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映画で夏を取り戻せ!オススメ夏映画3選

 木々が色づき始め、すっかり肌寒くなって、季節はとうとう秋を迎えました。「夏は暑いだけで品がない」「だらしのない季節」などと口では散々言いながら、過ぎてしまえばあの苛烈な暑ささえ懐かしく、どこか物寂しいものです。

 そこで今回は、久しぶりの映画紹介の記事ということで、夏の終わりを感じさせるような、哀愁漂う“夏映画3選”をお送りしたいと思います。興味のある方は、どうか最後までお付き合いください。


※以下、作品の詳細を含みます。ご了承ください。


1.『夏の遊び』(1951年)

○製作国:スウェーデン
○監督:イングマール・ベルイマン
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[あらすじ]
 主人公マリーは、30歳を目前にして、結婚して家庭に入るか、このままバレリーナの仕事を続けるか、人生の岐路に立たされる。そんなある日、楽屋で佇むマリーのもとに一通の手紙が届けられる。その小包の中身は、初恋の相手ヘンリックが綴った日記であった。それを読んだマリーの内に、今から13年前、サマーハウスで彼と過ごした甘い時間が蘇る……。


 「生と死」や、「神の不在」といった重いテーマを軸に、難解な映画を撮る監督として印象の強いベルイマンですが、意外にもその初期における活動の中では、本作のように、良い意味で俗らしい映画も少なくない数撮っています。その中でもこの『夏の遊び』は特別な映画で、52年の『不良少女モニカ』(1952年)、55年の『夏の夜は三たび微笑む』、そして57年の『野いちご』と名作が続くように、彼のスタイルが確立された一本でもあります。

 どんな映画か言葉にして説明するのは難しいのですが、とにかく、美しい。映像が、というのは勿論のこと、「映画」としてひたすら美しい。それ以上に語ることがないくらい、圧倒的に耽美で煌びやかな作品で、かのゴダールやロメールをして「最も美しい映画」と言わしめたのも納得の完成度と瑞々しさです。水面に光が当たる、それが反射して画面に映る。私たちの目に映る。それだけのことが、かくも神秘的な美しさを与えてくれるのですから不思議なものですね。

 20世紀最大の巨匠とまで言われるイングマール・ベルイマンの初期の傑作。『沈黙』や『叫びとささやき』のような作品からベルイマンを知った方にも是非オススメしたい、ストレートに楽しめる一本です。ちなみに小話ですが、映画評論家の蓮實重彦氏はこの映画を観てあまりの感動から、実際にスウェーデンまで現地の海を見に行ったそうです。


2.『アメリカン・スリープオーバー』(2010年)

〇製作国:アメリカ
〇監督:デヴィッド・ロバート・ミッチェル
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[あらすじ]
 「今年はどんな夏だった?」。新学期を目前に控えた夏休みの終わり。なにか物足りなさを覚えるマギーは、上級生たちの開くスリープ・オーバー(お泊まり会)に参加する。時を同じくして、デトロイト郊外。街では至るところで似たようなお泊まり会が催されいて……。

 
 デヴィッド・ロバート・ミッチェルという監督は、『イット・フォローズ』というホラーの映画で有名になった人で、その後にも『アンダー・ザ・シルバーレイク』という少し変わった映画を撮っているのですが、そんな彼の長編デビュー作がこの『アメリカン・スリープオーバー』になります。

 本作は上記の2作とはかなり毛色が違って、大人と小どもの狭間で悩みもがく若者たちを描いた、ストレートな青春映画となっています。ある夏の、どこにでもあるようでどこにもない、特別な一夜のお話です。青春群像劇でありながら、『バッド・チューニング』や『スーパーバッド童貞ウォーズ』と違うのは、映画のテンションでしょうか。あんまりはっちゃけていないし、面白い珍事も起きない。どちらかといえば暗い。だけれどもそれがリアルで、形は違えど、もしかしたらこんな一夜が自分にもあったかもしれないと思わせてくれます。


 大人がみんな寝静まったあとの、子どもたちだけの夜の街で味わう、自分たちが世界の中心にいるような、あの全能感。振り返ったら恥ずかしくなるような、そんな青臭くて、歯痒くて、切ない思い出が蘇る、夏の終わりにピッタリの一本です。


3.『夏時間』(2019年)

〇製作国:韓国
〇監督:ユン・ダンビ
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[あらすじ]
 妻に逃げられ、また事業に失敗したビョンギは、オクジュとドンジュの姉弟を連れて、祖父の住む実家に帰省する。大きな庭に広い居間。新しい環境にすぐに馴染む弟のドンジュとは対照的に、年頃のオクジュはなんとも言えない居心地の悪さを抱える。そこに離婚寸前の危機に陥った叔母までやってきて……。

 ユン・ダンビ監督は、『はりどり』のキム・ボラや、日本でも話題になった『82年生まれ、キム・ジヨン』のキム・ドヨンに並び立ち、今最も注目されている韓国の若手女性監督の一人です。夏休みを祖父母の家で過ごした経験のある人は身に覚えがあると思いますが、あの居心地のいいような、でもどこか居心地の悪いようなノスタルジックな空気感が絶妙に描かれています。

 思春期のオクジュは、親の勝手で振り回され、モヤモヤを抱えながら、その心の内を誰にも打ち明けられないでいる。お父さんにもおじいちゃんにも特別不満があるわけではない。でも何か釈然としない。家族を置いて出ていった母親に、無邪気に会いに行こうとする弟のドンジュにも腹が立つ。それで、イライラする気持ちを弟にぶつけてしまう。そういう自分も嫌になって今度は自己嫌悪に苛まれる。監督はそんな少女の繊細な心の機微を、家族との関係性の中で、つぶさに捉えています。

 何より、今までの緊張がすっと解けたようなラストがいい。小津リスペクトなのか、唐突に挿し込まれるクローズアップの切り返しも楽しく、荒削りながらも、才能を感じさせる作品です。ぜひぜひチェックしてみてください。


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 文字数の関係で、今回は厳選して三作品しか紹介できませんでしたが、素晴らしい夏映画は国内にも国外にも山ほどあります。至極の夏は、映画にこそ宿るものなのです。慌ただしく過ぎる季節の中で、たまにはふと立ち止まって、映画に閉じ込められた夏の、そこにしかない懐かしさに浸りましょう。
 
 最後までお付き合いいただきありがとうございました。


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