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THE 日記(10/22〜10/30)

十月二十二日
 恋人と喧嘩。俺は二人で一つになろうとしてるんじゃなくて、ここには一人きりが二つあるだけ、と何回も言う。あなたのこと嫌いになったら嫌いになるし、一緒にいたくないな、と思ったら一緒にいない。それはもちろんあなたから俺に対してもそう。俺のこと好きでいなきゃいけない、浮気しちゃいけない、なんてルールない。ノールールだから、ノールールであることが俺にルールを考えさせる。簡単にあなたのこと悲しませられるから、悲しませたくないと思う。圧倒的に自由な、フラットな状態であなたのことを好きだと思っていたい。いつでもあなたのこと嫌いになれるぐらいの自由さの中で初めてあなたのことを好きだと思える。いつだって悲しませられるから、悲しませたくないなと思う。この世にいる全ての人間からあなたを選んだと思いたい。変わってほしい部分なんかない、息してるだけであなたは最高。ずっとかっこいい。息してなくても最高。ただ唯一、俺があなたに変化を求めないのと同じように、あなたも俺に変化を求めないでほしい、というのは、初めて会った時に言っておくべきだった。でもそんなのは今になって初めて言葉にできたものだからきっと無理だった。よくわからなくなった。

十月二十三日
 懸命に働いた。疲れた。

十月二十四日
 西邑と暁里さんがZINEを作ったらしく、それについての対談の司会というか場回し的な感じで呼ばれたので、三人でLINE通話でそれをやる。楽しかった。西邑の写真も暁里さんが書く言葉も好き。
 『影分身と饅頭』に取り組む。今までの俺だったらとっくに「完成」という判断を下しているレベルにはなっているはずなのに、なぜかまだ終わってない気がしていて、だから終わらない。ぼんやりと、もっと絞った方がいいと思っていて、一回広がったものを一箇所に絞り込んでいく作業っていうのは、本来書く時に行われていてほしいものなんだけど、まぁもう仕方がないので、この大変な作業を頑張った。
 みんなで麻雀。ほまれくんが来て、最後にぺっちゃんVSほまれくんの構図になって、俺は休憩しながら神視点でそれを見てたからおもしろかった。珍しくポテサラが負け込んでいて、テンションが下がっていた。朝で、クソ晴れていた。朝日が夕日と見分けの付かない橙色で光りながら俺は自転車に乗って信号待ちをしていた。青い車体に跳ね返った光が爽やかだった。恋人にメールを打った。

十月二十五日
 起きたら夜で、今日はCPTオンラインアジア予選だった。それを観ながら高円寺まで歩いて、やよい軒で何かを食べた。ガチくんが優勝した。ふ〜どさんがダルシム相手にミカを出して、これはボコボコにするんだろうな、と思ったら負けてしまって残念だった。こく兄が「このレベルの試合を観ると俺らも良いプレイしたいね」と言って、アールさんが「でも人生懸けないとこのレベルにはならいよ」というようなことを言って、ウメさんが「まぁそうだね」と言ったのが良かった。
 もう全ての喫茶店が閉まっていたから、家に帰って『影分身と饅頭』の続き。少しずつ良くなっている気がする。だけど分量が凄いから、調整の仕方がわからない。小説の読み方とかスッと入ってくる文章はその日その日の体調でめちゃめちゃ変わるから、なかなか定まらない。でも、これはちゃんと前進しているんだ、ということだけを意識して文字を読んだ。最近小説が読めない。ぼんやりと、だけど確実に、ずっと疲れている。困った。

十月二十六日
 夜の環七で自転車を漕いでいたら正面から自転車が二台横並びにやってきて、そのうちの一台には人が乗っていなかった。は?と思ったら、一人の人が自転車を持った状態で片手運転しながら、要は自転車に乗ってもう一台の自転車を運搬していた。な〜んだ、と思った。
 Podcastを始めようと思った。誰も聴いてなくていい。この日記みたいに、羅列していこうと思う。少し前に『影分身と饅頭』の推敲のために冒頭のところを音読して、それを録音して、友達の話を聴いてる気持ちで聴いたらかなり良かった。ということがあったから、音読に何かを見出したっぽい。

