『我が焔炎にひれ伏せ世界』1巻の感想

ドーモ、こんにちは。低地埼玉に領土請求権を持つ者、しげ・フォン・ニーダーサイタマです。
本稿の内容はタイトル通り、12年ぶりのスニーカー大賞受賞と相成った『我が焔炎にひれ伏せ世界』(すめらぎ ひよこ先生)の感想文となります。

最初にお伝えしたいことは1つ、「面白いから読もう」ということです。

いやもう1つ伝えたいことがありました、それは後悔ですね。実は『我が焔炎にひれ伏せ世界』がこのタイトルを冠する前、カクヨムで公開されていた時にこの作品に触れるチャンスがあったのですが、当時の自分はタイトルだけで「なんか重そうな内容だな……」と判断して読まなかったんですね。

この判断を非常に後悔しています。僕自身がラノベを書くようになった手前、作品が書籍化作業によってどうブラッシュアップされたのか知ることは非常に勉強になっただろうに、と。あとすめらぎ先生は拙作を読んで下さっていたのでその点でも申し訳ない。

……推薦・後悔・懺悔と結局最初に3つ伝えるハメになりましたが、ここまで来たなら4つ目を加えても誰も文句は言うまいということで付け加えるなら、『我が焔炎にひれ伏せ世界』は「なんか重そうな内容」の作品ではありません。それでいて決して軽いテーマを扱っている訳でもありません。総じて、ライトノベルの王道を歩んでいる作品であるとお伝えします。

作品の魅力

そもライトノベルとは何か。

僕自身が量的に多くのライトノベルを読んでいるわけでもないので、これは独自解釈になりますが。僕は「とっつきづらい"小説"を、読みやすいかたちにしたもの」だと解釈しています。

つまりは文体を軽くするだとか、挿絵をつけるだとか、そういった「小説を読み慣れていなくても読みやすいように」あるいは「小説を読み慣れていても気楽に読めるように」努力が為された小説がライトノベルであると勝手に解釈しております。

さてこの定義に当てはめると、『我が焔炎にひれ伏せ世界』はまさにライトノベルであると言えるでしょう。

Mika Pikazo先生とmocha先生が描く魅力的なヴィジュアル、ギャグが満載された楽しく読める文体。どちらも読書の助けになり、また作品の魅力の一部となっている要素です。

では『我が焔炎にひれ伏せ世界』の魅力はそれだけなのか? というと、それは明確に否です。

ライトノベルをして「キャラ文芸」だとか「世界観がチープ(ライト)」だとか言う意見があります。もちろんそういった作品もあるでしょうし、まあ実際そういう作品に出会ってしまって「求めていたのはこれじゃない……」と思ったことはままありますが。

『我が焔炎にひれ伏せ世界』はそれらに当てはまらないよ、ということは断言出来ます。

5人のイカれた女の子たちを主人公に据え、彼女らの掛け合いが魅力である点は確かにキャラ文芸的と言えましょう。ですが彼女たちはただイカれているだけではなく、各々に芯があり、ギャグのためだけにキャラ崩壊を起こすような「使い捨て」的な運用はされていません。

例えば「人間性が終わっている」と評される少女サイコにしても、人心を理解した上で人をおちょくり、それでいて超えてはいけないラインは超えないような気遣いが垣間見えるような描写には「アッ、この娘に振り回されたい」と思わせる魅力があります。

いや僕にMっ気がある事とは無関係ですよ。ほら見てくれよ彼女の豊満なバストを。
僕はバストが豊満というだけでイマジナリちんちんが萎む人間なのですが、その上でバストが豊満なサイコに魅力を感じたということは、相当に魅力的な人格を描き出しているということです(この一文書いてて僕の人間性のほうが終わってる気がしてきたな)。

まあバスト・イマジナリちんちん反応を用いた魅力判定方法は置いておくとして、これらの魅力的なキャラクターが、後述するテーマに有機的に絡んでいくところを「キャラ文芸」の一言で切り捨てるのは、余りにも勿体ない評価だと思います。

この作品が扱っているテーマは決して軽いものではありません。ネタバレ回避のため詳しい言及は避けますが、メイン主人公ホムラが抱えるコンプレックスは暗く重いものですし(それでいて読みやすいのが凄いのですが)、秘された根源的欲求は共感を得られ……いや共感して良いのかな、彼女もだいぶ狂ってるしな……でも彼女に共感(感情移入)するとめちゃくちゃ気持ち良い読書体験が得られるのは確かなんですよ。

欲求の解放、抑圧からの解放は気持ち良いじゃん? それがイカれた女に共感した結果得られたものだとしても。まあとにかく共感してヨシ!

