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価値創造プロセス〈統合報告書解説①〉

統合報告書の注目コンテンツについて、シリーズで解説していきます。
第1回目は「価値創造プロセス」についてご紹介します。
※このシリーズは不定期発行でお届けします。

価値創造の道筋を示す物語(ストーリー)

統合報告書らしいコンテンツとして、真っ先に思い浮かべるのは、やはり「価値創造プロセス」でしょう。価値創造プロセスはいわば、各企業がどのような過程を経て価値を生み出していくかを説明するフローチャートとも呼べるものです。

2013年に公表されたIIRC(現・IFRS財団)「国際統合フレームワーク」の「基礎概念」の1章に価値創造プロセスの在り方が説明されており、その形状から通称「オクトパスモデル」と呼ばれる図の存在を耳にした方も多いかもしれません。

その論理をごく簡単に言うと、
各企業が持つ財務、製造などの資本を投入(インプット)し→(事業活動)によって→製品、サービス(そして、廃棄物も)を産み出し→それらによって経済的・社会的価値(アウトカム)がもたらされる、というストーリーです。さらにそこから新たなインプットにつながる、というサイクルを繰り返していきます。

統合報告書の黎明期には、生真面目な日本企業らしく「オクトパスモデル」を忠実に守る事例がほとんどでしたが、10年近くが経過した現在、各社の社風・経営理念・行動などを前提とした、オリジナリティあふれる「価値創造プロセス(ストーリー)」が見られるようになりました。

年々、独自の進化を遂げる

それでは、具体的に各企業の統合報告書2023年版の事例を見てみましょう。
原案の「オクトパスモデル」は極めてシンプルな構造であり、インプットからアウトカムまでは左から右に流れるチャートとなっています。インプットからアウトカムまでを「ビジネスモデル」とし、その周辺には外部環境、使命とビジョン、ガバナンス、リスクと機会、戦略と配分といった統合報告フレームワークの「内容要素」に則した事項が記されています。

価値創造プロセス 国際<IR>フレームワーク(日本語版)より引用

これを踏まえ、各社の価値創造プロセスをタイプ別に整理してみます。
(いずれも順不同)

プロセス自体をサイクルにする

左から右に流れ、また右に戻るという直線的な流れをサイクル(円形)で表現した例

  • 株式会社LIXILグループ(統合報告書)

  • 株式会社SCSK(統合報告書)

  • 株式会社メニコン(統合レポート)

  • 株式会社すかいらーくホールディングス(統合報告書 2022年12月期)
    など

右肩上がり

持続的な成長を見た目で明確に示している

  • J.フロントリテイリング株式会社(統合報告書)

  • 太陽ホールディングス株式会社(統合報告書)

  • 日本郵船株式会社(NYKレポート)

  • 株式会社伊藤園(統合レポート)

  • 三菱ガス化学株式会社(MGCレポート)
    など

シンプル

極力、情報をそぎ落とし、コアな部分のみを掲載

  • 株式会社サイバーエージェント(Cyber Agent Way)

  • 三井物産株式会社(統合報告書)

  • 株式会社ゴールドウィン(統合報告書)

  • ショーボンドホールディングス(統合報告書)

  • 栄研化学株式会社(統合報告書):インプット・アウトプットは別紙
    など

独自の考え

当該企業の考え方、社風などが如実に表れている例

  • 株式会社堀場製作所(HORIBA REPORT 2022-2023)

  • 本田技研工業株式会社(Honda Report)

  • 森永製菓株式会社(統合報告書):左ページでサイクルを示し、右ページの経営計画・ビジョン・パーパスと連携させる二重構造

  • 株式会社オリエンタルランド(統合報告書):ハピネス創造プロセス
    など

縦流れ

左右ではなく、上下に流れるスタイル

  • 株式会社資生堂(統合レポート):オンラインレポートのため

  • 株式会社JERA(統合報告書):インプットのみ左から右
    など

このように、価値創造プロセスの表現方法は多様化しています。今後も統合報告書を発行する企業は増加し、新たに価値創造プロセスを作成する必要に迫られるでしょう。プロセス全体を形にするのは非常に難易度が高く、時間もかかるかもしれませんが、作成する過程における社会課題の認識・自社が保持する資本や成果物の把握・自社が社会に対してもたらす価値などを整理することは、報告書作成のみならず、経営においても非常に有意義なものとなると考えます。

次回は「人的資本」について解説する予定です。

株式会社ファイブ・シーズ PFP研究所
主任研究員 西坂 洋一