music〜「音楽」

 musicという言葉をネットで調べてみると,聞いている人が気分よくなるように作られた音のpatternという意味のようだ。こんな風に書くと少し味気ない感じもするが,日本語で「音」「楽」と充てたのは秀逸なのかも知れない。

 昨日,大阪ビルボードで開かれた寺井尚子さんのステージに行った。ライブに行くということ自体久しぶりで,最近で,とにかく行きたいと強く願っていた寺井さんのライブだったので,わくわくしながら,開演を待っていた。オープニングの「エモーション」という楽曲の演奏が衝撃的で,感動的で,「楽し」かった。彼女のアルバム「フローリッシュ」はとっても素敵なのだけれど,さらにライブはアルバムでの演奏にない,あるいは演奏を超えたプラスアルファがあった。こんな弾き方があるんだ,こんな音を使って演奏するんだ,凄い,と驚きと感動の連続で,その後は珠玉の時間だった。なお,アンコール辺りで「スペイン」が聞けたらと,密かに,かすかな期待をしていたら,偶然だけれど,何と,演奏してくれたのです。ホント,感激でした。

 1970年前後ころだったか,日本で当時ジャズが結構はやっていた。アメリカからジャズが日本にたくさん入ってきて,紹介されていたようだ。当時,父はサックスにご執心で,会社の仲間とともにジャズの楽団をやっていた。今でいうと吹奏楽部,ブラスバンド部という感じかな。父に付き合わされて,練習場所やコンテストなどの会場に連れていかれた。レコードやオープンリールデッキなどで曲を再生していたのを,聞くともなく聞いていた。当時は,音楽のジャンルも曲名も何もわからない自分にとって,どちらかといえば退屈な時間だった。しかし,いくつか強烈な印象と記憶に残るロディーがいくつかあった。例えば,アメリカンパトロールとかテイストオブハニーとか,何十年と経った今になって,ようやく曲のタイトルなどが確認でき,「当時はとてもメジャーな曲だったんだ」とわかった。

 昔,家の中では,ラジオを付けっぱなしにしていた。泥棒よけという意味合いもあったようだが,小学校から帰ってくるといつもラジオが鳴っていた。車にはラジオしかなく,ラジオはほんとうに身近な存在だった。テレビはもう少し後になるが,ラジオの持つ味,語りかけるような親近感には及ばない。1970年以降,歌謡曲が席巻するようになった。人気のある曲は,これでもかくらい,ラジオで何度も流れた。だから,歌手名と歌詞とメロディーは自然と覚えた。その一つにブルーライトヨコハマがあった。先日,作曲家の筒見京平さんがなくなったとラジオで聞いたが,そのときブルーライトヨコハマの作曲秘話みたいな話があった。話によると,歌詞を渡されて曲を付けてくれと頼まれたそうで,いつまでにと聞くと,明日までと言われ,一晩で作り上げたとのこと。素晴らしい才能に恵まれた方だったのだと思いつつ,懐かしさのあまり,いしだあゆみの歌うブルーライトヨコハマが頭の中を流れた。

 今で思うと,印象と記憶に残った理由は,聞いていて楽しかったからなのだと思う。「いいね」「素敵」「わくわく」という感覚が大事なのだろうと思う。当時の印象と記憶に残った曲を今改めて聞いてみる。楽器とか音響とかいろんな面で進歩しているだろうし,演奏家や歌手によっても音作り,歌い方は随分と違う。しかし,当時感じた「いいね」「素敵」「わくわく」という感覚,同一ではないかも知れないけれど味わえる。

そう考えると,楽曲のもつ心というのは時空を超えるのかも知れない,同じ時代に生きている人だけなく,その後の時代,同じ世界線で生きているなら,語り継がれ,伝えられる,そして人の心をわしづかみにして放さない,そういうものかも知れないと,ふと思った。モーツアルトやベートーベンなどが今でも感動を呼ぶのはそのせいかもしれない。

 昔のものに限らず,最近の楽曲にも素敵なものがたくさんある。残念ながら,日常の忙しさに紛れ,そのまま流してしまっていたものもある。最近,時間ができて,いろいろと触れる機会が増えた。こんな楽曲があったんだと,発見がある。世の中には豊かな才能を持つ人がいるのだなぁと敬服する。そんな発見を通じて,自分の中で,「いいね」が一杯増やせればいい,増やしたい,もっと,もっと,素敵な「音楽」に出会いたい,そんなことを感じる。

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