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三十歳の日記(3/28-4/8)

三月二十八日
 なぜか早起き。すぐに洗濯機を回す。iMacで納品書と請求書を作り、プリンターに繋げて印刷してみるも、一枚プリントするのに十五分ぐらいかかる上にガビガビに印刷される。寿命だ。エアドロップでiPhoneに飛ばす。本をぷちぷちで包んでガムテープで閉じる。郵便局に。なぜか今まで通常の郵便を使っていたが、どう考えてもレターパックの方が安いので、そうした。スーパーに行き、食材をテキトーに買い帰宅。瓶を煮沸消毒している間に洗濯物を干す。りんごを洗って拭き、切り、ボウルに入れて砂糖をがばっとかけてスパイスも放り込んで混ぜて放置。
 豚肉と白菜を切って鍋に放り込んでぐらぐら煮込んで米と一緒に食った。
 iPhoneのメモ帳からiMacにデータを全て飛ばして、ワードに移す。まずは整える。そして続きを書く。もりもり書く。結構進んだ。二万字ぐらい。光太郎が新宿の楽器屋でジャズマスターを買うシーン。

三月三十日
 もう朝方、うるせえ頭の中、もしもこのまま死ぬとしたら、ただ無様な負け犬だな、会わせる顔もないよパパ。とRalphが言っていた。久しぶりにそれを聴きながら東高円寺を歩いていた。
 暗い部屋じゃ何も見えないからネオンが照らす街角に立った。弱さ認めてしまうくらいなら自分を騙す方が楽だった。毎晩路地裏Work 擦り減らす大切なものとSneaker’s But I know. 積み重なる罪は徐々に締まる首吊りだ。ここじゃ無理だ。生まれつきさ。俺ら不利だから仕方ないって何かのせいにしてまた逃げて、一体何にビビってんだ。Yo, brother remember. 一度でも食い下がったことがあるか? 口ばっか逸らす目は真っ赤。鏡の中の胸ぐら掴んだ。気に食わねえならお前が変えろ。腐ってんなら作りゃいいだろ。邪魔だろ捨てろ偽のプライド。失うものすらテメエにゃねえよ。与えられなかったから奪った。この才能もその内のひとつさ。平等なんて綺麗事だった。思ったよりその差はデカかった。ゼロに上がるまで時間かかったがやっとだ。始めようか。
 こんな、ずーっと完璧なバースってあるんだな、と思いながら家の鍵を開ける。これを聴いて奮い立たないことなんて無理じゃね?
 風呂に浸かりながら『通り過ぎゆく者』の続き。おもろい。
 風呂から上がると小説を書いた。権藤ちゃんがタンクトップ一枚で出勤してくる日の話。

三月三十一日
 暑い。起き、布団から出られずになぜかインスタでジョンヨンの動画を見続ける。見たことある動画ばっかり。体型について文句言ってる奴はみんな空回りする水車かよ。たぬきの糸車かよ。古びたエンジンかよ。片想い、かよ。THE⭐︎片想いかよ。廃墟かよ。いくらでも言えてしまうのでここら辺でやめましょうよ。出た、語彙力が凄いコビー。「いくらでも言えてしまうのでここら辺でやめましょうよ!」て言って赤犬に殺されかける。
 しかし「ジョンヨンの見た目を決めるのはお前じゃなくてジョンヨン自身だけでそれはこれからもこの先も一生そうであるべきなんだから黙れ、お前はもう何も言うな」という思いと「ジョンヨ〜〜〜ン(手をぶんぶん振りながら)もっと大きくなって〜〜〜!」という思いが共存している自分、その男すぎる部分が嫌い。シャッタースピードが長すぎる写真みたいに残像だらけで愕然とする。混乱する。わからない。要らない、もう。セックスをする時に自分が男のやり方でしか彼女に触れられないことに苦しみながらもその快楽を求めてしまう二つに挟まれて息ができなくなる。このまま無茶苦茶になって一緒に死のうね? と崖から転落する思いで強く手を繋ぎ、しかし終わったあとにはいつもこれでよかったんだろうかとわからなくなる。そしてこんな苦しみなんてもはや贅沢だなというぐらい彼女の喰らってきた仕打ちを知っているから何も言わずにこうして初めて日記に書いた。
 働きに向かうバスの中。いつか、どこかのタイミングで、三十首連作のタイトルが『貧者の薔薇』になっていた。それと同時に次の笹井賞に出す連作のタイトルも決まり、どういうことをやるのかも決まっていた。それで具合を確かめる。確定でゴーサインなのが二十個ぐらい。あと五日で十個か。まぁいけるか、と思う。
 働き、帰宅。風呂の溜まるじょぼ音を聴きながら『貧者の薔薇』をもりもり書く。十五分ぐらいで五個ぐらいできた。短歌を十五分で五個作るのはかなりのハイペースのように聞こえるが、しかしここに至るまでに一個もできない十日間とかがある。その十日があるからここでギュッと絞り出される。いやもっと言うと今日までの三十年がある。その三十年がなかったらこの一個はできなかった。だから俺は短歌一個作るのに三十年かかる。
 
