vol.6 高学歴有名銀行勤務のオロゴンさんが東京で力尽き、不動産賃貸業で人生を再生した話
オロゴンさん サウザーの白熱教室
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※試聴版。オリジナル版(59:26)は購入後に視聴可能。
第六話(最終話)
一度、腰まで浸かったら、抜け出ることはできない銀行員という職業。
その仕事の特殊性により転職しやすいスキルが身につきにくく、強い同調圧力で盛大な結婚式、新車、新築の住居、生命保険、等々…銀行員はその人生に多くのロックをかけられていく。
これらの支出を下支えする高い年収がまた秀逸で、この年収が高いばかりに年収ダウンの転職を受け入れ難くし、ローンの支払いがあれば事実上、転職できない。
そうして銀行員は、はたと気付く。
自分がもう後戻りできない所まで駒を進めていて、腰まで沼に浸かっていることに。
既に退路はなく、ローンに包囲された状態であることに。
「逃げ場のない追い詰められたブタ」はこうして完成する。
追い詰められたブタはどんなに殴られようとも、酷い扱いを受けようとも、銀行の給料というエサを貰わなければ生きていけないから、我慢する。
借金さえなければ、全てを投げてゼロからやり直すこともできる。
しかしローンが、借金の支払いが、それを許さない。
資産を整理して自己破産する手もある。
しかし、それには莫大なエネルギーが要るし、その決断ができる者であればそもそもローンなど組まないであろう。
オロゴン氏も、勤続10年を超えた。いよいよその盤面は詰みつつある状況であった。
500万円の結婚式を挙げ、毎日飲み歩いて月に15万円使い、子供も生まれた。
ただオロゴン氏が幸運だったのは、転勤だったので住宅は賃貸、クルマにも興味薄く中古の軽自動車で不満がなかったという点である。
人生をロックする強力な一手、ローン。借金。
多大なダメージは受けつつも、この致命傷だけは避けていたのだ。
そして妻に癌が見つかる。
気が付けば、自分の身体もボロボロだ。
今まで忙しさにかまけて先延ばしにしてきた人生を、足下を。
今一度見つめ直すことにした。
折良く時代は仮想通貨バブル全盛期。
オロゴン氏にも数千万円の含み益。
また同時期にかつての先輩から「事業を一緒にやらないか」という声掛けーー
これは一種の運命であろう。
オロゴン氏はこれら運命の巡り合わせにより銀行を辞める決心ができた。
逆に言えば、妻の生き死に、経済的な余裕(+借金なし)、転職先の確保という、これほどの条件が揃わなければ、銀行からの脱出は難しいのである。
これらのうちひとつでもピースが欠けていたら、オロゴン氏は今なお銀行で消耗していたであろう。
そうして銀行という城郭から抜け出して、オロゴン氏は様々な事業に関わっていく。
土地の転用と販売、海外からの人材派遣業、フランチャイズ。
そしてふとしたきっかけで「サウザーラジオ」と出会い、ボロ戸建て投資と出会う。
ここでボロ戸建て投資の現状にも触れておかねばなるまい。
近年、サウザーラジオを筆頭にしてYouTubeや不動産ポータルサイトのブログ記事で若手の不動産投資家の発信が目立つようになってきた。
そのピークは2020年頃と記憶するが、ここで多くの書籍が出て、大衆雑誌にも記事が載り、多くの人がこのコロナ禍で副収入の道を探した結果、不動産市場は過熱した。
「FIRE」という単語の最盛期であった。
特に、現金一括購入ができる築古の戸建てーーいわゆるボロ戸建て投資のマーケットは、参入ひしめく鉄火場となった。
かつて軍神・加藤ひろゆき総統が処女作『ボロ物件でも高利回り 激安アパート経営』を著したのは2007年のことである。
当時、不動産というものは地主が土地を担保に借金をしてアパートを建てるのが当たり前だった。
そこで加藤さんは築古で難があるアパートや戸建てを安値で買ってDIYで再生するという手法を世に問うた。その独特の文体と、力が湧いてくる語り口によるこの書籍が市場に与えた影響は大きい。
このニッチでマイナーな手法が13年の時を経て最盛期となったのが2020年であった。
こうして市場から、100万円以下の物件は消え去った。
不動産というのは、もちろん有限なものである。
それを狙う者が増えれば枯渇するのは当然だ。
そして需要>供給となれば価格は上がる。
今では、いかに非公開情報を川上や源流で得ていくか、の戦いに突入している。
一例を挙げれば、まだ存命の後期高齢者と接触し、いつか来るその最期の日に譲り受ける準備を、水面下で進めている者すらいる。
