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THE 日記(9/2〜9/8)

九月二日
 バイクを運転する夢を見て起床。気持ちよかった。ヘルメット着けるの忘れてた。
 ストファイのLPがもうすぐ6500になるところで興奮してきて、一気に5500まで落ちた。よくわからない。オンラインマッチングさせる時に何かしらの意図が介入してるんじゃないかと勘繰る。
 読書会。閻連科『丁庄の夢』。たくさん話しておもしろかった。

九月三日
 通帳繰り越しをするためだけに早起き。近所の郵便局に行ったらお客さんが誰もいなくて(郵便局に来る人のことを「お客さん」って言うの合ってる? 利用者? でもなんか利用者ってのも変だな)、局員どもが八人組ぐらいになって喋り倒していた。楽しそうだった。眠いな、と思いながら駅の前で迷った。家に帰るか、このまま電車に乗ってどっか行くか。色々迷って新宿に来た。紀伊國屋で次の読書会の課題本の『アコーディオン弾きの息子』を買って、椿屋珈琲に入ってみたらフジロックぐらいうるさくて、着席する前に出た。フヅクエに行った。保坂さんの『未明の闘争』を読んでいたら「癇性」という知らない単語が出てきて、調べたら意味が二つあった。

かんしょう - しやう【癇性・疳性】
(名・形動)ナリ
①激しやすい性質。怒りっぽいさま。「-な性格」
②病的に潔癖である・こと(さま)。「-で人の使ったものに触れない」

なんだか全然違う二つの意味が含まれてるな、どっちで読めばいいんだ、と思った。前後の流れで①かな、と思った。そして「蛯ガ沢」という登場人物が出てきて、「蛯」が読めなかったから調べた。「えび」だった。エビかこれ、と思った。読めない漢字が出てくると、しばらく放置して読み進めるけど、ある一定量を超えると、ダメだこりゃ、となってどうにも調べないと内容が入ってこなくなる。全ての黙読は頭の中での音読だからだ。俺は特にこの側面というかいやメインロードかもしれないけどそれが強くて、だから話し言葉や普段口から出してる音をそのまま文章に乗っけようとする意識が強い。だから読めない文字が出てくるとそこがスペースになって、まさに「読めなく」なる。全部が。これは音楽でいうとCDやカセットの音飛びに近くて、休符とは全然違う。なんか書き味が保坂さんみたいになってるな今。読んでるからか。おもしろ。
 キョンキョンが共産党から出馬準備、というニュースが目に入った。本当かどうかは知らないけど出てくれたら嬉しいなと思った。何回もみんな言ってるけど、「左翼だから」とか、「反自民党だから」とか、そういう外側の理由で共産党を支持してるわけじゃなくて、一個一個をその都度判断していった結果今共産党が好きなだけで、別に自民党がまともなこと言ってたら自民党のことも好きになったはずだよ。好きな気持ちとか自分の正義が流動的なのは大前提なのに、それをわかってない奴が多すぎる。会話ができない。もっと個人的なレベルに落とし込んで言うと、「浮気はダメだからやんない」とか「不倫は最低」とか、それは目に見えない全体がテキトーに作った価値観に絶大なる影響を受けたあなたの価値観であって、俺は「浮気をしたくないならしなければいいし、やりたいならやればいい」としか思わない。一個一個疑えよ、考えろよもっと。それやってねえのはただの怠慢だ。サボってる奴が真剣に考えてる奴の領域に入ってくんな。越境するなら覚悟して跨いできやがれ。何も知らないくせに「法律で決まってるから大麻やる奴は最悪」とか、他人が決めたルールに則るのが本当にこの国の奴らは大好きだ。とんでもなく危ない薬なのに処方箋が出たり、安全な薬なのに牢屋に入れられたり、まぁあくまでも一例だけど、善悪の基準は自分の中にしか芽生えないということにすら気付かないたくさんの泥人形。個人の正義と悪を実践するとどうなるかも把握して生活すればいいだけだし、俺は兄貴の運転する車に乗った時、それは信号待ちで、隣にパトカーが止まった。警官はジロジロと兄の方をずっと見ていて、腹立った兄ちゃんは窓をゆっくりウィ〜〜〜〜ンと開けて「なんやこらぁ!?!?!?なんば見とっとやクソが!!!!!!!」と絶叫していて、俺は助手席で妙に納得していた。警官に絶叫しちゃいけないって決めたのは警官だ。知らないよ俺は。書面で交わしたことないし、「あなたたちに向かって絶叫しません」って。約束したことない。勝手に決めてくれるな。
 初台から高円寺までの、京王新線から中央線に乗り換える道すがら、電車の中で、歩きながら、『アコーディオン弾きの息子』を読んでいた。おもろい。熊本弁のことを思った。東京に出てきても強固に根付いていたはずの語彙はいとも簡単に大気に混ざって今残ったのは少しの語尾と少しのイントネーションだけだ。さっきの音読の話と通ずるけど、聞いてないと忘れるし、だから言葉っていうのは一個の今の状態でしかないんだなと思いながらエスカレーターに乗って読んでいた。去年熊本に一ヶ月ぐらい帰って、東京に戻ってきたら熊本弁が強くなったと言われた。完全に消え去ることはないみたいだった。

