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あれ以来、火傷の少女の姿は見ていない

「自由になりたくないんです。この靴をはいたまま、標本室で、彼に閉じ込められていたいんです」



主人公は、働いていたサイダー工場で薬指の先を欠損させてしまう。
肉片はサイダーの中に沈んでいった。

サイダー工場を辞めた主人公は、「なんでも標本にする」という弟子丸氏のもとで働き始める。ー楽譜の音、鳥の骨、火傷の傷の跡、火事のあとに生えたきのこーなど、繰り返し思い出し、懐かしむための品物を持って来る人はいない。

標本の意義は、外の世界から切り離し、封じ込めること・分離すること・完成させること。
標本にすることで悲しい思い出を封じ込める。

静けさが漂う、奇妙でひそやかな関係と愛。
この関係が、愛が続くならば、標本になることだっていとわない。


(薬指の標本/小川洋子)



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