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THE 日記(8/11〜8/17)

八月十一日
 気付いたらこの猛暑のなか自転車を漕いでいて、わけもわからず日記屋さん『月日』のアイスカフェラテを買ってがぶがぶ飲みながらB&Bに入った。本屋にドリンクを持ち込んでしまった。ミス。店員さんに「すいませんこれオイテオイテもらえますか?」と言い、すぐに「持ったまま本見るの、こぼすと怖いので」と理由を言えた。この「理由を言えた」という実感がとても大事で、いつだって具体性だけがお前を救う。
 B&Bで買ったetc.booksのステッカーをポメラに貼った。貼るときに、天地の向きを迷った。ポメラを開いたら他人にとって天地が正しく見えるように貼るか、ポメラを閉じた時に俺にとって天地が正しく見えるように貼るか。俺がポメラを開いている時は、俺はポメラの背中が見れないから、要は対外的に美しく見えるように貼るのか、自分のために貼るのか。自分のために貼った。閉じた時に綺麗に見えるようにした。そうして良かった。
そしてヴァージニア・ウルフ『ある協会』を買ったら"I READ FEMINIST BOOKS"と書かれたブックカバーをかけてくれた。少し前だったら「うーん、このカバーは着けないかな」とか思って外していたと思う。フェミニストになったとかそういうことではなくて、まあなっててもなってなくてもどっちでも良いのだけど、ただ単にフェミニズムの本に惹かれているっていうのと、まぁ差別って嫌だよね、っていうだけなんだけど、なんで惹かれてるのかを考えた時に、今まではその当然の運動に対して「女性上位になろうとしてない?それはそれで逆に差別じゃん」と思っていたけど、そういう本を読んだり自分が今の日本で暮らしていく上で思ったりしたんだろうけど、何かそういう強烈に印象づけるように言わないとどうしようもないその切実さに惹かれてる。内容がどうというよりか、そこまで言わないと誰もわかろうとしないし聞こうともしない、っていうその思いに、そうだよね、と思う。それは俺の中でイラつきがピークに達した時に「殴るしかない」て思う感じと似ていて、思いの出口がもう一個しかない、っていうその状況が好きだ。「好きってなに。は? 余裕ぶりやがって。その上から目線が全てを物語ってるぞ」と思われるかもしれないけど、「好きだな」という気持ちにあなたの言う上から目線が全く入らないことなんか絶対にないから、だから、好きだった。そして俺は誤解もしていた。別にそもそも女性上位になるための動きでもなかった。俺だって男らしさみたいなのに苦しんでたじゃん。

八月十二日
 タリスカーを買って炭酸で割って飲んだ。
 ポテサラと西上くんと『本当は会って話したい』#3の収録。
 サイレントキラージョイントくん逮捕の顛末をYouTubeで観て震撼した。

八月十三日
 代官山の蔦屋に行って『人間と実存』と『フェミニズムはみんなのもの 情熱の政治学』を買った。スタバに入ってうんちをした。『影分身と饅頭』の続き。四万五千字。帰宅。『誰かの日記』の校正最終局面。苦しみつつもどうにか終わらせて返信する。

八月十四日
 バートランド・ラッセル『哲学入門』がおもしろい。目の前にテーブルがあって、このテーブルは茶色で、固くて、頑丈、なんだけどそれは感覚の情報(現象)でしかないからそれは実存の保証にならない、目の前にテーブルなんてないんじゃない? みたいなこと書いてあって、「いや、あるあるある!!!」と思って爆笑。そして考えはどんどん突き詰められていって最終的に「ある」に戻ってきてまた爆笑。あるじゃねえか。あるよそれは流石に。やっぱりこういう真剣さというか異様なほど突き詰めたその真面目さみたいなのってギャグに引っくり返ってるように見えるし最高だ。

八月十五日
 恋人と久しぶりに会った。俺の余裕のなさについて喫茶店で話した。自分のことを許さないと永遠に休憩できない。別の喫茶店に移動するために歩いていたら全部閉まっていて、二人とも暑すぎてヘロヘロになって、一旦恋人の家に帰って、そしたら汗だくのまま動けなくなって、気付いたらベッドで寝ていて、起きてポカリをがぶがぶ飲んだ。二人でバスに乗ってうちに向かった。
 コンビニで買ったごはんとKITINのケーキを食べた。

八月十六日
 舐達麻の新曲ばっかり聴いているが、バダサイさんのインスタライブを見る限り毎日曲を書きまくっている。そしてそれは頑張っているとかそういうことではなく、大麻吸いながら曲を書くことが一番楽しいしリラックスできるからだ、というようなことを言った。俺は頑張るということが一体なんなのかわかっていないからつまりそれは休むこともなんなのかわかってない。休憩が不可能だ。それを恋人から言われたしそうも思った。年間百冊の本を読むんじゃなくて、一冊の本を百回読むことだよねと言うと彼女はベーコンエッグサンドを食べながら「そう」と言った。
 今日も働いた。働くと疲れる。だけどその前後の時間でやっていくしかない。『誰かの日記』の微調整をして、返信。コントを少し書く。眠すぎて頭が回らん。『影分身と饅頭』の続き。千字ぐらい、詩織ちゃんが釈放されて大雨が降るなか迎えに来た瞬之助と景が刑務官に「煙草吸わないで下さい」と注意されて煙草を投げつけるシーンを書いて、眠いからやめた。

八月十七日
 暑い。
 語彙力であるとか文体・論理的思考力みたいな、小説において伝達するための表面側を鍛えすぎると逆に中の空虚具合が浮き彫りになってしまうよね、と言った。というか、むしろ要らない。「中もぎっしりで外も美しく、が一番いいよね」とも思わない。中ぎっしりで外クソバカ、が一番良いんだ。そもそも中と外という区分けが良くない。そんなんじゃない。中とか外とかじゃなくとにかく全てを駆使しろ。
 保坂さんの『未明の闘争』がとてもおもしろいです、とあくつさんにさっき言った。最近は麻雀が少し強くなった。ストファイはあんまやってない。恋人のおかげで、とにかく素直に生きようとますますそう思えていて、それによって少し休まる。勉強のために本読んだり情報を吸収しようとするんじゃなくて、楽しむため、楽になるために本を読んだり何かを観たりする、というただそれだけで、それは努力不足のように見えるかもしれないけど、きっとそんなことはない気がしている。家に帰ったら『誰かの日記』の最終チェックをきっとやる。フヅクエのスタッフ募集に応募した時の気持ちを思い出しながら窓に反射するオレンジ色の照明を見ていた。


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