見出し画像

三十歳の日記(6/1-6/16)

六月一日
 終電を待つ駅のホームで今からまたあの人間を人間とも思わない寿司詰めの箱に乗って殺意を隠しながら家まで耐えるのかと思うと既に気が滅入っていた。金曜の終電だけ混むのを一刻も早く辞めてほしいがみんなもみんなで月曜から働いてきてようやくこの夜にだけ作動するモーションセンサー爆弾が至る所で弾けてこのような半端ない満員電車を作っている。画面中央の邪魔なテトリスの水色の棒みたいにただ突っ立って電車を待っていると目の前を髪の長いかわいい女の人が横切った。「お、かわいい女だ」と思って見つめたら恋人だった。しかし恋人は私に気付かずふらふらと相変わらず危なげに歩いていて、誰からも見られていない一人の時の彼女はこんなにも危険な感じというか、今から通り魔します、みたいな雰囲気でとっても良かった。後ろから早歩きで追いかけて、肩にとんとんと触れると彼女がくるっとこちらを振り向き、いつもの良い匂いがした。彼女は大喜びで腕を組んで「やった! やった! やった! やった!」と駅のホームでとんでもない大音量で叫び続けた。みんながこっちを見ているがそんなことにもお構いなく爆音で叫び揺れ動き踊る彼女を見て俺はただニヤニヤして、ぶち壊れているから好きになったことを思い出した。
 最近始めた筋トレは無事に続いているがとにかく体力の衰えにクソ萎えており、テキトーなフォームで繰り広げられる腕立て腹筋背筋スクワットも最初は三回やるのがやっと、十回もやったら死にかけだったが、最近は十回連続で行けるようになってきた。それで今日も恋人の家でそれらをやり遂げ、早く寝て早く起きようねと言ってベッドに入ったもののそこから恋人のマシンガントークが始まり、「そんな長文喋ってないで、はよ寝らんか!」と叫び返すも全く留まることを知らず彼女は喋り続けた。
 結局昼過ぎまでたっぷり寝て二人でバスに乗った。彼女の二の腕をたくあんみてえに死ぬほど揉み、それだけで別れた後の今日一日も元気に過ごせた。「家に帰ったらかわいい子が待ってる」という効力は凄まじく、嘘みたいに元気だ。自分の上がり下がりを知覚できるようになってきたが、実際は上がりというものはほぼなく、ゼロかマイナスかの低いところで揺れ動く波形でしかない。あまりにも苦しそうにしている時もあれば、今日みたいに全く平気で落ち着いて過ごせる日もあり難しい。彼女の二の腕をたくあんみてえに毎日死ぬほど揉めたらそれはそれはハッピーだがそんなことはできない現状とそう至った様々な問題がある。あとたくあんにそんな揉むイメージないだろ。漬けとくもんだろ。だからたまにやってくるこういうラッキーファールチップを愚かなほど懸命に追いかけて祖父から貰ったキャッチャーミットでどうにか捕球してその姿すら笑われたい。ぐずぐずに溶け合って雪印バターみたいにやわらかくひとつになってもう元に戻れないほど互いの輪郭をまぜまぜしてわけわけして一緒に地獄の底まで落ちて彼女から唾を吐かれてぶん殴られて嘲笑されて馬鹿にされたい。

