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ドイツ旅行中カジノで勝った帰りに黒人2人に追いかけられた話

この記事は、↑のツイートについての補足文章です。旅行の発端から書いていますが、カジノのくだりだけ読みたい人は見出しから「カジノで勝ったら黒人2人に追いかけられたよ」を選んで読んで下さいね。

勢いでドイツ旅行行ったらドイツ語が理解出来なかった

 それは仕事が嫌で嫌で夏休みに思い切ってドイツ旅行に行った時の事だった。僕は上司への怒りを糧に「俺は好き勝手やるぞ」と3ヶ月間独学でドイツ語を勉強し、一人でドイツへと向かった。

 空港に降り立ち、ホテルでササッとチェックインを済ませる……はずだったのだが、ここで早速問題が発生する。受付嬢にチェックインの書類を渡され、名前や電話番号などを記入する。各欄には「Name: 」「Telefonnummer: 」など丁寧に書くべきものを表記していてくれたので(当然ではある)ここまでは問題なかった。しかし書類を提出すると、受付嬢が余白部分を指さしながら「Unterschreiben, bitte(うんたーしゅらいべん、びって)」と言うのだ。ここで付け焼き刃のドイツ語が祟る。「Unterschreibenってなんだ……?

 Unterは英語で言うUnderだ。SchreibenはWrite。下に、書く……?確かに受付嬢が指差してるのは用紙の下の方の余白ではある。だが何を書けば良いのかわからない。「もっとゆっくり言って下さい」と頼むと、「U n t e r - s c h r e i b e n」とゆっくり聴き取りやすい発音で言ってくれた。しかもペンを走らせるようなジェスチャーを交えて。だが僕はペンを走らせて何を書けばいいのかわからない。付け加えると自分はコミュ障に分類される人間だ。音が聴き取れたのならスマホで翻訳にかければ良いのだが、「目前でスマホをいじるのは不躾ではないか」とコミュ障特有の謎の気遣いを発動させ、文明の叡智に頼る道を自ら閉ざしてしまっていた。ウンウン唸ってみるがやはりわからない。自分のドイツ語力の低さに泣きそうになってると、ある閃きが舞い降りた。英語なら中学で3年間学んだんだからいけるんじゃね…?(高校英語は寝てた)

 意を決して、「English, please」と言ってみた。受付嬢は真顔で「Sign, please」と言った。……そうですか。僕は漢字でサインした。

 受付嬢が何故か鼻で笑いながら(テメェ!)用紙を受け取ると、部屋のカードキーと紙切れをよこした。手を伸ばすと、受付嬢はドイツ語で部屋番号を言った。だがこれが聴き取れない。まあこの紙に書いてあるやろ……とタカを括って聞き流しながら紙を受け取り、受付を後にした。

 が、用紙に書かれていたのは「xx11」という暗号めいた英数字列。字が雑とかではなく、本当にxxと書いてあるのだ。このホテルは英数字の組み合わせで部屋を表記してるのか…?と思ってホテルを回ってみたが、どの部屋も4桁の数字で番号が振られている。上2ケタがわからねぇ!!僕の部屋どこ!! 僕は受付に戻り、ドイツ語で「悪いんですけど英語で部屋番号言ってくれませんか…」と言うと、受付嬢は英語で「0011です」と鼻で笑いながら言った。僕は部屋に入って泣いた。

 この日、僕は2つの学びを得た。1つ、ドイツでは0はxと省略する事がある。1つ、こちらのドイツ語は通じるが向こうのドイツ語は聴き取れない(加えて僕は英語の発話が出来ない)。以後、僕は会話のはじめに「僕はドイツ語で話すけどあなたは英語で話して下さい」とお願いする事になった。ドイツも日本も英語教育進んでる国で助かったぜ…。

真っ昼間からビールキメてたらスリに遭う

 前日は日も落ちてたしドイツ語が聴き取れないという現実に打ちのめされ、どこにも行かずにホテルの売店で買った軽食で腹を満たして寝た。翌日、この旅行の目的であった博物館巡りを開始した。