こうして不動者業者に流れる前に押さえられてしまっては、従来の方法(不動産ポータルサイトの巡回など)の難易度が上がったことも理解できよう。
よく揶揄される表現で「不動産流しそうめん」というものがあるが、不動産ポータルサイトなど下流も下流だ。
エキスパート達はそうめんの原料の麦から既に押さえているのである。
いや、その麦の種から押さえているし、畑から押さえる動きすらしている。
しかしながら不動産という投資商品の輝き、それ自体は失われてはいない。
かつて10年前のボロ戸建て投資のように50万円で購入し利回り200%などは難しくなったが、300~500万円で購入して利回り15%などは可能である。
株式投資においては3%の利回りがあれば優良株と言われるこの時代においては「資産運用」という切り口では抜群の効率と安定感を誇る。
しかしながらこれも都市圏では実現が難しい。
ボロ戸建ては、地場産業でありその特産地でなければ獲得できないものだからだ。
なぜボロ戸建てが発生するのか。
冷静に考えてみると、それは人が住まなくなったからである。
そしてその家に住みたいという人が少ないから、ボロ戸建ての値段は下がっていくのである。
つまり需要と供給のバランスが崩れている地域にボロ戸建ては出現し、それが甚だしい地域は特産地となるのだ。
そうなると自ずと特産地は限られてくることがわかる。
すなわちかつて栄華を誇り多くの人口が居たが、今では衰退して過疎化が進んでいる地域である。
ここに近く住む人や地の利がある人はボロ戸建てに邁進すれば良い。
しかしながらそうではない人が不動産一本槍で独立起業を狙うのは厳しい時勢である。
そうなるとやはり、「自分の商品を作って売る」という基本。
つまり「事業」によって稼ぐという正攻法が取るべき道となるだろう。
不動産賃貸業も、物件・部屋という商品をマーケットにおいて「貸し出す」という「事業」のひとつの形態なのである。
最終話では事業の作り方についてオロゴン氏の知見が開陳される。
新たな切り口での事業形態を知ることができるだろう。
本作は、従来の勤め人という生き方、その生き方を赤裸々に語ったもので、オロゴン氏はまさに最後の徒花。
令和の世には、このような企業文化はもう少なくなっているだろう。
ただそこには多くの犠牲と涙があった。
その犠牲の上に、今日の勤め人がある。
我々は伝えなければならない。
我々の愚かで、切ない歴史を。
をはり
ヤコバシ著
一度、腰まで浸かったら、抜け出ることはできない銀行員という職業。
その仕事の特殊性により転職しやすいスキルが身につきにくく、強い同調圧力で盛大な結婚式、新車、新築の住居、生命保険、等々…銀行員はその人生に多くのロックをかけられていく。
これらの支出を下支えする高い年収がまた秀逸で、この年収が高いばかりに年収ダウンの転職を受け入れ難くし、ローンの支払いがあれば事実上、転職できない。
そうして銀行員は、はたと気付く。
自分がもう後戻りできない所まで駒を進めていて、腰まで沼に浸かっていることに。
既に退路はなく、ローンに包囲された状態であることに。
「逃げ場のない追い詰められたブタ」はこうして完成する。
追い詰められたブタはどんなに殴られようとも、酷い扱いを受けようとも、銀行の給料というエサを貰わなければ生きていけないから、我慢する。
借金さえなければ、全てを投げてゼロからやり直すこともできる。
しかしローンが、借金の支払いが、それを許さない。
資産を整理して自己破産する手もある。
しかし、それには莫大なエネルギーが要るし、その決断ができる者であればそもそもローンなど組まないであろう。
オロゴン氏も、勤続10年を超えた。いよいよその盤面は詰みつつある状況であった。
500万円の結婚式を挙げ、毎日飲み歩いて月に15万円使い、子供も生まれた。
ただオロゴン氏が幸運だったのは、転勤だったので住宅は賃貸、クルマにも興味薄く中古の軽自動車で不満がなかったという点である。
人生をロックする強力な一手、ローン。借金。
多大なダメージは受けつつも、この致命傷だけは避けていたのだ。
そして妻に癌が見つかる。
気が付けば、自分の身体もボロボロだ。
今まで忙しさにかまけて先延ばしにしてきた人生を、足下を。
今一度見つめ直すことにした。
折良く時代は仮想通貨バブル全盛期。
オロゴン氏にも数千万円の含み益。
また同時期にかつての先輩から「事業を一緒にやらないか」という声掛けーー
これは一種の運命であろう。
オロゴン氏はこれら運命の巡り合わせにより銀行を辞める決心ができた。
逆に言えば、妻の生き死に、経済的な余裕(+借金なし)、転職先の確保という、これほどの条件が揃わなければ、銀行からの脱出は難しいのである。