六月二日
 田口俊樹の素晴らしさを説いていたら彼女がなぜか田口さんのインタビュー記事を音読し始めたので、このラジオチャンスを逃さないように隣で筋トレを始めた。日に日に連続で行ける回数が伸びていく。おもろい。それと同時に一年後とかに百回連続とかで腕立てができるようになってその程度じゃもう満たされない感覚が待っていると思うともう既にダルい。田口さんは一時期ギャンブル狂いだったようで、パチンコや競馬にハマっておかしくなっていたらしい。
 夜すぐに寝て朝早く一緒に起きて散歩しようね、と約束していたのに全く寝付けず、気付くともう朝。いやてか昼。ただずっと目を閉じていただけ。ブチギレながら諦める。木槌でこめかみをぶっ叩いて気絶するしかないのカナ?😂 それで諦めてジンジャーエールを飲んだり椅子の上でくるくる回ったりうどんを茹でたりApexをやったり皿を洗ったり、落ち着きなく色々な作業を素早く切り替えて、ようやく再び彼女の隣に滑り込むといつの間にか寝ていたが、起きたらド夜。ガッツリ夜。ショック。ふざけている。最悪だ。全部諦める。出前館でスープストックを頼んで『ダークナイトライジング』を観た。おもろかったけど、あんまおもんなかった。すごい地味な映画だった。『ダークナイト』が凄すぎたんだなと思う。そこからはもうぐずぐずで、小説書いたりスト6やったり風呂入ったり散歩したり、なんか色々やってるようでなんもやってないだら〜っとした時間になった。一日中大雨が降っていた。

六月三日
 ギャルが両耳を舐める音声を聴きながら三時間近く絶叫してシコってだいぶ救われる思いですやすや眠った。

六月四日
 昼前に起きてすぐ散歩に。先週の殺意にまみれていた時間たちと違ってかなり調子いいな、と思う。モスバーガーに入ってテキトーなハンバーガーを食う。コンビニでコーヒーを買って飲みながら帰宅。スト6。ダイヤ1で停滞中。こっから上に行くやり方がわからない。大体何やっても頑張ればここぐらいまでは来れる。ここから上は未体験だ。
 短歌連作『グランドマザーズピストル』を提出。こっからは笹井賞に集中だ。一年って早いな。夕方のバスの中で窓の外を見ていた。ガラスの向こうを青い葉っぱたちが乱れ打ち俺の眼球に反射する。どうにでもなる気がしてきた。むしろもう一度フリーターの生活に戻ることが楽しみな気がしてきた。お金の問題なんかどぎゃんでんなる気がする。
 久しぶりに中央線の快速に乗ったら揺れが尋常じゃなく、なんだか線路からはみ出しそうで凄かった。桶の中で大暴れする鰻かよ。桶の中で大暴れする鰻かよ、と言った。大声で叫んだ。そして、ハハ、ハハハ、と悲しく笑った。周りの乗客たちは引いていた。桶の中で大暴れする鰻かよ! 桶の中で大暴れする鰻かよ! 声はどんどん伸びやかに広がり、辺り一面は霧に包まれ、マイナスイオンた〜っぷり森の中、人々はどんどん「あ〜、キチガイだこいつ」と思いながら隣の車両に移って行った。