四月一日
 働きに向かう前も帰ってきてからもずっと小説を書き続けたが、直面している細々した論理の問題がうざい。そんなんどうでもいいから圧倒的な景色ば見せてくれん? 忍耐が不要な状態を作るためにこその忍耐が必要だね

四月二日
 働きに向かうバスの中、『貧者の薔薇』三十個完成。あとは時間を置いて明日とかにまた見て微調整やったら終わり。よし。とにかくよう妥協せず間に合わせた。体調とメンタルが一番終わってる時にもらったオファーをようやり切った。

四月三日
 明け方に寝たのに三時間ぐらいで起きた。落合からLINEが来ていたので「今から茶をしばかんか」と誘い、新代田行きのバスに乗る。雨が降っていたが傘を引退しているので濡れたままバスに乗った。
 B&Bで『頬に哀しみを刻め』を探すが見つからず、落合が来る。店員さんにこれありますか、と聞くが、そもそも入荷してないらしい。それでトロシャンに行ったが既に並んでいて、駅前のブルーマンデーという喫茶店に入った。俺はずっとハンターハンターまじやばいの話をして、落合は養成所やネタの話をした。遅れてスリンキーが来た。スリンキーは少し前に俺と同じ職場に入ってきて、だから部署の違う後輩、みたいな感じになっており、「どう? 楽しくやれてる?」と聞くと「この仕事をしてる自分が好き」だと言った。あ〜そう、それはよかったわ、と芯からそう思ったのでそう言った。俺はそう思ったことない。というかそういう目で自分を見たことがないかもしれない。ありそうなのに。
 何を話しても「それってクラピカが自分の念能力を幻影旅団に絞ったのと似ててさぁ」とか「これモラウが言ってたんだけどさぁ」とか俺が全部ハンターハンターに回収していくので落合が指を差して呆れていた。
 嫌がらせみたいな小雨が地味に降り続けていた。落合と駅前で別れてスリンキーと蔦屋書店に入ったが、二階の文庫コーナーが店内の改装作業に伴ってすっからかんになっており、なんやこれ。それで駅前でスリンキーと別れて俺は一人で小田急線に乗った。今月からケータイのギガ数を3ギガとかにしており、昨日の時点でもう速度制限になっていた。しかしこれはこれでいいな、と思う。ダウンロードしているeydenのアルバムを聴きながらiPhoneのメモ帳を開いて小説を書く。新宿に着いて紀伊國屋に入る。『頬に哀しみを刻め』『シェイクスピアの記憶』『カンガルー・ノート』の三冊を買い、丸ノ内線のホームに降りた。大停電が起きてダイヤが消滅していた。ホームに収まりきらないぐらいの人間の集まり。すぐに諦めてバス乗り場に向かう。こちらも大混雑。それでも乗り、自宅の近くのバス停に着くまで小説を書く。帰宅してすぐに羽毛布団の中に入る。みみたやのVALOを見ながらうとうとする。しばらく。気持ち良いうとうとだった。

