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THE 日記(9/4〜9/14)

九月四日
 朝までムキになってApexをやっていたから、西上くんがピンポンを押すまで完全に熟睡していた。慌てて起きる。だけど寝起きでおちんちんが大きくなっていたから「ちょっと待ってて」とLINEする。そしてズボンを履いて無理矢理押し込めてドアを開けた。そしてそれも言った。「おちんちんが大きくなってたから」と。
 みんなが順番に来て、ゆっくり撮影開始。無事に撮り終えて、コンビニメシ食って、渋谷に移動。クイズとぺっちゃんも合流。いつもよりゆっくりしっかり撮って、俺は高円寺でメダルゲームをしたかった。メダルゲームをやりたい欲求が少し前からふつふつとあって、だから一人でも行くつもりだったけど、意外とみんな来ることになった。スクランブル交差点のところで落合とだけ別れて、あとはみんなで山手線に。土曜の渋谷、人が多すぎてビビる。高円寺に着いて、みんなでメダルゲーム。俺はずっと北斗の拳のスロットを一人で打って、ぼーっとした良い時間だった。
 ぺっちゃんとポテサラは横並びで、メダルゲームでよくある、銀色の二段の台が前後にゆっくりスライドしてて、そこにメダルを投入していくアレを黙ってやっていたらしい。クイズと西上くんも同じやつをやっていたらしく、そして何か凄い大当たりを引いたみたいで、閉店間際にとんでもない量のメダルをカップに入れていた。俺が代表者になってメダルを預けると、みんなは太陽にラーメンを食べに行った。俺は駅前のあゆみブックスが開いていることに気付いて、一人でそこに行く。雨が降っていた。スタジオからの帰り、SPBSがまだやっていることに気付いて、今あゆみブックスも23:00までやっていることを知って、意外ともう20:00閉店は緩やかなものになっている。本は買わなかったけど、本屋にいるだけで嬉しい。そろそろコロナ禍の我慢の限界が来てる。小説が書けなくなっていたのも多分この生活リズムを狭められたことがめちゃくちゃ大きいことに今さら気付いた。どうしても夜型だから、夜中にふと、「あ、代官山のTSUTAYA行こ」とか、そういう風に休みの日は絶対に外出していて、その外を歩いている時間に気持ちが動いてそれをガソリンにして書いていた。出来事とその反芻の繰り返しで書いていた。思弁的なものよりも景色の連続が好きなんだからそうだった。

九月五日
 あくつさんと店の表で話していると、日記屋月日の皆さんが来て、今度こういう覆面本の企画をやろうとしてて、名前がどうしても「誰かの日記」になっちゃうんですけど、山口さんに相談したくて、ということで、いや全然大丈夫ですよ〜、と話す。

九月六日か九月七日
 バスに乗った。小学生の女の子が運転手さんの横に立ち、ずっと話していた。仲が良いのか、親子なのか、女の子から色々と疑問をぶつけているようだった。運転手さんは運転しながらその質問全てに応えていく。
 
九月八日
 恋人と銀座に。モデルナ二回目。一回目の時より早めに着いたからか人が全然いなくて、着いた瞬間もう打っていた。不安になる。みんな一回目打って死んだのか? 待機の十五分の間に入口の方をちらちら見ていたけど、やっぱり一回目より断然少ない。どういうこと?
 銀座シックスの蔦屋書店で『カンバセーションズ・ウィズ・フレンズ』を買って、帰る。大量のポカリや食料も買う。重い。
 夜、突然震えが止まらなくなり、奥歯がガタガタ言う。あまりにも急すぎて恋人がビビり倒す。発熱の前兆だった。夜中には38.8℃が出て、これは想像以上にしんどい。ほぼ「死」だった。Deathが完全に掠めてた。Deadになるところだった。

九月九日
 朝から晩までひたすら寝る。夜には37.3℃まで下がった。ただ、一回目の時に猛烈な吐き気に襲われたから、まだ警戒し続ける。

九月十日
 起きたら、37.0℃。良い感じ。ちょっとApex。このゲームはおもろい。37.0℃〜37.3℃を行き来する。紀伊國屋に行く。『大陸の細道』『熱風』『ジェイン・エア(下)』『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』『見知らぬ場所』の五冊を買う。ワクチン耐え抜いた褒美。やはり体調芳しくなく、一旦座るためにピースに入る。のんびりする。短歌をちょっと書く。お会計のために席を立つと、右後ろに素敵お姉さんがいた。髪の先端だけを灰色に染めて、白のハイソックスに赤のタンクトップと言うのかチャイナドレス的なワンピース的な服を着て、両腕が刺青まみれだった。和風ハーレイ・クインみたいな。