六月五日
 エアコンをつけると空気が乾燥してその僅かな違いで鼻孔や皮膚などが気になり寝床の上で唸りながら動き回り、太陽は上り光はさんさんと差し込み、眠りに落ちるまでの前兆が全く現れることなく朝を迎えた。日差しに腹が立って遮光カーテンをAmazonで買った。諦めてPCの前に座ってスト6をやる。眠りに落ちるまでの経路の繊細さはまさに格ゲーでクソ追い詰められてるところから逆転するまでのちょっとの可能性を通し続けていくのと似ている。画面端でこちらはバーンアウトしていて相手はフルゲージ。インパクト待って昇竜キャンセルCA→生ラッシュ投げ→起き上がりにOD波動重ね→奮迅かかと落とし中段→通常投げ、みたいに太ぇ択を通し続けないと勝てない(寝れない)。体の向き、枕カバーの皺の寄り方、布団のかかり具合、温度、湿度、静けさ、明るさ、これらを全てちょうどいい感じにしないといけないのがイライラする。そしてそれらが揃った時にようやく全身がやわやわのバターみたいにまどろみ始めて「いける…! 今行けるぞこれ……このまま寝ろ……!」みたいなあのメタ視点も最悪。それでもう好きにしろよ、馬鹿なんじゃないお前って、と思いながらランクマに潜り、クソ勝った。勝つんかい。ダイヤⅡの直前まで来た。落合から「ぐちやまゲージ管理ちゃんとするのと生インパクト辞めてね」と言われていたので、それらを意識するだけで勝率が上がった。iPhoneのメモ帳を開いて「中距離で大Pと大K振る。大P振る時はラッシュか迅雷仕込む。大Kの時はそのままパリィラッシュ意識」「画面端背負ってる時に後ろ飛びから打撃入ったらOD竜尾で入れ替え」と二つメモった。そのあとはシステム面を調べる時間にして、普通のカウンターとパニカンの違いを知り、後ろ受け身とその場受け身で起き上がりのフレーム数が変わらないことを初めて知った。これは6から出てきたシステムで、5では相手の受け身の取り方でフレーム消費の内容が変わって難しかったから、こういう部分でも優しくなっていた。スト5で俺は八万位ぐらいをキープしていたが、それでもプラチナの底辺だった。スト6はマスターだけで既に十万人いる。しかし相変わらず簡単に行けるわけではなく、それほど人が爆裂に増えていた。モダンもできてシステム面も優しくなって、今思うと5の厳しさは異常だった。通常技に必殺技しか仕込めず、3F小技もあって、ラッシュ・インパクト・パリィもない中で、どうやってプラチナまで俺は上がったんだろう。凄すぎる。現に体感として、システムを知らない人が多すぎて、5のプラチナ帯の方が6のダイヤ帯より全然強かった。カチコチだった。モダンがいない全員がアケコンクラシックの世界だったからそりゃそうだ。ミカちゃんは6には出てこないんだろうな。
 筋トレはなぜか毎日続いている。
 小説のタイトルが決まらないままここまで来てしまった。進捗七割ぐらいまで来てタイトルになりそうな欠片すら見つかってないのはかなり珍しく、これいつどうやってタイトル決まるんだろう、とまるで他人事だ。光太郎が手コキ屋に行くシーンを書く。
 落合とスト6。割と勝つようになってきた。深い読み合い。インパクトが返せるようになっていて自分でも意味がわからない。人間の脳みそと筋肉の関係はいつまで経っても不思議で、音楽をやっていた時もそうだったけど、昨日まで全く弾けなかったフレーズが今日いきなり弾けるようになったりする。しかしそのためには毎日の修練が必要で、今日この瞬間まで俺はインパクトを全く返せなかった。しかし脳みそにずっと「インパクト返せよ」という指令自体は蓄積されていて、それが急に花開く。トレモに入って詐欺飛びと連ガのシステムを教える。かなり複雑な話。奮迅竜尾でダウン取った相手に対して最速で飛んでめくり小足を一発だけ打つと、起き上がる敵が無敵技を打ってた時だけこちらはガードになり、起き上がる敵がガードしてたり小技擦ってたらこちらのめくり小足が出る、つまり両対応になっている、麻雀で言うところの両面待ち、という詐欺飛びの説明をしたが、なかなか伝わらず難しかった。なぜそうなるのか? 敵の無敵技の発生フレーム中にこちらが飛びから当てる技の硬直フレームが終了していたらガードが間に合うからだ。しかしこれを言い始めると更にややこしくなるかもしれないと思って言うのを辞めた。そのあとは連ガの説明。「今から俺がジャンプ大P→中P→大Pってやるから、最初のジャンプ大Pをガードしたあとレバーから手放して」と言い、まずは体験してもらう。レバーから手を離しているのに二発目も三発目もガードしている。落合が「は!? なんで!?」と百点のリアクションをくれる。そこから投げ抜けやシミーの説明。最初の一発目をガードした時点で二発目も三発目もオートガードになり、画面上でキャラクターはガードの動作をしてはいるが、入力は受け付けていてしかし反映されるのはガードが優先されている状態。これも説明するのが難しかった。落合は「気持ちわりっこのゲーム」と何回も言って喜んでくれた。それは緻密さに対する褒め言葉だった。

