日記 ４ ジャック・ロンドンと四百円のシャツ
『マーティン・イーデン』を読み終わった。帯にでかでかと書かれた文字、「絶望の青春」。文字の読み書きもろくにできないマーティン・イーデンが作家になる話。作者はジャック・ロンドン。最初の数ページで、これは俺たちの話だ、と思った。そう思える話というのは意外と少なく、しかも題材と関係ないことが多い。俺は東京に住む二十五歳の眼鏡をかけた男だけど、ブラジルに住む八十歳の白髪女の話でも、これは俺たちの話だ、と思うことはあるし、逆に、東京に住む二十五歳の眼鏡をかけた男が主人公の話を聴いても全く繋がりを感じられないこともある。ストーリーとはそういうものみたいです。マートは睡眠時間を五時間に削り、毎日ひたすら文字を書きました。もうとにかく読んでいて心がいっぱいになる話で、俺はマートのような命の燃やし方はできないし、マートも俺のような命の燃やし方はできないだろうけど、感動、とか、切ない、とかではなく、「在る」という感想でした。友達の話、みたいな。生活の一部、というか、そういう次元での物語でした。俺に起きた出来事のような。だから、なんか、「良かった」とか「ここの文章が」とかじゃなくて、「うん、うん、はいはい」みたいな、全く理由のない涙というか、自意識の入りこむ隙間のない出来事として、俺の中にこれからも在り続けるのでしょうね、という書物です。
今年の頭に撮ったコメディードラマ『東京オリンピックまでにどうにかしたい七個のこと』が来年の一月七日に公開されます。YouTubeやVimeoにて。よろしくお願いします。色んな人が観てくれたら嬉しいなあ。
高円寺の古着屋で四百円のシャツを二枚買った。一つは紺色に白い線が入ったシャーツ。もう一つは薄い水色に緑や橙の線が入ったシャツ。好きな人から「コムデギャルソンとか似合いそうだね」と言われて、「俺は汚い服が着たいんだ」と言ったけど、なんかそれはとてもダサいことなんだろうけど、日本刀の一太刀で相手を切るみたいに端的に美しく言えた気がした。そして古本屋でポール・オースター『幻影の書』、ジャック・ロンドン『どん底の人びと』、スティーブン・キング『ミスター・メルセデス』を買った。きっとゆっくり読む。
相変わらず毎日意味もなく焦ったり怖くなったりしていて、ポテトサラダの家に泊まっている時に思わず大きめの声で「早く金持ちになりたい」と言っていて、なんかそれは自分の中で「出てしまった」感が強く、屁や小便といったものと同じ性質を持って響いた。まあどう考えても一番金持ちにならない奴が放つ言葉ですよね。ただ、もう純度が百すぎて、「これはどう考えても一番金持ちにならない奴が放つ言葉だな」とかも思わない。今書いてて思っただけ。むしろ、嘘をつけなくなっているということだから、良いことだと思っている。
ずっと、「俺はこの生活にトドメを刺す」と思っていて、でも実際の地球はそもそも刺すとか刺さないとかそういう類のものではなくて、「金持ちになりたい」とかも、思うけど、勘違いというか、ただ単純に真っ当にひたすら真実を書き続けることが本丸であって、本質的であることが大事なんだよ、と思えるようになりました。打算的な世界観が嫌いなのは、自分の中にもそれがあるからです。人のことをステータス的に見る。上から目線で、差別的な意識を、俺は絶対に所持している。その量は多いのか少ないのかわからないけど、絶対に所持している。そのことから逃げずにちゃんと向き合いなさい。考えろ。はい。
新宿のゲームセンターでボコボコにされた。ストファイの話です。み〜んな通院した方がいいぐらい強い。とにかく強い。誰にも勝てなかった。というかそもそもゲームが全般向いていないんですが、それでも、楽しかった。ひたすらボコボコに殴られ続けても、楽しかった。自分がこういう感情を持てることを幸せに思う。負けても楽しい、って、多分本当に楽しいんだと思う。文字も、書いてて楽しい。真剣になればなるほど、どんどん楽しくなくなっていく。これはきっとどうしようもない。ラジオもそうだった。毎週読まれるようになって、吐き気を催すほどの重圧のような何かを感じながら送っていた。だから、文字のことも、ゲームのことも、他にもたくさん、ここには書かないけど、周りにたくさんいる好きな人に対しても、俺はどんどん真剣になって、どんどん楽しくなくなっていきそうで怖い。怖かった。今はもう怖くない。どうすればいいんだろう、としばらく、というかかなり長いこと考えて、嗚呼そうだ、と思う解決策を見つけたんですが、書くのめんどくさくなってきました。お風呂に入って寝ます。
阿久津さんと読書について話しました。読んでください。強制です。読まなくてはなりません。残念でしたね。この記事を読まないとあなたのiPhoneはこのページから動けなくなるようにプログラミングされています。頑張れ。努力をしろ。努めろ。命を燃やせ。
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