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THE 日記(9/9〜9/14)

九月九日
 初台店も下北店も両方終日休みにしてみんなで休憩しようの会が催されたので、フヅクエに行ってみんなで餃子食った。寝たりもした。
 家に帰って坂元さんの『カルテット』の一話を再生させたらこのドラマはとっても悲しい物語だったことを思い出して、このあと起きる家森さんの泣きながら手を下ろすシーンとかすずめちゃんが葬式に行きたくないこととか、別府くんがバイオリンでスピードを弾くこととかクドカンさんが「コンビニ行ってくる」みたいな感じで家から出て行くこととか、最後空き缶を投げられながら演奏しているところとか、色々思い出して呼吸が浅くなってきた。起き上がって深呼吸をした。テレビドラマに本当の意味での「悲しさ」を持ち込めるのは今のところ坂元さんしかいないし、テレビというヘドロの中で燦然と輝く一粒の砂金は多分テレビがなくなっても輝き続けるから安心だな、坂元さんだ〜い好き、と思って、一話でやめといて、『ラヂオの時間』を観て恋人とゲラゲラ笑って寝た。

九月十日
 トロワシャンブルのトイレでうんちをしながら「影口のこと未だに怖いと思ってるな」と思った。そして「影口」なのか「陰口」なのか表記もわからない。「陰口」て書くと卑猥な感じが凄くないですか? そんなことねえよ。隣のテーブルに座ってた大学生っぽい男女がめちゃめちゃに誰かの悪口を言っていて、恐らく同じサークルの奴で、「服がダサい」だの「虚勢を張ってる」だの「なんか違う」だの散々な言いようだった。でもきっと会ったら良い感じにするんだろうし、本当それはハタチぐらいの時からずっと思っているけどそういうのマジで疲れるよ。本当に嫌いなら言えばいいと思うけど今目の前に座ってる女の子と何かしらの連帯を取りたくて共通の敵みたいな物を作ることによってそれを果たそうとしてるんならマジでやめなよ、と思いながらも割とすぐにどうでもよくなったからイヤホンを着けて『影分身と饅頭』の続き。六万二千字。シナモントーストがめっちゃおいしかった。
 日記屋さん『月日』で『武漢日記』を買った。
 働いた。

九月十一日
 アボカドの固さRadioのダイジェストを作り終わって送信。家出る前に洗濯機を回す。その間にストファイ。負けまくってクソイライラする。そろそろ終わるかな、と思って洗濯機を見に行ったら残り二十四分と表示されていて「は!?」となる。一時間経ってるのにまだ終わってない。壊れた。ブチギレながら洗濯機の中から舐達麻のTシャツだけ救い出してベランダに干して家を出た。バス停で天気予報を見ていたらこのあと雨が降るらしい。舐達麻だけ救出した意味ねえじゃねえかクソが。舐達麻のTシャツは人気すぎて再入荷しても本当に一分ぐらいで完売する。ツイッターを見ていたらたまたまバダサイさんが再入荷したことを知らせてくれるツイートをしていて、それにドンピシャで遭遇したから買えた。バス停は歩道橋の階段の裏にあって、ちょっと車道にはみ出すように立ってないとバスが気付いてくれなくて通り過ぎていくことがあるから、それでそうやってはみ出すように立っていたらそこに歩道橋の上から水滴がぽたぽた落ちてきていて、つまりバスに乗るにはその水滴を浴び続けなくちゃいけなくてブチギレそうだった。バスの運転手ってのは全員馬鹿だからそうでもしないとそこに人が立ってることに想像を膨らませられない。そんなことねえよ。ムカつくことがあった時に暴力を用いちゃいけない理由っていうのが何もない。無差別的に無関係な人を攻撃するのを肯定しているわけじゃなくて、明確に攻撃されたその仕返しをやってはいけない理由って本当に何もない。法律とか関係ない。働きながらもイライラがあまり抜けなくてしんどかった。そして高円寺の駅に着くなり大雨。イライラが抜けない、溜まっていく一方。
 高円寺の駅に着いたら大雨が降ってきた。知らん軒先で雨宿りをして帰る。

九月十二日
 憂鬱。ずっとイライラする。何もかもうまくいかない気しかしない。

九月十三日
 たくさん寝たらちょっと元気。働きに出る。働く。帰りに乗った小田急が参宮橋で人を轢いた。カフカの『審判』を読んでいた。というか読んでいる。今。今、日記を書いている。俺の見込みでは多分これは二時間ぐらいかかると思う。初めての体験だ。本に集中できないのでポメラを出して『影分身と饅頭』の続きを書こうと試みる。車内の電気が全部消えて真っ暗になる。懐中電灯を持った駅員さんが入ってきて「降車希望の方は一番後ろの車両から出られます」と言った。とりあえず座ったまま小説の続きを書いていると、消防か救急の人が「右腕ありました〜」とか「頭部発見、頭部発見」とか言っていて、手が止まる。体の芯が冷たくなる瞬間がわかった。怖さのスイッチが押された感覚。そこからもう怖いモードが全開になって、しばらく動けず、何も見えないし、だけどイヤホンつけて音が遮断されるのも怖いし、小説を書けるような心持ちじゃないし、と思っていたらみんな同じようなことを思ったのか、段々と人が後ろの車両に向かって歩き始めた。俺も降りることにして歩いていたら、救急隊や消防隊がたくさん集まっていて、見てはいけないものを見そうだなと思ったので手で視界を狭めながらどうにか参宮橋の駅から出てタクシーに乗った。無茶苦茶怖かった。タクシーの運転手さんから「駅で何があったかとかわかります?」と聞かれたので、言うかちょっと迷って(運転手さんが怖い話無理な人だったら言わない方がいいなと思ったから)、でもちょっと流石に怖すぎたから誰かに言って落ち着きたいという気持ちが勝って、全部説明した。すると「ひょえ〜〜〜」と昔ながらの良いリアクションをしてくれて、少し安心する。
 ストファイ。LPが6500から3800まで落ちた。弱すぎる。

九月十四日
 ランチパックのブルーベリーを買った。昨日のことがあったから小田急に乗るのがちょっと怖かった。参宮橋が近付いてきて、無事に通過してくれと願う。通過した。ゆっくり本を読みたい。家に帰ったら湯船に浸かるぞ、と思いながら誰もいない白いタイルが反射する広大な新宿駅を中央線目がけて今エスカレーターに乗った。

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