 朝、ホテルに歯ブラシ類のアメニティが無かったのでまずこれらを買い出しに行ったのだが、ドイツのレジは日本と違い、買い物かごから自分で商品を取り出しレジ前のベルトコンベアに乗せ、それを店員がバーコードリーダーで読み取って会計する……というシステムなのだが、これを知らなかった僕はベルトコンベアに買い物かごを直接乗せて店員に「Nein nein nein!!!」と鬼の形相で言われ押し戻され、他の客の作法を見て正しい会計方法を学んだり、レジ袋が無料配布されてないので商品を両手に抱えながらバスに乗ってホテルに帰ったりと再び現実に打ちのめされながら身支度をし、博物館に行った(完全に私怨だがそんなわけでレジ袋有料化はクソだと思ってます)。

 博物館巡りを楽しんでいると正午になり、博物館前の広場でカリーヴルストとビールが売っていたのでこれを買って昼間から飲酒行為を楽しむことにした。展示物の素晴らしさと現実に打ちのめされたストレスから酒を求めていた僕は、弱いにも関わらずビール2本を空け、完全に良い気持ちになっていた。思考能力の低下していた僕は、ふと公衆の門前にも関わらず「今いくら持ってたっけー!」と財布を開いた。そういえばかなりの額を突っ込んだままにしていた気がするぞと思ったのだ(リスク回避のために必要以上の額はホテルに置いていこうと思っていたのだが忘れてた)。なるほど確かに財布には700ユーロが入っていた。やっべ…と思った次の瞬間、横から伸びてきた手が札束をごっそり抜き取り、走り去った。ちらと見えた顔は東欧系の男、2人組。追う暇もなかったし2人相手に敵うはずもなし。泣き寝入りである。幸いにも小銭があったのでバスに乗ってホテルに帰った。

 一応リスク回避のために、日本に居るうちからスーツケースとパスポートケースの中に300ユーロを忍ばせておいたので残り3日の旅行期間中に食うに困る事はないのだが、このままではお土産代がない。遠くの博物館にも行きたいのに電車賃も足りない。そういうわけで、僕は「そうだ、カジノで増やそう」と思い立った。

カジノで勝ったら黒人2人に追いかけられたよ

 スられたからカジノで増やそうなどという考えは完全にアホのそれだが、元々カジノは行ってみたかったので準備はしていた。ドイツのカジノはドレスコードがあると聞いていたのでスーツを持ってきていたのだ。僕はホテルでスーツに着替え、冷静に考えてタネ銭に出来るのは200ユーロまでだなと考えて200ユーロを財布に突っ込んでカジノに向かった。

 僕は学生時代にホールデム(いわゆるポーカー)にハマッていたので、やるゲームはこれだなと決めてホールデムのテーブルを観察した。20時頃であったが、既に6人ほどが卓についており、目立つプレイヤーは以下の通りだった。

若いドイツ男: イケメン。明らかに強い。

東欧系のチャラ男: スキを見てはカードをくすねて自分の帽子に挿したりしてディーラーをイラつかせてる。腕前は弱い(打ち筋はタイト・パッシブ:手札選別は厳しいがベットが消極的)。

アラブ系のおやじ: ふんぞり返っており、今は勝ってるようで上機嫌。明らかに弱い(打ち筋はルーズ・アグレッシヴ:手札選別が甘い上にベットが強気)。

一応ホールデムについて補足すれば、このゲームは伏せた状態で各プレイヤーに2枚のカードが配られ、これはそのプレイヤーだけが見られる。その後場に5枚のカードが順に開示され、手札と場のカードの組み合わせで役を作るゲームだ。このゲームはプレイヤー同士の戦いだ。つまるところ、自分より弱い奴らをカモれば勝てる。僕はチャラ男とアラブおやじをターゲットに定め卓についた。