四月四日
 起き、パンを焼いてブルーベリーのジャムを塗って食い、足りないなと思ったのでパスタを茹でてツナ缶を開けて白出汁と醤油をかけてがぶがぶ食う。みみたやがモンハンをやっている配信を流しながら。
 iPhoneのメモ帳からiMacのワードに『貧者の薔薇』を移す。頭からケツまで睨む。一個だけ微妙なのがあったので消す。そして一個作った。最後にふさわしい一個ができた。そのべさんに送る。
 働き、帰路、速度制限なので小説を書くことしかできない。帰宅してすぐに風呂に入りながら『通り過ぎゆく者』を読む。おもろい。

四月五日
 クソ早起きして家を出る。働き、帰路のバス、『通り過ぎゆく者』を開いていたが眠すぎて気絶。事前にダウンロードしていた銀シャリのPodcastがずっと耳元で流れており、橋本さんと鰻さんの声を聴きながら寝ていた。

四月六日
 速度制限のおかげで家を出る前にこのあと聴く曲とか動画とかをダウンロードしてから出るようになった。それはなんだかストファイで大P振る時にそこに次の技仕込むのと似てる。いや普通に不便だから多分20ギガに戻すんだけど。しかしそのあとの時間私はもうダウンロードしたものしか聴けないというのは魅力的だ。というか、CDとかMDと一緒だ。覚悟が違うよな。日々の。例えばヴァン・ヘイレンのファーストをポータブルCDプレイヤーに入れて外出した人は、そのあとどんな悲しいことがあってもあのギャンギャン鳴るタッピングまみれのギターを聴くしかない。どうするつもりなんだ。しかし、なんだか強い時間な気がする。ガチガチの寒天みたいな記憶になる。「友達が死んだ電話を受けたあと、ヴァンヘイレンのファースト聴きながら帰ったなあ」という記憶は、2024年のTOKYOだと形成されにくいだろう。なぜなら友達が死んだあとにヴァンヘイレンのファーストは絶対に聴かないからだ。しかしそういう歪な過去を持ってる奴は強そう。それで働き終えた帰り道、Dua Lipaの『Training Season』をずっと聴いていたが、自分が作った「Dua Lipaが歌った怒りで救われる 駐車場 夜の線遠近法」という短歌を思い出していた。
 帰宅して、風呂に浸かりながらラップスタアの審査員発表の動画を見る。LEXが「俺はガンガン調子乗ってた」みたいなことを言ったあとSEEDAが大喜びしてタッチするところが良かった。応募総数が過去最多なことに対してRalphが「タイマン勝ち続ければいいだけなんで数あんまり関係ないと思う」というようなことを言っていたところも良かった。
 風呂から上がって真っ暗なベッドの上で小説を書く。iPhoneの明かりだけが俺の顔を照らす。三万字ぐらい。どうなるんだろうなこのあと、と思う。光太郎は毎日ギターを弾いていて偉い。