六月六日
 新人賞の〆切を確認する。笹井賞は七月。次は八月末のメフィスト賞が近いけど『味方の証明』はまだしばらく終わらないだろう。九月末の文學界新人賞の方に今書いてるタイトル未定が出せそうだからそっちにフォーカスを合わせることにした。だから今は笹井賞と文學界。オーケー。
 昨日落合とスト6をやったあとにちょっとだけApexをやったが、その時に出会った野良の外国人がずっと「ファッキンジャパニーズ」と言っていておもろく、「ほんでほんで?」と聞いても「ファッキンジャパニーズ」としか言わない。わざわざ東京サーバーまで来ておいて「ファッキンジャパニーズ」も大概だが、こちらもインファイトが始まる時の高まる感じが転じて「industrial plant!! I'm XXX TENTACION!! Have you ever seen NISHIOGIKUBO???」などと叫びながらピースキーパーを撃っていたら彼は黙った。それから執拗に西荻窪に行ったことがあるかを英語で何回も何回も尋ね、落合は「Have you ever seenなつかしいな〜」と文法へ回顧していた。それら全てがおもしろく、働きに向かうバスの中で昨日のあれおもろかったな〜と思っていた。
 帰宅。マリメッコのカーテンを外して、Amazonから届いた遮光カーテンをつける。このマリメッコのカーテン一個の値段でこのやっすい遮光カーテンが十六個も買える。だからマリメッコのカーテンは外されている時に「マジで…?」と言っていた。こうして私の三面採光の家は約六年をかけてじわじわと全ての面が遮光された。

六月七日
 早寝早起き。散歩。洗濯。スト6。ダイヤ2になった。なるせさんがカスタムやりません? と誘ってくれて五先をやる。モダンブランカというすごい練習になりそうな相手で助かる。5-3で勝った。友達とやるの楽しい。
 小説。scrivenerとワードを行き来しながらかなり整理した。プロットにクソ助けられている。しかもついこの前発見した「自分が何を言いたいか」の注釈が大活躍というか、プロットを出来事で区切るのではなく、作者本人の言いたいことで区切っていく作戦はかなりアリというか今書いているものに対しては親戚のおじさんがテントを固定させるために金槌で打った楔みてえにクソ刺さってる。権藤ちゃんの様子がおかしくなっていく場面を書く。

六月八日
 早寝早起きして散歩。土曜か、と思う。そこらじゅう混みまくっていてどこにも入れない。それで外で何かを食べるのは諦めてコンビニに戻ってきたがコンビニすら人がぎゅうぎゅうで意味がわからない。何? こんなんだったっけ? 苛酷な街だなと思う。東京って。他人に傷付いても全く逃げ場がない。人人人人。どこ行っても人間人間人間人間。人間人間人間人間人間。高層ビル高層ビル高層ビル横断歩道人間人間人間人間人間。人間高速道路人間点字ブロック人間人間猫大根カチューシャセブンイレブン慕情差別裏切りパワハラ白菜人間人間人間人間。人間人間人間人間!!!!!(木の机を手の平でバンバン叩きながら)
 やっぱり眠くて一時間ぐらい寝る。起きるとスト6。小説。日記。どれも順調に地道にコツコツとやってる。他人と比較しない。難しい。言葉にされた時の印象と実際に体内に宿らせる感覚のズレが凄いものランキング一位は「他人と比較しない」さんですおめでとうございます。ちゃんと無視、ちゃんと無視、と言い聞かせる。
  LEXの『Psychedelic』をiMacの最大音量で鳴らして黙って聴く。「君の大丈夫って声で俺はラップを想像する」という歌い出しがいつも凄い。意味がわからない。わかりそうでわからない。必然性があるから飛躍してもそれが不快感にならずに入ってくる。