 ……のだが、卓についた瞬間ドイツ男に「伊達男wwwwwwwwwww」と爆笑された。見れば全員、Tシャツにジーパンというラフな格好だ。1番仕立ての良いスーツを着込んできた僕は完全に浮いていたのだ。誰だドレスコードあるって言ったやつ(後で確認したがこのカジノのHPにドレスコードありって書いてあったぞ!)。だがこれはチャンスである。序盤侮られた方が有利だからだ。ドイツ男に呪詛と感謝の念を送りながら、「小さく勝ちながら初心者のフリをする」というプレイを実行。ベットの仕方を「セオリーなーんも知りませーん」という感じにして、儲けを最小限にしつつアラブおやじとチャラ男の攻撃を誘う作戦だ。これは奏功し、2人から「Noob(初心者・へたくそ)」とゲラゲラ笑われた。だがドイツ男は鋭い目でこちらを見ていた。こちらの演技に気づいている。僕は弱敵2人を一瞬見てからドイツ男ににっこり笑いかけた。彼はニヤリと笑った。意図が通じたのだ(非言語コミュニケーションは最高!言語はクソ!と思った)。ここからは2人で謙虚に獲物を譲り合いながらチャラ男とアラブおやじを食い散らかした。まあこのドイツ男はたまに僕にガチの勝負を仕掛けてきやがったので、やっぱコイツ嫌いと思った。さっき2人で協力してカモろうぜって約束しただろうが!!(非言語コミュニケーションだが)

 カモ2人を騙せたなと感じたので、打ち筋をタイト・アグレッシヴ(手札選別は厳しく、ベットは強気)に変えて順調に持ち金を250ユーロ程度に増やした。チャラ男はブラフで降ろしてポット(掛け金の合計)を奪い、アラブおやじは強い手札で正面から叩き返すという戦術だ。ドイツ男がアラブおやじに「チップが重そうだな、ダイエットしろよ」と煽ると彼の打ち筋はさらに雑になり、それまで潤っていた彼のチップはみるみる減っていった。ドイツ男と僕がホクホク顔をしていると、キレた彼は席を立ち、持ち金全部をチップに替えてきた……と思ったら何故か僕に激しい攻勢を仕掛けてきた。煽ったのはドイツ男だろ! もしかしたら、鈍い彼でもドイツ男がツワモノである事は気づいていたのかもしれない。僕をターゲットにしたのは序盤舐めプをしてたのが活きてきたのだろうか。いずれにせよ、カモがネギを加えて向かってきてくれた事に違いはないので、アラブおやじの攻勢をにっこり笑いながらかわし、イラつかせながら良い手札を来るのを待つことにした。

 それから十数順、ついに手札にAAが来た。これはホールデムの初期手札としては最高のものだ。迷わずレイズするとアラブおやじがすかさずコール、他全員が降りて彼2人との一騎打ちになった。彼は「ふざけやがって、絶対に勝つからな」と英語で吐き捨てた。僕は英語は聞き取れるが発話は出来ないので「あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ!」と言いながら笑った。こういう時に何か粋な返しが出来たら格好良いので、学生の皆はちゃんと英語勉強しようね!

 フロップ(場に3枚カードが出る)はA, T, 5(スート:♤♢♧♡はバラバラ)。油断は出来ないがスリー・オブ・ア・カインド(3カード)でかなり自分優勢。ひとまずポットを膨らませつつ様子を見たいので少額ベット。アラブおやじコール。AKなら打ち返してくるだろう(僕がKQやQJならストレートの目があり、潰したい)。KKなら僕がAを持ってる可能性を考慮し、レイズないしフォールド(降り)したいはずだ。こういった観点から、アラブおやじの手はストレートを狙える手で、KKやAKの可能性は低いと判断した。

 ターン(場に1枚カードが追加される)はK。スートは場と何のシナジーもない。つまりこの時点でフラッシュの可能性は潰えた。だがストレートが完成する可能性はある。この時点で未だにスリーカードに過ぎない僕がとりうる選択肢は、チェック(何も賭けずに手番を送る)で様子見するか、標準的なベットで様子見するか、高額ベットで降ろしにかかるか。チェックで様子見は主導権を失う上、ポットが膨らまない。高額ベットは彼のKQなどの未完成ストレートを潰せる可能性があるが高リスクだ。僕は標準的なベットを選択。アラブおやじは何故か半ギレしながらコール。

