第5回:『Crypt of the NecroDancer』 簡単で、簡単で、難しい

 STEAM発のローグライクにも名作は多く、中でもクリプトオブネクロダンサーはトップクラスにメジャーな作品だろう。今回はこの『ハードコアなローグライム・リズムゲーム』(公式文)について語ろうと思う。


1.ローグライクとしての簡単

 いきなり公式の煽り文と矛盾するが、このゲームはローグライクとして見ると、かなり簡単な部類である。満腹度と自然回復や、アイテム識別といったローグの核心となる要素がかなり省略されているからである。なんとレベルすらない。
 フロア数も3F+ボスなので、その気になれば即座に駆け降りて数分でクリアできてしまう。敵の種類が少なく、複雑な挙動や厄介な特技もさほど多くない。
 アイテムメニューも存在せず、アイテムは拾ったら即装備、ワンボタン使用だ。毎フロアに店があり、お金も比較的貯めやすいので、泥棒にこだわらなくてよい。

 こう羅列すると、ローグライク好きな諸氏は「だいぶヌルゲーなのでは?」と感じると思う。事実、リズムを無視できるバードというキャラを使ったり、後述のビートスキップを利用すると、イージーモードもかくやと言わんほどあっさりクリアできる。

2.リズムゲームとしての簡単

 一方リズムゲームとしてはどうかというと、これまた簡単である。刻むべきビートは常に画面下部に表示されているし、第一フロアの曲はBPM120からスタートだ。リズム崩し・加減速などの要素はボスの一曲しかなく、基本は一定である。

 そもそもタイミングをミスしたところで、影響するのはスコアとお金へのボーナスのみ。敢えて行動せずビートスキップをして、考える時間を確保するというテクニックもあるくらいだ。
 そうしなくても、ボーナス維持には常に動いていれば良いので、2つのマスを反復横跳びしながら次の一手を考えるのはネクロダンサーではよくある光景だ。アイテムボタンを押して力溜めができるようになるウォードラムなんてアイテムもあったりする。

 極端なことをいえば、リズムゲーム要素は全く無視してもクリア可能なのだ。「リズムを間違えると減点」なのではなく「正しいリズムで動くと加点」であるところが、大きな要因だろう。

3.掛け合わせの相乗効果

 では、簡単なゲームどうしを掛け合わせたらどうなるか。これがハチャメチャに難しい。公式のハードコアが大袈裟でないくらい難しい。感覚としては、アクションゲームをしながら他人と会話するような、マルチタスクに似ている。
 そもそもが「無数の選択肢から最適解を選ぶ」静のゲームと、「止まらない音楽に合わせて正確に操作する」動のゲームという相反するジャンルなのだから、当たり前と言えば当たり前。むしろ掛け合わせると難しくなるからこそ、それぞれの要素は簡単にせざるを得なかったのかもしれない。

 この難易度の上げ方は実はとても好ましい。既存ジャンルの高難易度版ではなく、新しいベクトルで慣れていない難しさだからだ。
 筆者は以前から、過度なインフレは先鋭化と衰退を招くと述べているが、このゲームはローグライク好き・リズムゲーム好きどちらにもアプローチできる間口の広さがある。

 第4回で「リズムゲームはカジュアル向けで、様々な演出と相性が良い」という旨のことを語ったが、このゲームはその好例と言えるだろう。音楽ゲームではなくリズムゲームだからこそ産まれ得たジャンルというわけだ。

結びに

 ゲームボーイを作った、横井軍平という人の理念に「枯れた技術の水平思考」という有名なものがある。ありふれた技術も使い方や視点を変えれば違ったアプローチができるというものだ。ローグライクもリズムゲームも『枯れた技術』だが、このように新たなゲームジャンルとして開拓したアイデアはとても素晴らしいではないか。
 プレイヤー側も既存のジャンルや続編だけでなく、こういった意欲的な作品には積極的に触れていくと良いゲームライフが送れるのではないかと思う。

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