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トリとクモの話

お恥ずかしい話ですが、私は鳥類のことは全然わかりません。猛禽類や水鳥は地域の生態系の頂点にあるため、多くの寄生虫が鳥類を生殖場所として目指します。そのため、寄生虫を研究する者としては、鳥類のことはある程度知っておかなければなりません。しかし、私が知る鳥類は焼き鳥の品名と近所の唐揚げの美味しい居酒屋くらいです。

人によっては不快に感じるかもしれません。ご了承ください。

あしびきの

表紙にしている鳥は、先日職場の窓ガラスに衝突して死んでしまったヤマドリです。先述したように、私は鳥類が全然わからないため、キジかなにかだと思っていました。言われてみれば、この尾は百人一首の短歌にもあるように本当に長いものでした。
断っておきますが、写真のヤマドリは野鳥になります。現在、高原性鳥インフルエンザが流行していることから、野鳥の死体を見つけた場合は保健所に連絡することが求められています。撮影したヤマドリは、一切手に触れず、撮影したのちに土深くに埋めました。

あめりかの

鳥類の情報はあまり積極的に集めていないのですが、先日ナショナルジオグラフィックに面白い話があったので紹介します。アメリカ合衆国の鳥と蜘蛛の話ですが、ナチュラリスト兼園芸家アーティー・シロンス氏が、クモの巣にかかった虫を鳥が横取りしているのを偶然発見したというものです。たいへん珍しい現象であったので、「Inects」という雑誌に短報を発表したとのことです。

蜘蛛の糸

この短報の中心はどちらかというとクモ蜘蛛の糸の話でした。Inects(昆虫)という雑誌のタイトルを考えたら当たり前ですよね。この短報で紹介されているクモは、ジョロウグモです。日本ではよくみられる普通のクモですが、アメリカ合衆国においては外来種です。そのジョロウグモの巣にかかった虫をアメリカの在来種であるショウジョウコウカンチョウが横取りしていたのですが、このときショウジョウコウカンチョウは蜘蛛の巣にのっていたとのことです。粘着性が高いことで有名な蜘蛛の糸ですが、この短報で注目されていたのは蜘蛛の糸の強度でした。というのも、このショウジョウコウカンチョウは体重が42〜48g程度あると考えられるにもかかわらず、巣は壊れていなかったそうです。つまり、ジョロウグモの巣は少なくとも50g弱までは耐えられるということになります。著者らは、ジョロウグモの糸の強さを測定し、70gまでの負荷であれば耐えられることを報告しています。

在来種と外来種

短報のタイトルにもあるショウジョウコウカンチョウがジョロウグモから餌を盗むことですが、単に珍しいだけでなく生態学的にも重要な発見でした。そもそも、ショウジョウコウカンチョウが従来知られていた餌以外のものを食べていることがわかったことで、食う食われるの関係も調べ直す必要があります。
また、この餌の横取りは、今回ジョロウグモというアメリカでの外来種で発見されましたが、もともとは在来種のクモに対して行われたと考えられます。そのため、ジョロウグモの侵入により在来種のクモにとっては餌の横取りが減った可能性が高いです。外来種が在来種に悪影響を与える事例はよくありますが、在来種を有利に導く事例は確かに珍しいです。ただ、生物間の競争は餌の取り合いだけでなく、場所の取り合いもあるので、外来種の影響はもっと調べる必要があります。

市民研究

この発見のきっかけは、著者の子供の自由研究だったそうです。日本でも岡山県の高校生がセミの寿命が1ヶ月もあることを発見しました。私の想像ですが、彼らは新発見を目指したのではなく、身近にあるものを確認していただけではないでしょうか?「蜘蛛の巣にどれくらいの虫がひっかかるのか?」「本当にセミは1週間しか生きないのだろうか?」というところだと思います。また、この短報は「小学生の自由研究もバカにはできないね」ではなく「市民研究は重要だ」というメッセージもあるのでしょう。大学や企業の研究は一定の利益がもたらされる必要があるのですが、市民研究はその盲点を埋めるものになります。ただ、日本には当たる馬券を狙うような支援より、多様な研究ができる土壌をつくる支援をしてもらいたいものです。

参考文献

https://ja.wikipedia.org/wiki/ヤマドリ
Arty Schronce andAndrew K. Davis. 2022. Novel Observation: Northern Cardinal (Cardinalis cardinalis) Perches on an Invasive Jorō Spider (Trichonephila clavata) Web and Steals Food. Insects. 13. 1049

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