 リバー(さらに場に1枚カードが追加される。最後の追加カード)でめくられたのはA。これで僕はAのフォー・オブ・ア・カインド(4カード)が完成し、勝利が確定した。あとはどうアラブおやじからカネを毟るかだ。チェックでブラフを誘うか、少額ベットでポットを膨らませつつブラフを誘うか、機械的に標準的なベットでこちらの意図を隠すか、高額ベットでこちらの手札の強さを誇示しているように見せるか。チェックはターンの時と同じで良策とは思えない。標準的と高額ベットは降りられる可能性がある。アラブおやじは何故かキレている。おそらく大した手ではないが、僕を降ろしたくてたまらないのだろう。僕は少額ベットでブラフを誘うことにした。するとアラブおやじはキレながら3倍レイズ。しめた。すかさずオールイン(有り金全部賭ける事)で打ち返す。アラブおやじもコール(彼の持ち金は僕の持ち金より少なかったので、結果的にオールイン)。 両者が手札を開示し、両者の手札はAAとKT。ディーラーは全てのチップを僕の前に差し出した。アラブおやじは英語で何かを喚き散らしながら立ち去った。

 その後、流石に誰も僕との勝負に乗ってこなくなったので30分ほどで切り上げて帰る事にした。ゲーム中に買った数ユーロのジュースと、ディーラーに渡した10ユーロのチップを除いて370ユーロ勝っていた。スられた額には届かなかったが、お土産代としては十分だろう。ホクホク顔でカジノを出て、バス停に向かおうと歩いていると。後ろから2人の足音が近づいてくる。おや、と思ってカーブミラーで背後を確認すると、身長2メートル近い黒人2人が歩いてくる。時刻は深夜2時30分を回っている。気味が悪いと思って足を早めると、黒人2人もさらに足を早めて距離を縮めてくる。

これは、ヤバイ。

危険を察知した僕は近くのバーなり何なりに逃げ込もうと考え、真っ暗な街道で光が漏れている店に向かって歩く。1件目、バーテンも客もめちゃくちゃガラ悪い。通り過ぎて2件目、バーテンも客も黒人。昼間に東欧系の男2人組に財布の中身をスられた僕は、人種で固まって犯罪に手を染めてたら……と考え、ここもスルー。しかしもう周囲にやってる店がない。しかも街の明かりを頼りに進んでいたので目的のバス停の場所もわからなくなった。そして背後の2人組の足音は着実に近づいてくる。

詰んでない?

と思ったが、幸い履いていた靴は履きなれた革靴。走れる。そう判断し、大通りのカドを曲がった瞬間に走り出した。

走り出したはいいが、黒人2人もやっぱり走って追ってくる。この年のドイツの夏は寒く、深夜2時も後半に入った今はかなり冷え込んでいたが、それとは別の悪寒でいくら走っても暑さを感じないどころか内臓が冷える感覚すらある。「心胆を寒からしむる」ってこういう事かガハハ、と変な笑いが出たが今考えると全く笑い事ではない。あてもなく走り、直感で大通りを左折すると目の前に地下鉄の入り口があった。考える間もなくそこに文字通り飛び込み、踊り場との距離に「これは着地ヤバくね?」と思ったが気づいたら階段の踊り場を走り続けている自分がいた。背中に土がついていたので後で気づいたが、無意識に前回り受け身を取って立ち上がり、そのまま走っていたらしい。ありがとう中学柔道部の先生、受け身に助けられたのはこれで2度目です(1度目は車にはねられて反対側車線までふっ飛ばされた時)。腰痛で半年で退部したけど。 この受け身で足音が殺されたせいか、黒人2人は僕に気づかず足音が地上を通り過ぎていくのが聞こえた。数分ほど物陰に身を潜めていると、どうやら完全に撒けたらしく追手はもうなかった。

で、その時ゲラゲラ笑いながら撮った午前3時の地下鉄駅の写真がこちらです。

なんで記念撮影してるんだ……?

この記事を読んだあなた、一人で外国旅行する時はマジで気をつけてね!!

ちなみに翌日、ホテル(ベルリン)から遠く離れた戦車博物館に行ったのですが、帰りの特急列車に乗り遅れたばかりかスマホの電池が切れて(戦車の写真撮り過ぎ)帰り道がわからなくなり、道中バスのおっちゃんや大学生の兄ちゃん達に「ドイツ語で言って英語で聴く」で何とか案内してもらって帰還したエピソードがあるのですが、本当に何も反省してないですね。

皆さんは一人旅行する時はマジで気をつけてね!!


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