六月九日
 眠れない体に早々に見切りをつけて朝までずっとスト6をやっていた。対空に意識の全てを割いてランクに潜ったのでクソほど負けた。しかし今までしゃがみ大Pでやっていた対空を昇竜に変更できた。それでいつの間にか寝ていて起きたらすっかり夕方。へへへい、へへへい、へへへい!
 起床即ちりニキとApex。一時間ぐらい。プレイというより話すことがメインだった。周りのみんなが人生に喰らいすぎてる。
 パスタを茹でて食い、スト6のランクに行き勝ちまくってダイヤ2に戻した。あとは何をしていたんだろう。

六月十日
 働き、帰宅して、小説をiPhoneからiMacにAirDropで飛ばす。四万二千字になっていた。やばい。書きすぎてる。小説の新人賞は意外と枚数が少ないから、これは多分もう既にオーバーしている。困った。自分の持ってる話の規模感が六万字以内とかに収まることがあまりない。どうしたもんか。とりあえず気にせず書き続ける。

六月十一日
 早起き。散歩。薬局に入ってシャンプーを見る。今まで無駄に立派な高いやつを使っていたので激安のものに変えようと思ったが、激安のやつらは本体のボトルごとのやつは売ってなくて詰め替えの袋状のものしかない。どういうこと? これって売れるんだろうか。ボトルは各自で用意するのが流行ってんの? そんなあまりにも細部でしかも別に魅力的でもない行動が流行ることってあるんだろうか。それかもう今生きている人たちは大体メインで使うシャンプーが数年前から定まっていてそのボトルは既に持っているのが大前提、とメーカー側か薬局側が認識しているんだろうか。そのあとも別の薬局を回ったが、どこの薬局もそうだった。結構不思議だな、と思う。リピーターしか相手にしない、という態度はシャンプー界隈では積極的に行われているということを初めて知った日だった。しかも詰め替えの袋の後ろには「必ずこれ専用のボトルに詰め替えてください!」とブチギレた注意書きがあり、いや、じゃあそのボトルを売れよ。
 スーパーに寄ってディルとか春菊とかの葉っぱ類を買う。
 働き、帰路、京王線で犬を生で抱えている人がいた。盲導犬とか以外で初めて見たかもしれない。マナーとして電車に乗る時のドッグスやキャッツはカゴ的なのに入れるべきなのか知らんけどもこちらとしてはどんどん生で出歩いてほしい。
 筋トレは今のところ毎日続いているが、腹筋だけいつまで経ってもやわやわで、すぐ攣りそうになる。鏡で全身を見てみたら下っ腹が出てきていて、おじさんのスタート地点という感じがする。前髪の白髪の量も増えてきた。

六月十二日
 パスタとしめじを茹でて、ソースをぶちこみ、ディルをハサミでパチパチ切って混ぜて食った。おいしかった。
 スト6ランク。対空昇竜は出るようになってきているが、ダイヤ2と1を何度も行き来して完全に停滞している。こっから上に行くためには何か明確な成長が要る。今までできなかったことをできるようにならないといけない。ヒット確認とか見てから返すとか。
 働き、帰宅、筋トレ、パスタを茹でて春菊とミョウガを混ぜて食う。風呂、すぐ寝。兄から電話がかかってくる。不眠症がやばくて三週間ぐらい寝てないらしい。今眠剤でODしていると。自分含めてこんなにみんなが絶不調なことってあるんだな。しかも同時に。それで兄が家に来た。ODしたままバイクに乗って来た。心配だと伝えた。暴走族に入ったあの時から今までうっすらずっと心配しているが、兄からすると「お前は自分の心配してろ」という感じだろう。物理的にも精神的にも凄い速さで疾走しているうちの長兄は本当にフォーエバーヤングというか、この人はいつも命が燃えている音がする。いつもと様子が違う兄を前にしていつもと変わらず接した。一時間ぐらい話して兄は帰って行った。そのあと寝た。LEXとLANAがファーストテイクで『明るい部屋』をやったあとに話している動画をいつか見た。LANAちゃんのLEXへの接し方を見ていると、あまりにも自分が重なるというか、命が燃えてる強くて弱くて怖くて優しい兄を持つとそういう感じになるよね、わかる、というあの感覚を思い出しながら眠った。

