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惚れた弱み

元夫こと安倍くんはメンタルが弱いので、私と喧嘩した時はすぐにいなくなる。
全然帰ってこないし、電話も出ず、3日目になると私の好きなチューハイを買ってみたり、こそーっとバレないように帰ってひっそりとお風呂に入ったりして、気が付けば帰って寝てる。
「どこ行ってたの?ネカフェとか?」と尋ねると一言、
「山」と。
ずっこけた。
「山行ったらさ、誰もいない時間帯のはずなのにガサガサ音がするんだよ。人がいるんじゃないかと思って怖くなってさ」
やけに嬉しそうに語る彼を見て、(たぶん相手もそう思ってるだろうよ…)と呆れる私。
というか、山に2日籠れるメンタルの強さがあるなら私に謝れよ!
メンタル強いのか弱いのかどっちなんだよ!!

最初の頃こそ心配して着信の嵐になってしまったけれど、結婚して数年も経つと、念のため(事故に遭ってたりしたら嫌だから)1回だけ電話して、繋がることを確認してから(あと2日ね。はいはい)みたいな。
もう慣れである。

思えば付き合ってる頃から逃げ癖があって、ネットを通じて知り合った遠距離恋愛だったのだけれど、当時の安倍くんは昼は仕事、夜は夜学、更には遠距離のめんどくさい彼女(私)がいて、しんどくなったのだろう。
ある日、
『彼氏なのに何も出来なくてごめんなさい』
その言葉を残していきなりブロックされた。
もうこっちからするとビックリだし、電話しても繋がらないしで心配だし、共通の知り合いもいないからわからないし、友達に話を聞いてもらっては泣くし、忘れられないし引きずるしで約2年後。

もう2年も経つし、久しぶりに昔のブログでも読むかなと思ってページを開いてみたところ、1人の男によってコメント欄が荒らされている…。
うんざりしながらもチェックをし、よく読んでいくと、そのコメントが一つ一つ違う。
きちんと当時書いたテーマのブログに沿ったコメントが『最近になって』されているのだ。
…………あれ?
もしかしてだけれど、…安倍くんなんじゃね?

そう思い、とりあえずDMを送ってみると驚いた様子で、「自分はその『安倍くん』とやらではないけれどコメントしていた。私が全くログインしないのでそろそろこんな馬鹿なこと辞めようと思っていたところだった」と返事が来た。

お前絶対安倍くんだろ。

そう言いたいのを飲み込んで、またやり取り再開となったのだが、友達から反対されたりと色々あって、「ネットで知り合った関係なんかやっぱおかしいと思う」と、またブロックされてしまった。
家族と小樽に行く日に言われたものだから、気を抜くとお寿司を見てもオルゴールを見ても涙がぼろぼろ出てきて困った思い出がある。

そんな安倍くんと再会?したのは数ヶ月程のことだった。
安井、と名乗った彼は同じサイトで「よければ友達になっていただけませんか?」と。
私も二つ返事でオッケーした。
好きだったから。
今までこんなに人を好きになったことがなかったというか、喪失感が心身に影響を及ぼすまでになったことがなかったから。

『安井さん』は優しくて、敬語で、くだらない話をしたり、時に哲学的な話なんかもして、それに答えられなかったりもしたんだけれど、それを咎めたり馬鹿にしたりするような人でもなくて、メールしかしてないんだけれど、初めて会った時に彼が言った「波長が合うところが好きです」というのはこういうことなのかもしれないな、と思った。

そんなやり取りが続いて1年半程経った時、私の誕生日に、安井さんから「電話してもいいですか?」と連絡があって、電話番号教えて、電話が掛かってきて、他愛のない話をして、突然「美冬さん」と。
「ぼく本当は安倍です。…またお付き合いしていただけませんか?」
はい、と私は答えた。

それで上手くいったかというとそうでもなくて、また振られたり連絡が来たりしたので、28の時に、
「あの、…結婚しませんか?」
と私から告げた。
「このままだと私たち、40、50になっても同じこと繰り返すと思う。で、その時になって、『やっぱ結婚しとけばよかったね』ってなるのがすごく嫌で。上手くいかなかったら、それはそれで仕方ないし」
少しだけ沈黙があって、
「そうだね」とだけ答えがあった。
そうして私たちは結婚することになった。

婚約指輪をペアリングだと勘違いしていた私が「婚約指輪買おーぜ!」と誘ってしまったり、お金かかるから結婚式いらねーと思ってたら両家の親からダメだと言われたり(でもどっちからも援助なしだった…)、なんか色々あったんだけれども、息子も2人ほど出来たし、今は籍抜いてるけれどいずれは復縁予定で毎日頑張ってる。
これも惚れた弱みってやつなのだろう。
でも、ちょっとくらい自分を大事に出来てなくても、いいんだ、なんて。
安倍くんが幸せになってくれれば、それでいい

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