四月七日
 ぜんまい仕掛けのカブトムシみたいに見境なく頼んでしまうので自分に出前館を禁止していたが、何がどう緩んでかマックデリバリーを頼んでいた。
 どういうルートでその動画に辿り着いてしまったのかわからないが、YouTubeのオススメだったか、あかりんが配信外でVALOコンペをやっていたらそれに気付いたデュオが勢いだけの暴言を捲し立てて「VCつけろ」と怒り続けていた。要はあかりんがここで喋ったら自分たちの動画が伸びるからだろうけど、その言ってはいけない言葉を連発するとんでもない突っかかり方は、友達が通り魔に遭った瞬間を見ているようで、息が詰まる悪意だった。そもそもVCオンにするだけで「女いるんでトロールしま〜す」とか散々言われてきたからあかりんはずっとVCなしでソロでイモータルまで来た。その最強のメンタルを用いてずっと無視していたが、最後に「事務所に言うね」とテキストチャットで返した。するとデュオが急にビビりだしたので、「じゃあビビるなよ」とあかりんは更に文字を打った。強いな、と思う。まず配信外でもソロコンペVCなしでずっとやり続けているのが凄いし、焼肉屋のバイトを一生懸命毎日もりもりやってたらある日急にパタンと無理になって部屋から出られなくなっていたらお兄ちゃんから「あかりは声良いから配信とかやってみれば?」と薦められたところから始まったこの人は、自分が弱いことを真っ直ぐ受け入れている。だから真っ直ぐ強い。そして関連に出てくる動画の全てがそういう、暴言連発のVALOやApexの動画で、要はあんまり知らんかったけど「こういう界隈」があるんだな、と納得する。明らかにライン超えの暴言とか挙動を連発することに少ないけども一定の需要があるみたいで、しかしそこにプロレスの要素が一切なく、本当に終わってる人たちの群れが形成されていておぞましかった。こかげちゃんがソロコンペをやっていたら野良のジェットとブリムが喧嘩を始めて、最後に「ナイスチームじゃないだろ。最初に突っかかってきたの謝れ」とジェットが言い始めて、そのまま「ニガーニガーニガー黒人黒人障害者死ね」と続ける。こかげちゃんが「やめてやめて」と言いながら慌ててOBSでゲームごと落として自分の顔だけにする。真っ黒な背景にこかげちゃんだけがいる。そして黙る。長いこと。「顔死んでる? ごめんね」と言ってそのままスパチャを読む流れに持って行く。なんか、見ていて、本当に傷付いてしまった。自分が言われるよりも好きな人が攻撃されるのを見ている方が俺は効いてしまうため、かなりぐったりした。
 これ系の動画を上げている人たちはいわゆる炎上商法とかと違って計算みたいなものが一切なくナチュラルにこうで、なぜこれが成り立っているのかというと、みんな強いからだ。VALOではイモータルでApexではプレデターとかにいる。強いから信者みたいな子どもたちが一定数いる。そこまで辿り着いた理屈がある。まあそれはわかる。しかし喋る量や言葉数は多い割に「自分が正しい」という暗闇に入っていて擦り合わせができない。そして悲しいことにこいつらバケモノの気持ちがほんの少しわかってしまうというか、タクティカルだろうとバトロワだろうとチームを組んで戦うFPSゲームをやったことある人なら大なり小なりわかると思うが、味方とのコミュニケーションの問題はとても大きい。言わなくても伝わる部分が似ている相手とは交わす言葉の量が少なくて済む。しかしそういう味方と組めることの方が珍しい。当たり前だが他人は自分ではないので、自分の思い通りには動かない。そこをくっつけたいのならば、柔軟且つ具体的な会話が必要となる。しかしこの擦り合わせはどちらかが放棄した瞬間に無理になる。だからお互いが頑張らなければいけないが、この「トキシック」と呼ばれる界隈の人たち(こういう型に嵌めた呼び方も良くないと思うんだよなぁ、商品としてカテゴライズして見やすくしちゃうと生き残っちゃうから)は味方に対してずっと「会話ができない会話ができない」と怒り散らかす。しかしできないのはあなた達の方で、遭遇する野良の人たちはそこを突く。「会話できねえよお前喋んな雑魚死ね」「会話できねえのはお前だろ?」というラリーが頻発する。しかしこれはお互いが本当にそう思っていて、みんな自分の持っている理論を信じているというところでは共通しているが、擦り合わせのキャパシティーの量は人それぞれだ。だからたまに擦り合わせを放棄してた奴が戻ってきたりもする。もう一回だけ頑張ろ、みたいな感じで「ブリムさんごめんごめん、ちょっと強く言っちゃっただけやん。怒んなって」とか言って彼なりに仲直りを図ろうとする。しかしそれに返答がなかったらすぐに「なんなんお前?」となる。これ系の配信者たちはNIRUさんやチーキーさんやZETAのプロの面々や有名ストリーマー競技プロたちに対して尋常じゃない嫉妬心を持っているがなるべく漏れないように注意を払っておりしかしその動きが伝わる。理屈というのはなんにでもくっつくから、くっついた上でどれを選ぶのかが大切で、口がよく回るこれ系の人たちは理屈がくっついた時点でそれを発表してしまう。だから急に何の関係もない話が横入りしてくるが理屈は通ってるのでそれっぽく見えてしまって子ども達はそれを信じてしまう。大切なのは無言の部分だ。その人が何を言っているのかと同じぐらい何を言っていないのかというのは重要だ。選ばれなかった理屈は無音の中にいる。
 そしてもう見なきゃいいのに、何の魅力もない人間の退屈な暗闇を確かめたくて関連関連で見続けてしまった。言ってはいけない言葉たち、やってはいけない行動、がどんどん連発されて、まともな人たちがどんどん傷付けられていく様を見て、苦しくなっていく。そして最後に「Thank you for watching!」とかいうテロップと共に明るい音楽が流れる。凄い。人間のグラデーションだ、と思う。差別的発言を連発しといて何がサンキューフォーウォッチングなんだ。
 そして身をつまされる思いだった。こうなってはダメだマジで、という。もともとそういう承認欲求を強めに持っている自覚もあるし、理論で話しがちな自覚もあるので、これらが暴走するとこいつらと同じになってしまう。というかもう同じになっているかもしれない。どこにも書かないことを日記に書くのでつい捌け口がここだけになっちゃうというか「これ結構無茶なことをどうにか理屈で押し曲げてギリギリ枠内に収めてないかな」という不安がいつもよぎり、現にそういう印象を受け取って離れていった人たちもいると思う。特に最近は物理的に一人きりな日々を過ごしていることもあって、そういうのが変な方向に作用している自覚がちょっとあった。怖い。というか考えれば考えるほどもう俺はこいつらと同じなのかもしれないとしか思えなくて眠れずに朝まで羽毛布団の中で何回も無意味な寝返りを打って苦しかった。

