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365日色の話 中学1年剣道少女「R」ちゃん初めて出稽古に行く!九州男児の部活指導員の夫作。 

体幹と腕力強化の地味な稽古に耐えた「R」は、
何となく剣士としての動きができるようになってきた。
そんなある日、
担任の先生から
「実は、来月初めに女子団体戦の話がきました。」と。
団体戦があることでより多くの子供たちに
試合経験を積ませられるとのことらしい。
教育委員会も、よう考えとる。

先生は続ける。
「ただ、当校は「R」だけなので団体を組めません。」
「そこで隣の強豪校に3名の女子部員がいますので、
そこに「R」を入れて貰って
4人チームで参加したいと思っています。」と。

「ほーー、それは有難い。是非その方向でー。」と私。
「先生、試合までそう時間がありませんね。」
「一度だけでも団体戦のメンバーと稽古せんといけませんな。」
「そうそう、それなんですけど、」と先生。
「実は、来週土曜日に先方の中学へ出稽古にと
もうすでに申し込んでいます。」
 流石、手回しのいいことですな!

「R」に団体戦のことを話す。
「先生、団体戦のメンバー私でいいんですか?」
嬉しいような不安なような顔で気持ちをもらす。
「はじめての時は誰でもドキドキだよ。心配いらん。」

ただ、「R」は今、壁に当たっている。
剣道の基本で大切な打突動作「一足一刀」の打ちが出来ない。
送り足で間合いに入り、
一足で打ち間に飛び入り、
面や籠手、胴を竹刀の一振りで打ち抜く
「打突の動作」のことだ。

剣道をはじめる場合、必ずものにしなければならない動作だ。

「R」は、送り足は実にうまくやる。
しかし、一足一刀の間合いに入ったら前に置いている右足を
少し浮かせて前に滑らせながら、
左足をエンジンに右足を大きく踏み込んで打突するのだが、
「R」の場合、
一足一刀の打突に入る際、
さらに前にある右足に左足を引きつけて飛び込むので
間合いが詰まり過ぎて
有効打突に必要な竹刀の「物打ち」(竹刀の先端に近い)で打てず、
竹刀の中程で打つことになってしまうのだ。

これは、相手からすると一足一刀の打ちに
余計な左足の引きつけが入ることで
「R」の動きが丸見えで、
先(せん)を取りやすくなる。
だから、中々一本が取れない。
重大な欠点なのだ。

そこで、この出稽古を機に改善特訓をすることに・・・。

「R」よ。
「君の攻めは、右足をまず出して左足をそこに引きつけている。
その勢いのまま、
「一足一刀」の打突へと進む。これだといつまで経っても
一足一刀の打突はできないよ。」

「そうなんです。
気持ちと体がうまく動かせなくて・・。
より大きく踏み込もうとして、
どうしても左足を引きつけてから飛んでしまうんです。
自動反応とでもいうんですかねー?」

「よし、ではこうしてみよう。」
「間合いを詰める攻めのとき、
右足を先に前へ動かさず、
左足で右足を押すように前に攻め、
打ち間に入ったら右足を浮かせ、左足に体重が乗った瞬間に
左足で床を蹴りだしてジャンプ!
右足を大きく踏み込んで打突する。」

「こうすれば、一足一刀の打ちがいやでも出来るはずだ。」
「あ、はい、やってみます。」

「R」は、何度も何度も繰り返し、繰り返し、
「一足一刀」の打突に挑んだ。

「R」よ。
「地稽古をやろう。」
「はい、お願いします。」
「R」と私は対峙した。

何度かの打ち合いの後、
頃合いを見て少し攻めを入れると
「R」は、何度も繰り返した左足で
右足を押して攻める足遣いで間合いを詰めてきた。

こちらが僅かに打突の気配を見せると
「R」は、打ち間を見極めて、
真っすぐに面に来た。
無駄のないコンパクトなキレのいい面だ。

ものの見事に面を割られた。
実に一足一刀の面がここに完成した。

「いい面だった。」
「Rどうだったかな?」と問うと
「先生、今、自然んに竹刀の物打ちで面を叩けました。」
「これで良いんですよね!」
「やった~!」

こんな短時間でものにするとは、
たいしたやつだ。
これで何とか、試合にはなるだろう。

稽古が終わり、「R」と私は正座をし面をとり「黙想」をする。
汗を拭う。
そばにいつの間にか担任の先生が正座をしていた。

私は、「R」に問う。
「今度、他校へ初出稽古に行くが何をしなきゃならんかな?」
「はあー・・」
「先生、私は・○○✖?▽△**@?ですから、何といいますか
○○✖??:**◆@!?です」と。
腕まで組みだして、頭を振ってひとり言のように話した。

私曰く、「R」よ。
「今の話は、まったく分からんね。
話の内容も考えもちっとも
伝わってこん!」
「何を考えて人に話をしようと思っとるのか!」
「そんなことじゃ、社会じゃ生きていけんぞ。大丈夫か?」

「いいか「R」。
「人に話をする時は、まず自分の思いや考えをどうやって相手に
正しく伝えるかが大事だ。
そのための必要なテクニックがある。」

①つ、相手との距離を考えて、声の大きさを決める。
ここは武道場なのだから、
それなりに大きな声でないと相手は聞きとれん。

②つ、相手の目を見て、注意を自分に集中させる。

③つ、一つ、一つの話の内容をまとめながら
分かりやすくゆっくり話す。

「これは、人生と社会が
人とのコミュニケーションで成り立っているということに繋がっている。」
「自分を分かってもらい、
誰からも可愛がってもらえるための必殺技なんだよ。
最低限のね。コミ能力は生き抜く最大の武器になるぞ。」

「もう一度、話してみて・・!」
「はい。」
「え~。私は、今日は、一足一刀の打ちが解ったような気がします。」
「出来なかったことが何とか出来て、本当に嬉しかったです。」
「大きな振りしかできない打突まで、
コンパクトにキレがよくなったことが
足捌きとこんなに関係していたなんて、
初めて気づきました。」
「それと、出稽古に行ったら
しっかりと今の打突で
自分を認めて貰いたいと思います。」

担任の先生曰く、
「今のお話は、とても良い話でした。」
「人が生きていくためのスキルとして、ほんとうに大切ですから。」
「人間育成に剣道は大変有効だと改めて思いました。」
「「R」君、良くすぐに修正して話ができたね。
それには感心したよ。」

「さて、最後の質問だ。」

「他校へ出稽古に君は行く。」
「迎えてくれる他校の皆さんや先生のことを考えたかな?」

「R」曰く、
「いいえ。そんなことは思いもしませんでした。」

「Rって、どんな子なのかな?」
「ワクワク、ドキドキするね・・!」
などと、君に思いを馳せているんじゃないかな?」

いいか「R」。
「まず、体育館の入り口で
しっかりと感謝の気持ちで道場に一礼をする。
そして、先生を見つけたら真っすぐに駆け寄って
「○○のRです。
今日はよろしくお願いします。」と挨拶。」
「続いて、仲間と思われる女子部員に近づいて笑顔で挨拶。」
「最低でもこれくらいは必ずやって欲しい。」

「剣道は、礼節を重んじる。」
「これは、礼節を身に付ける一歩だよ。」
「人とのコミュニケーションの大事な動きだ。
このことだけでどれだけ稽古が楽しくなり、
ストレスがなくなるか・・・良く考えてみろ。」

さあ、いよいよ初めての出稽古がはじまる。







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