六月十三日
 起きると恋人から鬱症状がやばくてどうすればいいかわからないという連絡と、兄から三週間ぶりに寝れたという連絡が来ていた。恋人に、行こうか、なんかできることあるかい、とメッセージを送り、そのあともやりとりしたが結局祈ることしかできないな、と着地する。誰に対しても。他人を助けてあげられる人の条件は体力ゲージが二本以上ある人なんだろうか。0本の相手にその一本を分けてイーブンにさせる。俺は今ようやく自分の体力ゲージを一本に戻そうとしているところだから、今誰かを助けようとするとこの一本を半分に分け合うだけになる。それはそれでお互いがローになるだけなのでまた変に揉めたりする。それを今までの経験で知っている。しかしこの分けるとかそういう発想だから俺は他人とのあれこれが向いてないんだろうか。本来は分けるとかそういうんじゃないんだろうね。俺が落ちるとみんなも落ちちゃうシステムっぽいからとりあえず俺がまず元気になるぞ。なってみせる。今は大丈夫そう。「愛してるよ」と彼女に送って、初めて言ったかもな、と思う。彼女とどんどん離れていく。会うことも減って連絡も減って。ここには書けない様々な事情から物理的には日々遠のいていく。しかし全く変わらない距離もある。それが何なのかはわからない。
 家の前に無印良品の詰め替えボトルが届いていたのでそこにシャンプーとコンディショナーを放り込む。
 洗濯。散歩。スーパーで買い物。帰宅。料理。掃除。スト6。ダイヤ2安定してきた。しかしみんな強い。ちゃんと強い。あなたの強さに納得している。負けて、うん、と思う。
 風呂上がりにアイスを食いながらTime To TWICEを一気見した。ジョンヨンは相変わらずおもしれえ奴で、ジヒョは元気で、ミナは静かで、ナヨンは純粋さと不純さが歪な混ざり方をしている無茶苦茶なカフェオレみたいな人だった。

六月十四日
 働き、帰宅、バニーガーデンをやる。美羽香ちゃんのやたらでけえ乳や尻を見ていると点滴を打たれている時の安心が蘇る。知らん病院のやたら強烈な白色蛍光灯を浴びながら痛みが和らいでいくあの輪郭が溶ける甘い感覚。

六月十六日
 やたら重たい体を持ち上げて、無理矢理外に出る。新宿に。紀伊國屋。クリス・ウィタカーの新作とコーマック・マッカーシー『平原の町』を買う。冒頭でいきなり「ぽっちゃりした女を抱きたいときは他に何があっても満足できない」とか言っていて最高だった。今後は本とかなかなか買えなくなるな、と思いながら新宿を歩く。日高屋でダブル餃子定食を食う。それだけでたっぷり惨めな気持ち。タイムスもブルーボトルもスタバもそこらじゅう行列で、そうだよな、と思いながらすぐに帰る。ここ数年で東京は格段に生きづらい街になった。
 ちりニキとスリンキーとApex。クソ勝った。ギターを弾いたりLogicでビートを作ったりYouTubeを見たり風呂に入ったり、随分とテキトーに時間が過ぎていく。空虚。出さなきゃいけない返事がたくさんあるのになかなか返せないままでいる感覚。いつも。ベッドに入ってiPhoneのメモ帳で笹井賞の短歌を進めていく。イラつきながら書き殴り続けた。クソみたいな休みだ。無気力なんかとは程遠い人間だと思っていたのにそれとのバトルにこんなに苦しむことになるとは思っていなかった。長い戦いになりそうだ。絶対勝ちたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?