青史 炎
短編集
五月。青が澄み渡る朝だった。 パークハイアット東京。4301号室。 南 純平(みなみ じゅんぺい)は地上200mの新宿から見渡す関東平野に、昔、スキューバダイビングで海に潜ったときに見降ろしたサンゴ礁群を重ね合わせていた。 遠くまでびっしりと詰まったビル群に朝日が一斉に差し込み、波のようにきらめく街並み。幾万とうごめく人工の湿原から立ち昇る蒸気に、人差し指の爪ほどの大きさで富士が地平に浮いている。 客室に備え付けのコーヒーを啜り
そいつはただ……、淋しかっただけさ。 テネシー州・メンフィス。 三年前、俺はある男の依頼で一ヶ月間その街で暮らした。パイプベッド、テレビ、缶ビールを十缶入れたら扉が閉まらなくなる冷蔵庫。家具といえるものはそれだけだ。白で統一された壁、天井、シーリングファン。要するに安宿だ。 気に入った事といえば宿の一階にある、道路にテーブルだけをせり出した食堂で、アフリカ系アメリカ人の女が作る、カリッカリに焼いたベーコンエッグ。 カリカリを歯に詰まらせなが