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DAO(自律分散組織)を成り立たせるためのHow To

今回は問いのデザインでも有名な安斉さんの『問いかけの作法 チームの魅力と才能を引き出す技術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を読んで、今話題になっているDAOにも活用できるTipsが多く詰まっていたので、noteにログしたいと思います。

チームの問題はなぜ起きるのか

 現代では、多くのチームにおいてお互いの意見が抑圧され、ポテンシャルが阻害されている事例は枚挙に暇がない。
 その問題の要因は、トップダウン式の「ファクトリー型」の組織形態にある。高度経済成長期の日本では、経営層が定めた問題に対して、現場メンバーが解決策を磨くことで売上を高め続けることができた。それゆえ、作業工程を効率的に分担し段階的に進めていくファクトリー型がフィットした。

 しかし、現代のような変化が激しく未来の見通しが持てない時代においては、より柔軟な「自律分散型」への切り替えが求められる。固定観念にとらわれず、ファシリテーションのもと、メンバー自ら試行錯誤しながら「問題」と「解決策」を探り、理念を追究する。
 目標をミスなく達成するファクトリー型のアプローチが無効になったわけではないが、ファクトリー型に偏重した組織ではうまくいかない。 

 日本企業の多くはこれまでファクトリー型の習慣に磨きをかけてきた。その順応過程で発生した副作用が、自律分散型への移行を阻害している。

▼四つの現代病
①判断の自動化による、認識の固定化
過去の経験が固定観念となり、新たな発想が阻害されてしまう。「当たり前」に疑いをかける「とらわれを問い直す」ことが大事。

②部分的な分業による、関係性の固定化
互いが互いに能力や価値観を決めつけ、コミュニケーションを諦めてしまう。多様な「こだわり」を理解し昇華させる「対話」が必要。

③逸脱の抑止による、衝動の枯渇
集団から外れる行動にブレーキをかけるあまり、チームメンバーの主体的でこだわりのある発想まで阻害されてしまう。

④手段への没頭による、目的の形骸化
目的が見えなくなっても手段に没頭できるため、行動への意義が感じられない。目的を発見し続けるチームを目指さなくてはならない。

「チームのポテンシャルが発揮されている状態」とは、チームの「こだわり」を見つけて育てること、「とらわれ」を問い直すことの2つが、互いに循環しながら実現されている状態だ。


メンバー一人ひとりの「こだわり」は「創造性の源泉」となり、チームにとって「意味のある目的」に育つ。
一方で、その「こだわり」や理念、目的が「とらわれ」になっていないかも疑い続ける。本書の「問いかけ」の技術は、そのヒントになると思った。

問いかけのメカニズムとルール

「問いかけ」とは、「相手に質問を投げかけ、反応を促進すること」だ。たとえば「昨晩、何を食べましたか?」ときけば、相手は「記憶を思い出す」という反応を示す。
「1年前の今夜、何を食べていましたか?」ときけば、「手帳やスマホのスケジュールを確認する」、あるいは「お手上げ」という反応を示すだろう。
投げかける「質問」の仕方で、記憶の喚起、知識の引き出し、価値観の表出などを促せることが、「問いかけ」の奥深さに関わるメカニズムだ。
問いかけには、チームにおける「未知数」を照らす「スポットライト」のような機能がある。
会社のトップが考えていること、あのメンバーが得意なことなど、チームには「明らかになっていないこと」が無数に存在する。
チームのポテンシャルを引き出す「反応」を狙い、どの未知数にどうライトを当てて質問するかが、問いかけの本質だ。
そして良い問いかけとは、「見立てる」「組み立てる」「投げかける」の3つの行為のサイクルによって成立する。その詳細について以下に紹介。

問いかけの作法① 見立てる

チームの観察を通してチームの「こだわり」と「とらわれ」を「見立てる」ことは、問いかけサイクルの基軸だ。
一人ひとりのメンバーがどのような状況にあるのかについて仮説を立てていく。
「見立てる」とは、「対象に新たな解釈のラベルを貼り付ける」ことである。
たとえば、会議中に「頬杖をついて、首をかしげている」メンバーを観察した場合、「会議に興味がなく、早く終わるのを待っているのかな」というように仮説を当てはめてみることが「見立てる」ことだ。
観察と取捨選択に自信がない場合は、「何かにとらわれていないか」「こだわりはどこにあるか」「こだわりはずれていないか」「何かを我慢していないか」という4つの問いをガイドラインにしながら、次の3つの着眼点に集中してみよう。
1つ目は、何かを評価する発言だ。評価の根底にはその人ならではの観点や価値観が潜んでいる。こだわりの食い違いや確証バイアスにも気づける。
2つ目は、未定義の頻出ワードだ。これが「どのような定義で使われているか」に着目する。そこに愛着や形骸化が見て取れる。企業理念がそれにあたることもある。
3つ目は、姿勢と相槌だ。「頭に浮かんでも発せられなかった言葉」はしぐさに現れやすい。メンバーが持つ心理状態を見抜くカギとしよう。 

目標と現状のギャップをイメージできていれば、見立ての精度を高められる。そのために「場の目的」「見たい光景」「現在の様子」を三項にした三角形モデルが有用だ。
「場の目的」とは、ミーティングや1on1のゴールである。これが情報共有、すり合わせ、アイデア出し、意思決定、フィードバックのどれなのかによって必要な問いかけは変わる。
「見たい光景」とは、チームメンバーのポテンシャルが発揮される望ましい状態を指す。
「現在の様子」は目の前で展開される光景である。これを観察しながら、「場の目的」に沿っているか、「見たい光景」に近づいているかを確認する。
たとえば、新サービスの方針に関する意思決定ミーティングにて(=場の目的)、ある若手メンバーが顔をしかめて黙っている(=現在の様子)。
その若手はユーザーに対する想像力が豊かなので、積極的にユーザー視点の意見を発言してほしい(=見たい光景)。
それらがわかっていれば、「普段からユーザーの共感力が高い◯◯さんがもしユーザーの立場だったら、今回の方針に気になるところはないですか?」など発言しやすい質問を組み立てられるはずだ。

