沌機関エニグマ』の思う壺だ」

 物々しいHMDを装着した少年、『カースドヘッド』が同調する。彼は若くして狂っていた。常に超高精細AR空間越しの半仮想世界を見ており、物言いは極めて幻想的だ。しかし優秀な頭脳を持ち、俗世的な恐怖とも無縁のため、最年少ながら一目置かれる存在となっている。

「ケッ、ガキどもが……」

 カントクは吐き捨てながらも、冷静さを取り戻している。……そうでなければ、あのナカジマの相棒は務まらなかった。

「犯人探しはサツに任せればいいさ……仕事はできる奴らだからな」

 旧世紀ロボット模型群を神体として崇める男『モデラー・マガツジ』が、愛用ドリル銃の手入れをしながらつぶやく。

 ……そして、バーの片隅に。一人だけこの事態を別の視点で見ていた男がいた。静かに酒を飲みながらも、誰よりも平静ではいられぬ男。チャチな拳銃を携えた、駆け出しの名もなき青年が。

(……ナカジマを殺したのは、俺なんだ)

【続く】

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