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THE 日記(6/7〜7/16)

六月七日
 路地裏を恋人と歩いていたら、古い民家から下手くそなバイオリンの音が聴こえてきた。

六月二十八日
 午前五時の吉祥寺をポテサラとぺっちゃんと三人で歩いていた。ポテサラとは「ボウルに一杯のポテトサラダ」のことで、これはラジオネームだ。ぺっちゃんとは「ぺっちゃん」のことで、これもまたラジオネームだ。我々三人は奇遇にも同じ時期にラジオに投稿していて、電波を介して知り合った。今ではもう狭いユニットバスに三人同時に入ってシャワーを浴びたりするぐらい親密になった。それでだから午前五時の吉祥寺で都知事選の選挙ポスターを見て、憂鬱な気持ちになった。なんで午前五時の吉祥寺を歩いていたのかと言うと、それはサムスの上Bが強すぎるからだ。サムスというのは鋼鉄の赤いスーツを着ていて、ビームを出したり蹴ったりしてくる。サムスとはそういう奴で、大乱闘スマッシュブラザーズにも脚本・出演で参加している。ポテサラの家に集まって、任天堂64の『大乱闘スマッシュブラザーズ』というGAMEをPLAYしていた。このポテサラという男はサムスのことが大好きで、将来はサムスと同棲してゆくゆくは婚姻関係を結ぼうと企んでいた。愛しているのだ。なのでスマブラをやろうとなったら彼は当然サムスを選ぶのだが、一九九九年一月二十一日に販売開始されたこのスマブラ64というゲームは、「当たり判定」「発生・持続・硬直フレーム」「入力受付」などが無茶苦茶になっており、普段はストリートファイターⅤチャンピオンエディションをPS4でプレイしている最先端の俺からするといずれも納得のいかないゲームの造りになっている。その中でもこのサムスとかいう差別主義者の持っている技、上Bと下Bは厄介甚だしく、今まで何度もポテサラ家のフローリングにコントローラーを投げ付けては「クソがよ〜」と一番先に死んだ俺は亀を撫でたりして時間を潰す(ポテサラは『ボサノヴァ』という名前の亀を飼っている)。この上Bは一体どういう技かと言うと、まずは、拗ねた小学生が体育館の隅、肋木の側で体育座りをして頭もその両膝の中に埋めるように丸まるあの姿勢を想像してほしいんですけど、あの姿勢で全身が発光します。で、白く光りながら飛びます。上に。そこにちょっとでも触れると大怪我をします。そういう技です。この技の厄介なところは二つありまして、まず一つ目が、その技には何も勝てない。上から横から下から後から、どのキャラの何の技を被せても、全く勝てない。何をやっても光のどぅるどぅるに巻き込まれてダメージを負ってしまう。誰しもが。「じゃあ、触れなくて良くない?距離・距離・距離じゃない?」と内省のギャルが髪を人差し指で巻きながら話しかけてくるじゃないですか?で、ギャルの言う通りだな、と思って、距離取って軒先でガードしてるじゃないですか?ガードも割ってくるんですよこいつ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!クソが!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!サムス!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

「確反」とは「確定反撃」の略であり、わかりやすく言うと、無茶苦茶に隙がある状態です。反撃を入れられることが確定している状態。確反。サムスの上Bはその持続フレームが終わったあとの硬直フレーム時になぜかスティックの入力を受け付けています。つまり、技が終わったあとの、本来なら隙だらけのところで移動できてしまうのです。馬鹿が。上Bを空振らせたあとに、着地する瞬間を捉えようと思っても、どこに着地するのかがただの読み合いになってしまう。最悪かよ。じゃあ地上戦だな。そもそもこっちが絶対に飛ばない、サムスの上側に行かない、と決めこんどけばいいや、となりますよね。それで地上戦に持ち込みます。するとそこには下Bが待っています。サムスの下Bは、とぅる、っとか言って、目の前にちいちゃい爆弾をバウンドさせながら発します。前方に飛んでいくビームのようなものではありません。ただその場に上下しながら留まり、一秒後ぐらいに爆発します。こいつが置き技として機能しまくって、容易に近付くことができません。こっちもマリオの弟を使って火の玉を何発も撃つんですけど、その、とぅる、っで消されてしまいます。クソ、どうしよう、あ、飛べばいいんじゃね?空中からだったらそのとぅる、喰らわないじゃん!!!頭良すぎるかよ!!!と思って、飛びます。上Bです。そこには上Bが待っているのです。コントローラーを放り投げて亀を撫でます。それで吉祥寺のマクドナルドで各々ハンバーガーやらコーヒーやらを買って井の頭公園で飲んだり食ったりしていました。その日はそんなことになる前に、ヨーコちゃんと永田くんの写真が西荻のえるえふるに飾られていることを知っていたので、えるえふるに行った。ヨーコちゃんと真面目な話をして、我々三人はポテサラの家まで歩いた。

七月四日
 『誰かの日記』の束見本が来た。かっこいい。読んだ人の心が震えて広がっていったら嬉しい。自信ない。

七月五日
 宇都宮けんじさんに投票。ゆりこが受かった。強すぎる。サムスの上Bぐらい強い。死んでくれと願う。

七月六日
 吉祥寺のルノアールでさよぴぃとセブンスターを吸った。ぺっちゃん家でぺっちゃん母ぺっちゃん祖母と話す。屋上で煙草を吸う。雨が降っていた。ポテサラ、ぺっちゃん、落合くん、西上くんとコントの会議。電話で。自信ない。

七月八日
 ZOOMで読書会。フリオ・ホセ・オルドバス『天使のいる廃墟』。おもしろくなかった。でも読書会の課題本だから、最後まで頑張って読んだ。この忍耐は良い忍耐で、何がおもしろくないかがわかるということは、つまり何がおもしろいかがわかるということだった。それも全部言った。阿佐ヶ谷に行ってGIONで小説を書いた。

七月十日
 アボカドの固さRadioの収録。久しぶり。楽しかった。
 髪が伸びまくっている。

七月十四日
 新宿の紀伊國屋に行って『冷戦 ワールド・ヒストリー(上)』と、『小説の技巧』、カフカの『審判』、柴崎さんの『百年と一日』を買った。
 ユジクでハル・ハートリーを観ようと思って上映の一時間半前に行ったらもう補助席案内で、諦めた。店員さんが優しかった。近所の煙草屋でセブンスターを吸った。箱から煙草を取り出す時に一本地面に落ちて汚かったからそれは灰皿に捨てた。
 どうしようか迷って、高円寺に戻ってきた。ぽえむで冷戦のやつを読んだ。むずい。あんまり集中できなかったから、フヅクエに行った。めっちゃ読んで、森奈ちゃんと喋った。

七月十五日
 コロナに罹ったこく兄のためにマインクラフトをやっている格ゲーマーの皆さんの配信を、ミルダムで聴きながら、小説を書いた。題名を『影分身と饅頭』とした。最近イースタンユースのライブばっかり観ていて、去年の森道市場でやってたソンゲントジユウが凄まじくて、尊厳と自由、重力と恩寵、響きと怒り、差異と反復、、、じゃあ俺は影分身と饅頭だろ、と思ってそうした。

七月十六日
 黒くて大きな犬を見た。ずっと天気悪い。低気圧に無茶苦茶されてる。七月末まで雨が降り続ける。地獄みたいだ。東京都新規感染者数二百八十六人。検査数はかなり増えてる。

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