九月十一日
 西上くんが来た。しばらくしてポテサラも来た。ポテサラがモスバーガーを買ってきてくれたので、みんなでそれを食う。作業開始。西上くんは俺のiMacで、ポテサラは自分のMacBook Airで。俺は横で今この日記を書いている。
 西上くんと交代しながら編集をどんどん進めて、夜に『くらいくらい公園のタネマシンガン』其の弍をアップ。其の参の編集もちょっとやって、今日はもう疲れた、と終了。みんなでメシを買いに行く。ポテサラは寿司の出前を取ったので家で待機。ふとカレーを作りたい気分になったから、カレーの材料を買って帰る。
 みんなでメシを食う。だらだらとみんなで話して、解散。
 カレーを作る。
 Apexをやる。プラチナⅢに上がる。やっとだ。スプリット後半で強い人は上に行ったからだろうけど、やっとⅢだ。次シーズンはダイヤに行けるかもしれない。

九月十二日
 昼過ぎに起きて、コーヒーを淹れてカフェオレを作り、タバコを吸う。さ、やるか、と小説に取り掛かる。長いこと書く。でも何かが上手くいかない。文量はもりもり増えていくけど、冒頭5ページがカチッとハマりきらない。夜になっていた。休憩がてらぺっちゃんとApexをする。ランク。なぜか結構勝つ。プラチナⅡが見えてきた。マジで? プラチナⅡ行くのか? そしたらいよいよダイヤだな、と思うが、今月は笹井賞と文學界新人賞に出すのでそれほどやれない。次シーズンに期待。
 またもや書く。混乱甚だしい。わからない。パソコンから離れて、でっかい紙に手書きで思考を殴り書きして、まず自分の中を整理する。そして見えてきたのは、これは俺に書けるような題材じゃない、という絶望だった。それにはきちんと理論があった。『デリケート』『反転した青い文字よ光り続けろ』『馬鹿のヤングフォークス』『巨木とスプリングフィールド』と、今まで書いてきた長めの話たちに共通していたのは、登場人物たちに共通の目的意識や出来事があるということだった。デリケートは映画館のバイト、反転はジャスコのフードコート、ヤングフォークスは喫茶店、巨木スプはバンド。『影分身と饅頭』は、みんながバラバラの仕事や生きがいを持っていて、展開を作るのが難しい。なんでそんな簡単なことに気付くのにこんなにも時間がかかったのか。そして俺はカメラの制約が苦しくて脚本から小説に移行したから、あくまでも「物語」がぶっとい鉄パイプになって支えてくれないと書けない。イライラしていた。初めてのことだった。苦しいことは今までたくさんあったけど、怒ってるのは初めてだった。本来楽しいはずのものを台無しにされている気分だったから、そりゃ怒る。
 書けないな、これ、と思って恋人にそういう理屈諸々を話す。そして話しながら「あれ、滝口さんの『高架線』って、次に住む人紹介するってだけで、みんな別々のことやってるよね?」と気付く。本棚から取り出してぱらぱらと捲る。しかしこうやって十時間ぐらい自分の文章を見ていたあとに滝口さんの文章を見ると、あまりにも自分の文章と違いすぎて驚く。それは出来不出来の話じゃなくて、「他人」という、そういう感じだった。人によってこんなに語り方って違うのか、と。
 恋人に説明し終えても彼女は「え? でも、書けばよくない?」という感じで、その飄々さは絶対に大切にすべき感覚だと思い、確かにな、ムズイってだけで書けないことはないんだよなきっと、と、諦めるのをやめた。
 整理はされた。プロットを組み直すところからだ。だから今日たくさん書いたやつはほぼ使われないだろう。肥料になったから無駄ではない。だけど、丸一日かけて『影分身と饅頭』はほぼ白紙に戻った。マジで? まぁでも着実に進んでる。白紙になったけど。これでいい。

九月十三日
 バスの中で共産党のツイッターを見ていた。なんかの番組で共産党は暴力がなんちゃらみたいなのをあの胡散臭い弁護士が言ったらしく、それに対して小池さんが怒りながらも冷静に抗議してる動画を見た。ずっと昔から明確に言うてるやん、暴力しませんよ、って。曖昧さで逃げようとする政治家ばっかりだから、共産党のこの明確な問答は見ていて気持ち良い。というかそれが普通だ。聞かれたことに答える、っていう小学生でもできることを誰もやんない。

九月十四日
 起きてTwitterを見たら、釈迦さんとギアさんがDTNを脱退するニュースがあった。そうか、と思った。ちょっとした寂しさ。釈迦さんに関してはDTN側から提案があったらしく、それは別にクビとかではなくて「一人で自由にのびのび色んなことにチャレンジした方がいいんじゃない?」という、凄い、そんな優しいことってあるんだ、というものだった。
 小説を書かなくちゃいけない。今までエモーションに頼って書いてきた。コロナの影響なのか単に年齢的なものなのか、あの青く、ズザッと高速で動いて残像をたなびかせるみてえな心の動きが減って、それを思い出すためにどこかに出かけようかと思った。高円寺か、中野か、吉祥寺か、新宿か、町田か。思い入れのある場所に行った方がいい気がするけど、でもなんとなくやめた。今のまま書くしかない気もしていたから。かべしに連絡をした。「みんなでアルルに集まって話していたあの二十五歳らへんの気持ちに全くならなくなった」と。とにかく書くことにして、ワードを立ち上げる。キーボードをぱちぱち打つ。窓の外がゆっくり暗くなってきて、環七は混み始めた。

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