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THE 日記(9/15〜9/21)

九月十五日
 確定申告やった方がいいよ、と教えてもらう。俺はこれから死ぬまで毎日領収書を集め続けるのか。そうだよな。執筆業なわけだし。フリーなわけだし。大変だなこりゃ。銀行で『誰かの日記』の製本代を振り込んで、眼科。生来のアレルギー性結膜炎がまた暴れ始めているから目薬をもらいにきた、と受付で言った。
 好きな出版社に「僕の小説を出版してくれませんか、とりあえず一回読んでもらえませんか」とクソ生意気なメールを送っていて、「一回読むので送って下さい」と優しい返事が来ていた。目医者が「おい山口〜」と呼ぶまでの間そのメールを見返していた。かゆみと目やにが止まらない赤らんだ目を使って。
 新宿で坂元裕二『またここか』とジュール・ヴェルヌ『海底二万海里』と犬の図鑑を買って、世界堂で領収書をまとめるファイルを買った早速。犬の図鑑は恋人へのプレゼントだった。歯医者に行ったら満員状態で入れなかった。帰宅。ヘロヘロ。不機嫌。

九月十六日
 本屋イトマイに行った。フォークナー『アブサロム、アブサロム!』を読み終わった。何言ってんのかわかんない。ストファイ。LPを5000に戻す。ミカのしゃがみ中Pが弱体化したからめくり飛びを落とせないことが増えていて、そこから崩されることが多い。対空が届く間合いを意識する。起き攻めやりすぎない。
 恋人が「新しく買ったドライヤーを見てほしい」という理由で自宅に来てほしいと言って、良い理由だな、と思った。

九月十七日
 歯医者。「え、そんな髪長かったっけ?」と言われる。「あなたは疲れてるからしっかり休んだ方がいいよ」とも言われる。口の中を見るとわかるらしい。
 小田急の中で木山捷平『酔いざめ日記』を読んだ。「井伏鱒二と太宰治が横浜で遊んでいたら突然太宰治が桜木町駅でいなくなって、そのまま井伏鱒二が警察に行って捜索願を出したけどまだ見つかってない」というような新聞記事を木山捷平が読んでいた。凄い。太宰はこのまま死ぬのかな、と思ってドキドキしながら下北沢で降りた。トロワシャンブルで『影分身と饅頭』の続き。六万三千字。
 整骨院に向かって歩いていたら道路の真ん中にやたらゆっくり歩く良い色の犬とおじいさんがいて、恋人が犬に触っているとおじいさんが「目が見えないんだよ」と言った。おじいさんがそれに初めて気付いた日のことを考えた。「あれなんか様子変だな、と思って病院連れてったんかな」と俺は言った。整骨院は朗らかだった。めちゃくちゃ痛かった。どこ押されても痛い。凝りまくっていてやばいらしい。そんなに気付いてなかった。凝りに鈍感だということがわかった。しかも右足首の関節が外れっぱなしでここ数年生活してたらしく、ガッポ、と嵌め込んでくれた。帰り道、全身が楽すぎて最高の気分だった。丸ノ内線に乗っていたサラリーマンが又吉さんの『人間』を読んでいて、終盤だった。あと数ページで終わる。
 恋人と『カルテット』を観る。五話まで。六話からやばいからやめとこう、と言って寝た。

九月十八日
 『アボカドの固さ』が明日から公開で、そうかいよいよか、と思った。恋人の家で寝た。

九月十九日
 昼に起きて、一旦帰宅。渋谷に。丸善ジュンク堂で佐伯一麦『渡良瀬』、笙野頼子『三冠小説集』を買って、喫茶店。笹井賞の〆切と群像新人の〆切が近い。短歌をいくつか書いて、『渡良瀬』を少し読むけど、眠い。とにかく眠い。個室ビデオに入って一時間ぐらい寝た。少し楽になった。スタバに入って、『渡良瀬』をまた少し読んで、『影分身と饅頭』の続き。変わらず六万三千字。全然進まない。調子悪め。ユーロスペースに。『アボカドの固さ』公開初日。チケットが完売していて、とてもありがとうございます、という気持ち。井上くんがいた。前原さんが来た。石川くんが来た。城くんが来た。事務所をお借りして舞台挨拶の打ち合わせ。一番後ろの席で観た。久しぶりに観たらやっぱり凄く良い映画だった。書いた当初と感じ方が全然変わっていた。緊張しながらも無事に舞台挨拶を果たして、たくさんの人と話した。さよぴぃも昔観た時となんか違ったっぽい。はなむぅはオシャレな上着を着ていて元気がなかったから西邑が袖をなんか上に引っ張り上げてカマキリが威嚇してる時みたいにしてあげていた。久しぶりにみんなと会ってめちゃめちゃに楽しい気分で、この気持ちが毎日続けばいいなと思ったけど多分そんなに簡単じゃない。
 帰宅して、自転車のタイヤに空気を入れて、風呂、ごはん、『カルテット』。六話以降確変に入ってめちゃめちゃに泣く。寝る。

九月二十日
 やらなきゃいけないことがたくさんあるな、と思う。誰かの日記はもう完成してるけど実際に売り始めるまでに必要なあれこれをまだ済ませられてなくて、それをやらないと。働く。久しぶりにチャリに乗る。気持ち良かった。
 今日の『アボカドの固さ』は昨日よりもたくさん人が入ったようで、良かった。俵さんがトークゲストだった。とにかくたくさんの人に観てもらえたら嬉しい。
 帰宅、『アコーディオン弾きの息子』を読む。おもしろい。読んでいる時に何か大事なことを思い出したけど、日記を書いている今はもう忘れている。またいつかどうせ思い出す。

九月二十一日
 起きて、ハライチのトークライブ『けもの道』を観ながら支度、出、高円寺まで歩く。やよい軒でメシ食って、パチンコ屋でうんちをして、ぽえむに行ったら混んでたから上島珈琲に入った。今から『影分身と饅頭』の続きを書く。群像新人に間に合うならば出したい。プロゲーマーやバンドマン、ラッパーなんかの最高なプレイを観ていると、今すぐに目の前で熱量を提示できるのが羨ましいな、と思う。書くということも瞬間の熱量ではあるけど、結果的に時間が経って冷静な営みとして見られる。それでもしっかり腰据えてぶちかまそうと思う。生での提示が暴力なら、自分がやっていることは理知的な復讐なんだと。殴られたから殴り返す、ではなく、殴られたから裁判、なんだと。しっかりと着実にやり返すということ。

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