十月二十七日
 十九時に起きた。昼夜逆転やりすぎて頭が永遠にぼーっとする。部屋も汚い。間違いなくこれは良くない。だけど〆切前に小説を書いてその世界のことをずっと考えてるといつもこうなる。ずっとその世界から出られない。だから他の本も読めない。
 歯医者。混んでるかと思ってたら空いてた。麻酔を打って、歯を削った。扉を開けて歯医者の外に出ながら舌を右上に持っていくとザラザラした感触が伝わってきた。歩きながらiPhoneのボイスメモに喋り続けた。Podcastを始めようと思ったからそれを録っていた。阿佐ヶ谷に着いて、駅前の広場でベンチに座って『影分身と饅頭』を仕上げた。終わった。長かった。終わった。

十月二十八日
 阿佐ヶ谷から帰ってすぐに寝て、起きたら朝の五時とかで、夢を見た。俺が「もう小説とか書いても何の意味もない」と泣きながら拗ねていて、恋人がずっと「大丈夫だよ、意味ある、大丈夫だよ」と励ましてくれる、っていうだけの夢。ありがとう。応募するための体裁を整えて、昼になっていて、また寝る。あんまり寝れなかった。働きに向かった。

十月二十九日
 起きたら朝の五時。リズムが無茶苦茶。寝ようとしても寝付けないから、着替えて、家を出て、自転車を漕いだ。新宿。サラリーマンばっかり。朝日が綺麗。郵便局に行った。『影分身と饅頭』を講談社に送った。ローソンでからあげくんとおにぎりを買って道端で食う。ピカデリーで『mid90s』八時二十分の回を観る。席はがらがら。アスペクト比がスタンダードで、良かった。レイ、ファックシット、フォースグレード、の三人の優しさが好きだった。「もう終わりか」と思った。あと十分ぐらいあったら嬉しかった。歩きながら母親と電話。紀伊國屋に入って、北方謙三の『三国志』、伊藤計劃『虐殺器官』、ハーラン・エリスン『死の鳥』、西村京太郎『寝台特急殺人事件』を買う。ラインナップがおじいちゃんすぎて驚く。タイムスで『三国志』を読む。北方謙三の書き味がめちゃめちゃ爽やかで、え、これ、凄くない?と思う。好きな端的さだった。しかも一人称になったり三人称になったり、語り手が劉備から曹操に変わったり、なんだこの現代的な書き方というか、のびのびした感じは。凄い。
 ポテサラとぺっしと合流して、自転車で古着屋を回る。原宿でGAPのフリースを買った。足立も合流。みんな色々買って、東高円寺の成都でごはん食って、足立が「本田翼と松岡茉優から同時に告白されたらどうします!?」と興奮していた。二十三時に寝た。

十月三十日
 朝七時起床。風呂。洗濯。ラップスタア誕生のファイナルを観る。Ralphくんがやばすぎる。誰かの日記の請求書作る。このリズムがやっぱ一番良いな、と思う。頭の回り方が全然違う。ツイッターで坂口恭平さんが芥川賞について書いていて、それに対して山下澄人さんがアンサーを返していて、またそれに対して坂口恭平さんが返す、というのを見る。二人とも好きだしどっちもわかるというか、売れないぺぇぺぇの作家をやってる身としては二人の言うことはどっちもリアルだなと思った。賞獲らないと何も始まらないのも、賞とか関係なくもう本当にただ書くしかねえのも、どちらも事実です。ただ、賞と向き合った時に、賞関係なく独自のルートを作ろうと思うとそれに必要なのはバイタリティと世渡り上手さ、みたいなことになってるのも事実ですよ、と思う。だから結局それって賞と変わんないですよ。自分にとって有利な賞を作っただけで。それを作るのって、小説を書いていく&物語を作っていく作業とは正反対の動きというか、それができないから書いてるみたいなところが俺はあるから、山下さんの言っていることの方が好きだなと思ったけど、それにしても坂口さんの優しさの深さも凄いな、とも思った。
 誰かの日記を取り扱ってくれそうな書店さんに連絡入れて、今。この生活リズムをキープしたい。今はまだ昼の十一時四分。どうしようか。外出るかな。


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