四月八日
 夕方に重たい体を引きずり下ろしてどうにか立ち上がり、日記の推敲。半分近くごっそり消した。初めてのことだった。自分の内面を曝け出せばみんなが喜んでくれることにあぐらをかいているやつの文章だったから。調子に乗っていたから。消した。本当は怠惰でルーズな人間なのにストイックぶりやがってムカついたから消した。
 お前ってさ、そのまま行くの? 新人賞も獲ってないし何もどデカいこと成し遂げてないしずっと無名な作家じゃん。それでそんな自分を正当化するために必死で、目先の承認欲求にふらふらついていって、自分の意見以外受け付けませんって態度で、そのまま行くの? 今、人生の全てを物語を書くことに捧げてるって自信を持って言える?
 言えない。
 言えない、と思った。サボってる。それをまず認めよう。
 やれよ。
 もう一人の俺がかなり明確にブチギレていた。
 わかった。やる。今日から。
 今日からじゃなくて今からやれ。
 わかった。ごめん。
 お前このまえ恋人とか家族とかあくつさんとかに「いま死んだら後悔する」って相談してたわけじゃん?
 うん。
 そうやって大切な味方に吐いた言葉をお前は安く扱ってるわけじゃん?
 ごめん。
 いま死んだら後悔するなら後悔しないように変えろよ。それ一択だろ。
 そうだね。うん。
 お前マジで口だけだよ。ずっと。ずーっと。昔から。デカい口叩くくせになんもやってねえじゃん。何かカマしたことある?
 うーん、自分のできる範囲ではやってるつもりだけど。
 そんなの当たり前じゃない?
 まあ、そうか、うん。
 それ以上をやりたくてやってんじゃないの?
 そうだね。
 言葉じゃなくて行動で示してくれない? そろそろ。
 はい。

 めちゃめちゃ怒られた。しょんぼりしていた。母親を本気で怒らせたあとみたいな時間だった。すぐに立ち上がって、iMacの周りを片付けて、デスク周りをとにかく綺麗にしていく。椅子をゲーミングPCの前からiMacの前に移して、iPhoneを取り出して泣きそうになりながら小説の続きを書いた。
 働きに向かうバスの中でスリンキーの言っていた言葉を思い出す。小説や短歌や脚本を書いている時の自分は好きだ。サボっている時の自分は嫌いだ。じゃあそれをやれ。今度はもう一人の俺じゃなくて、ただ一人の俺がそう言った。目を閉じた。

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