問いかけの作法② 組み立てる

「見立て」によってチームについての仮説を立てられたら、次は望ましい反応を促進するための質問を設計する。
①未知数を定める(何を明らかにするか)、
②方向性を調整する、
③制約をかける、という手順にするとよい。

「健康的な美しさ」をスローガンに掲げるヘルスケア消費財メーカーが実施した、リニューアルコンセプトを打ち立てるミーティング、という具体的なケースで考えてみよう。
まずは「健康的な美しさ」という未定義の頻出ワードを未知数に置き、ベースとなる質問を組み立てていく。
チームの「こだわり」を明確にするか、チームのポテンシャルを抑制する「とらわれ」、固定観念を明らかにするかというアプローチになる。
「『健康的な美しさ』がなぜ重要なのか?」(Why型)か「『健康的な美しさ』とはなにか?」(What型)という質問が有効だ。

次に質問の方向性を調整する。
軸は「主語」と「時間」の2つがあり、主語は抽象度の高さで社会・組織から個人まで設定する。
自分の業務に閉じているなら目線をチームや組織、社会に上げ、他責的なら主語を個人にして自分ごと化を促す。
時間は、「過去」を振り返るべきか、「現在」に向き合うべきか、「未来」を見据えるべきかの設定だ。
この2つの軸を掛け合わせて考えてみよう。
たとえば、組織×未来の質問なら「私たちが理想とする『美しさ』とは?」というビジョンになる。

最後は適切な制約をかける工程。
「トピックを限定する」「価値を表す形容詞を加える」「(時期や時間などの)範囲を指定する」「(1つだけ挙げてもらうなど)答え方を指定する」という4つのテクニックが有効である。
慣れないうちは、特に成功させたいミーティングに絞って、ゆっくり事前の見立てと組み立てに時間をかけるところからはじめてみよう。

「フカボリモード」と「ユサブリモード」の2つの問いかけモードは、質問の精度を上げる強力な問いかけ手法だ。

前者は「こだわり」の解像度を高め、後者は「とらわれ」を突いて新しい可能性を探るためのものである。
これらにはそれぞれ3つの質問の型があるが、ここではフカボリモードの「素人質問」とユサブリモードの「仮定法」について紹介する。
素人質問は、前提となっている情報に対して素朴な疑問をぶつけることだ。

価値基準、専門用語、暗黙のルールなど、当たり前のところで認識がすり合わされていない時に、「すみません、一応確認なのですが」「理解不足で申し訳ないのですが」とあえて素人質問をすることで、前提の認識を揃えられる。
「◯◯という理解で合っていますか?」などと自分なりの意見も添えるようにすると、角が立つこともない。
仮定法は、「架空の設定によって、相手がとらわれている制約を外したり、見方を変えたりする質問のパターン」だ。
「もしあなたが経営陣だったら」という立場の転換は、別の視点からの発想を促す。
「もし納期が一カ月延ばせるとしたら」といった制約の撤廃は、無意識のうちに抑圧していた願望やビジョンに立ち返らせる。
こうした質問を掛け合わせ、モードを往還しながらミーティングプロセスを組み上げていく。 

問いかけの作法③ 投げかける

問いかけの達人は、ちょっとした工夫を凝らすことで、開始5分で注意を引きつけることから始める。
そのテクニックには、問いかけ側からのプッシュ型と、問いかけられる側を起点とするプル型がある。
ここでは、そのなかでも使い勝手のよい、前者の「予告」、後者の「共感」について紹介しよう。
「予告」は、質問があることを事前に伝えることで心の準備をしてもらうために行う。
「後ほど、それぞれの意見を聞かせてください」などとあらかじめ述べておき、相手が深く考える時間を与えれば、「なぜ」のレベルで議論する余裕が生まれる。
「共感」は、相手の心の緊張を解くために使用する。最初から緊張度が高かったり、発言自体に心理的な不安を感じていたりする場合、いったん「引く」ことも肝心だ。
「期日が迫ってきて焦る気持ちもわかりますが、後悔しないようにもう少し育てていきましょう」などと、メンバーの現状を受け止め、共に困難に対峙していることを伝える。
共感的なコミュニケーションによって、意見を述べるハードルを下げるのだ。 

質問そのものの表現をアレンジすることでも、受け手の印象を変え、効用を高めることができる。
文章を装飾する技法を「レトリック(修辞技法)」と呼び、印象を強めたり、イメージをふくらませたり、ニュアンスをぼかしたりする効果がある。
本書で紹介されるレトリックの内、ここでは「比喩法」と「声喩法」の2つを取り上げよう。
比喩法は、伝えたい文章を別の何かにたとえることでイメージをふくらませる。
「この会社という『船』で、あなたはどんな航海をしたい?」という聞き方にすると、相手に共に乗り越えていくための意思を尋ねるニュアンスが加わる。
声喩法とは、「擬音語や擬態語などの特徴的な音の表現を用いたテクニック」で、「オノマトペ」とも呼ばれる。
「来期の『ガンガン』攻めていくための事業戦略は?」「この技術の『キラリと光る』ポテンシャルは?」といった言い回しで、相手の情緒を刺激することができる。
ただし、こうした装飾は質問の意図を一度聞いただけで理解できるレベルにとどめることも肝要だ。 

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