これらのうちひとつでもピースが欠けていたら、オロゴン氏は今なお銀行で消耗していたであろう。
そうして銀行という城郭から抜け出して、オロゴン氏は様々な事業に関わっていく。
土地の転用と販売、海外からの人材派遣業、フランチャイズ。
そしてふとしたきっかけで「サウザーラジオ」と出会い、ボロ戸建て投資と出会う。
ここでボロ戸建て投資の現状にも触れておかねばなるまい。
近年、サウザーラジオを筆頭にしてYouTubeや不動産ポータルサイトのブログ記事で若手の不動産投資家の発信が目立つようになってきた。
そのピークは2020年頃と記憶するが、ここで多くの書籍が出て、大衆雑誌にも記事が載り、多くの人がこのコロナ禍で副収入の道を探した結果、不動産市場は過熱した。
「FIRE」という単語の最盛期であった。
特に、現金一括購入ができる築古の戸建てーーいわゆるボロ戸建て投資のマーケットは、参入ひしめく鉄火場となった。
かつて軍神・加藤ひろゆき総統が処女作『ボロ物件でも高利回り 激安アパート経営』を著したのは2007年のことである。
当時、不動産というものは地主が土地を担保に借金をしてアパートを建てるのが当たり前だった。
そこで加藤さんは築古で難があるアパートや戸建てを安値で買ってDIYで再生するという手法を世に問うた。その独特の文体と、力が湧いてくる語り口によるこの書籍が市場に与えた影響は大きい。
このニッチでマイナーな手法が13年の時を経て最盛期となったのが2020年であった。
こうして市場から、100万円以下の物件は消え去った。
不動産というのは、もちろん有限なものである。
それを狙う者が増えれば枯渇するのは当然だ。
そして需要>供給となれば価格は上がる。
今では、いかに非公開情報を川上や源流で得ていくか、の戦いに突入している。
一例を挙げれば、まだ存命の後期高齢者と接触し、いつか来るその最期の日に譲り受ける準備を、水面下で進めている者すらいる。
こうして不動者業者に流れる前に押さえられてしまっては、従来の方法(不動産ポータルサイトの巡回など)の難易度が上がったことも理解できよう。
よく揶揄される表現で「不動産流しそうめん」というものがあるが、不動産ポータルサイトなど下流も下流だ。
エキスパート達はそうめんの原料の麦から既に押さえているのである。
いや、その麦の種から押さえているし、畑から押さえる動きすらしている。
しかしながら不動産という投資商品の輝き、それ自体は失われてはいない。
かつて10年前のボロ戸建て投資のように50万円で購入し利回り200%などは難しくなったが、300~500万円で購入して利回り15%などは可能である。
株式投資においては3%の利回りがあれば優良株と言われるこの時代においては「資産運用」という切り口では抜群の効率と安定感を誇る。
しかしながらこれも都市圏では実現が難しい。
ボロ戸建ては、地場産業でありその特産地でなければ獲得できないものだからだ。
なぜボロ戸建てが発生するのか。
冷静に考えてみると、それは人が住まなくなったからである。
そしてその家に住みたいという人が少ないから、ボロ戸建ての値段は下がっていくのである。
つまり需要と供給のバランスが崩れている地域にボロ戸建ては出現し、それが甚だしい地域は特産地となるのだ。
そうなると自ずと特産地は限られてくることがわかる。
すなわちかつて栄華を誇り多くの人口が居たが、今では衰退して過疎化が進んでいる地域である。
ここに近く住む人や地の利がある人はボロ戸建てに邁進すれば良い。
しかしながらそうではない人が不動産一本槍で独立起業を狙うのは厳しい時勢である。
そうなるとやはり、「自分の商品を作って売る」という基本。
つまり「事業」によって稼ぐという正攻法が取るべき道となるだろう。
不動産賃貸業も、物件・部屋という商品をマーケットにおいて「貸し出す」という「事業」のひとつの形態なのである。
最終話では事業の作り方についてオロゴン氏の知見が開陳される。
新たな切り口での事業形態を知ることができるだろう。
本作は、従来の勤め人という生き方、その生き方を赤裸々に語ったもので、オロゴン氏はまさに最後の徒花。
令和の世には、このような企業文化はもう少なくなっているだろう。
ただそこには多くの犠牲と涙があった。
その犠牲の上に、今日の勤め人がある。
我々は伝えなければならない。
我々の愚かで、切ない歴史を。
をはり
ヤコバシ著
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