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実業家の家からお金で買えない価値について考える#4

先日、大山崎山荘美術館に行ってきました。

ここは昭和初期の実業家、加賀正太郎が自ら設計、デザインして建てた山荘。
一時は主人不在で廃屋寸前だったそうですが、地元住民の保全活動もあり、現在はアサヒグループの保存協力のもと、私設美術館として残っています。
また、建築設計・監修に安藤忠雄さんが携わり、地中の宝石箱という地中館も併設されています。


地中館へ続く階段


訪れた時には丁度企画展も開催されており、人もそこそこ、子ども連れから高齢の方まで、幅広い年齢層がいました。

今回は私設美術館を訪れてみて感じたこと、タイトルにあるお金で買えない価値について、書いていきます。




◯公立の美術館との違い

この山荘の持ち主、加賀正太郎は大阪船場の株相場師のもとに生まれます。大学生の頃にヨーロッパ遊学、20代前半で自身も証券会社を立ち上げます。
お金持ちの家に生まれて自身も会社を設立、カントリークラブを作ったり蘭の栽培を始めたり、蒸留所の設立に携わったり、、

時代も明治維新が終わって大阪が商業や工業で上り調子、人口も増えて文化や芸術、近代建築がバンバン建つようなイケイケどんどんの時代。

企画展の方では工芸品や関わりのあった人との書簡が展示されており、その中には夏目漱石の名前もありました。

私設美術館に行ったのは初めてなのですが、国立の美術館や博物館と違うのは生活するための空間である、ということ。

国立美術館は絵画や肖像画などの作品を見るための建物、ハコに対して、訪れた山荘美術館は庭園から建物を含めた全てが美術館であり、生活空間であるということ。

設計からデザインまで携わった加賀さんのこだわりや美意識、時代の流行りや当時の暮らしぶりを想像して巡る楽しさがありました。

照明のデザインやディテール、窓枠や壁や柱、階段の手すりまで彫刻や装飾されており、どの部屋もすみずみまでじっくり眺めてもまだ飽きません。
個人的には階段下の婦人トイレがツボでした。
色味やタイル、窓枠まで、ちょっとタイムスリップしたんじゃないか、と思うほど、ドキドキする空間でした。

ちなみに館内は撮影禁止でしたので、ご興味ある方はぜひ訪れてみてください。

◯お金持ちがお金を使うということ

こんな優雅な暮らしをしている人は何にお金を使うのか。

冒頭にも少し書きましたが、彼自身が多趣味であり、ゴルフや蘭の栽培、他にも山登りやガーデニング、絵を描くことなどが挙げられます。
しかし、自分の趣味で使い切れるお金はたかが(といっても一庶民の私からすれば相当な金額でしょうが!)しれています。

自分でこれがしたい!と思うことにお金を使うことももちろんできますが、誰かのしたい!にお金を出すという使い方もできます。
これがニッカウヰスキーへの出資でした。

竹鶴政孝さん(少し前に朝ドラの「まっさん」がやってましたね。ジャパニーズウィスキーを最初に作った人のドラマ。そのモデルになった人です)との出会い、そして彼のウィスキー会社立ち上げに携わることになります。

誰かの夢に未来を見出しその立ち上げを支える。

自分の暮らしが豊かであれば、誰かの夢を手助けすることができる。

そんなお金の使い方ができるのだ、と感じました。
お金持ちが私利私欲のために使うお金は結局残らない。持っていても冥土の土産にもならないし。

学校を建てたり、病院を建てたり、美術館を建てて子供達に安く解放したり。
大塚製薬の創立者、大塚武三郎さんもですが、お金を自分だけのものにせず、世のため人のために使ってこそ価値があるし、後世に残るものになるのだと改めて感じました。

◯お金で買えない価値が後世まで残るものを支える


この山荘、加賀正太郎さんが亡くなり、夫人も亡くなると加賀家の手を離れます。
いくつかの転売の後、家屋の老朽化もひどいことから取り壊して大規模マンションの建設案が浮上します。
これに地元有志の保存活動が活発化、京都府や大山崎町の要請を受けてアサヒビール株式会社が山荘の保存に携わり、今日の美術館として残されています。

なぜアサヒビールなのか。

それは、加賀正太郎がアサヒビール創始者の山本為三郎と親交があったからです。

山本とはゴルフ仲間であり、ニッカウヰスキー立ち上げに共に携わった仲間でもありました。
加賀は晩年、自分が保有する同社の株を山本に託すほど、関係が深かったようです。

この2人がこれほどまでに深い仲でなければ、主人不在の廃屋を残そうという話にもならなかっただろうと思います。
建築的に価値があるとか、庭園が素晴らしいとか、物質的なことよりも、「あの人とは親交があったから」という見えない資産が山荘を残す1番の決め手になったのです。(なので山荘の正式名称もアサヒグループ大山崎山荘美術館です)

木下斉さんの話で幾度も出てくる、この「見えざる資産」

美術館を見学してみて気が付いた木下ワードのひとつでした。いつもは装飾とかデザインだけみて、「ほぉ〜すごいな〜」で終わっていたのが、もう少し違う見方で見ることができた、愉快な日でした。



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