九月四日
 さよぴぃにレモネードを作った。森奈ちゃんちの水道が全部壊れた。イントロの数秒だけ覚えていて曲名とか全体が全く思い出せない曲があって、思い出せねえなあ、気持ちわりぃ、と思いながら寝た。

九月五日
 格闘ゲーマー人狼の感想戦で、マゴさんふ〜どさん三太郎さんKSKさんが結構ピリピリというか凄い空気のなか四人で話していた。冗談の領域と本心の領域が混ざっていく、もしくはわからなくなってくる、しかもそれが四人分ある。マゴさんが「ちょっとこの話やめない? 危険な気がする」と言って止めて、それも好きだったし、多分この状況を本当におもしろいと思ってて平然としてるふ〜どさんもそれはそれで凄かった。三太郎さんが孤立しないように味方の立場を取りながらも「仲良くしろよ〜」と言ったり自分の悩みの話に持ち込もうとしたりするKSKさんの大人ぶりもかっこよくて、きっとそういう諸々を察知したこく兄が「おもしろそうな話してんじゃん、俺も混ぜてよ」と言って途中から参加してくるその優しさ。話題がアールさんになった時にこく兄が三太郎さんに「なんでいちいちマジレスなん」と言うと、その一言で三太郎さんもモードを変えなきゃと思ったのか、そこからは少し安心した気持ちで聴けた。

九月六日
 早起き。『誰かの日記』の書影撮影。木村くんに頼んだ。思ったよりも時間がかかって疲れた。みなさんありがとう。帰ってすぐに寝た。

九月七日
 新潮新人賞の結果が出た。一次審査は通過したけど、結局ダメだった。文芸誌に自分の名前が載るのを初めて見た。一次通るだけで丸三年かかった。納得してるかだけを自分に問いながらこれからは書く。書いたことに納得してないと意味ない。『巨木とスプリングフィールド』は好きだ。又吉さんに読んでもらいたかったな。又吉さんに読んでもらえたらきっと嬉しかった。惜しかった。悔しいな、と思いつつ、やっとここまで来れたか……という嬉しさもあるのが正直な気持ちで、と書くとまるで嘘を書いたことがあるみたいになるけど嘘を書いたことはない。とりあえず二千人中の四十人に入れたんだから、今日ぐらいちょっと褒めてあげてもいいんじゃない? ほい頑張れ頑張れ。
 トロワシャンブルで『影分身と饅頭』の続き。六万字。練子が詩織ちゃんの顔の上に乗って内ももをナイフで切って血を飲ませるというセックスをやっていて詩織ちゃんも飲もうとするんだけど体が本能的に血を飲み込まなくて練子がビンタしまくるというそういうようなやつを書いた。働いた。
 吉祥寺から乗った午前一時前の中央線はガラガラで、口ロロの『朝の光』を聴いていたら涙が出てきた。座ったまま窓の外を横線になって伸びていく誰かの家の明かりたちを見ていた。
「僕は出会う 止まった時間の中 本当に本当のこと そして完全な幸福」

 図書館で働くようになったアンジーから「「913(日本の文学)ヤ」に山口慎太朗が来る未来」とリプライが来て、アンジーが本棚に紙と棚板が擦れる少しの音を立てながら差し込んでくれたら嬉しいから頑張ろうと思った。俺は「913(日本の文学)ヤ」にならないといけない。ならないといけないことはないがなると決めたんだからなるしかない。

九月八日
 起きて、アボカドの固さRadioのダイジェスト製作を少し。西邑とLINEして、「自分にとっての百点の幸せを考える」というようなことを俺が言った。恋人と仲良く過ごして、書きたいことを書いてそれがたくさんの人に読んでもらえて、脚本も書いて、高円寺に一軒家でも建てたら立派なもんだ。とにかく朝から晩まで書くことを考えながら書いて暮らせられたらどんなにハッピーだろう。マックスの幸せを考えた時にそこにあるのは今の延長の景色で、ということは今かなり幸せなんだなと気付く。毎日うまいメシ食いたいとか注射打ってエロい女とセックスしたいとか、金を使いまくりたいとか、百点の幸せを考えた時にそういう気持ち良さそうなのは意外と出てこなかった。一軒家は正直あったら凄いねってだけで別になくていいし。固定資産税とかめんどくさそうだし。
 働きに出る。森奈ちゃんからゴールデンバージニアの葉っぱをもらった。
 終電に乗れなさそうだったから走った。小田急に揺られながらやっぱりそれでも『巨木とスプリングフィールド』が一次審査通ったのは少なからず俺に安堵感をもたらしている。書いて良かったと思った。

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