あとホムラがツツミに対して抱いている感情も共感を呼……共感して良いのかあのロリコンに……? まあ法を破らなければ内面は自由だよね。

ともあれ重いテーマに自然と共感させ、そこから解放に導くという1冊の流れは気持ち良いものです。……ところですめらぎ先生、しれっとテーマだけじゃなくて性癖にも共感させようとしてないです? 気のせい?

……さて残るは世界観。ギャグ要素が強いこの作品において世界観が蔑ろにされているかというと、それもまた否です。以下に詳しく書きます。

好き勝手書くターンです

ところで僕はただの歴史オタクです。自身で甲冑を着て戦ってみたり、中世ドイツ剣術を習ってみたり、歴史資料を読んだりするのが本来的な趣味です。

だからといってラノベの世界観に「これは歴史的ではない」「これはあり得ない」などと文句をつけない程度の分別はありますし、そういった点で作品を批判して快感を得るほど人間性は終わっていませんし、何よりその知識もありません(僕が本当に興味があるのは15~16世紀の南ドイツの剣術と傭兵システムだけで、それすら余技にも満たない知識しか無いのですから)。

結局のところ歴史知識や歴史再現(リエナクトメント)から得られた知見などは、作品の説得力の向上のために部分的に使えば、それで良いと思っています。

これらを踏まえた上で、巧みだなと思った描写を挙げます。

・武具の回収

作中で、倒した盗賊団から武具を回収する描写があります。その理由は「盗賊などに装備を渡さないため(意訳)」と説明されますが、これとても好きな描写です。

死体からちゃんと装備を剥いでおかないと、それらが非合法勢力の手に渡って「やたらと装備の良い盗賊団」のような厄介勢力が出来上がっちゃうのですね。こういうところに「人の営み」が現れていて、ゲーム的なお約束世界で遊んでいるのではないのだ、ということがわかる良い描写だと思います。

ちなみに略奪・鹵獲で装備を充実させた傭兵団などが、戦争が終わって山賊化して元雇用主(領主)を悩ませる、といったことは現実に起きていました。封建軍より装備の良い山賊とか最悪以外の何者でもないですね。

・装備の形状

ある人物の右肩鎧が、動かしやすいようにと左肩鎧と比して簡素になっている描写があります。これもグッときますね。

実際の西洋甲冑でも、右肩が簡素(正確には左肩が重装)になっているものは多く見られます。

出典: https://www.khm.at/

これは騎兵の戦闘方法に起因する形状ではありますが、ともあれ「強者はちゃんと自分の戦闘方法に合った甲冑をチョイスしている」とわかる、男心にグッとくる描写でした。ギャグキャラだと思った奴が実際的な戦闘思考しているの良いですよね。こういうところで世界の解像度が上がるの大好きです。

因みに僕は防御力の高いガントレットを買った結果、手首の可動域が足りず剣が振れなくて泣いた経験があります。防御力と可動域は概ねトレードオフだからね、仕方ないね……(そのガントレットはあまり手首を使わないポールウェポンを使う時専用の装備になりました)。

世界観については他にも「ギャグ向けの何でもあり世界観じゃないんだ」と思わせる描写は沢山あるのですが、総じて「地に足ついた世界観だからこそ、そこでイカれた女たちが破茶滅茶やるのが面白いんだ」と言えましょう。


長くなりましたが、読書感想文は以上です。
続刊も決定したとのことでお祝い申し上げるとともに、5人のイカれた女たちの今後に期待しております。



酒に酔った勢いでこの文章を書いた人:
しげ・フォン・ニーダーサイタマ(『鍋で殴る異世界転生』ドラゴンノベルス)

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