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ビットコインの半減期が市場に与える影響を考えてみた ~寓話篇~

こんにちは。ストラテジーグループの服部です。以前、このような記事を書かせて頂きました。

さて、ビットコインの半減期が今年の5月に到来すると予想されていますが、具体的にどのようなことが起き、どのような値動きになるかを考えやすくするために、簡単な寓話を作ってみました。所謂「SFプロトタイピング」のようなものでしょうか。
諸所細かい部分で現実と異なる点があるかもしれませんが、寓話ということで目をつぶって頂き、しばしお付き合い下されば幸いです。


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今ではない、いつかの話…

ここに魔法の絨毯がある。いわゆる空飛ぶ絨毯である。魔法の絨毯は特別な能力をもつ職人が制作していると言われる。
この絨毯は古代魔法による縛りから、制作できる枚数が2年経過するたびに半分になってしまうという。今月からは月当たり5枚(年間60枚)が上限枚数となる。
かつては10人以上の職人がいたものだが、制作枚数上限が減少していくにつれて稼ぐことが難しくなってゆき、今は1人の職人が残るのみである。

今日はちょうどそのたったひとりの職人の70歳の誕生日であった。
古代魔法による制作枚数上限を職人が調べたところによると、以下の表のようになるらしい。これについては誰もが知るところとなっている。

職人年齢-枚数

絨毯の材料費や職人の生活費などは合計すると月当たり1,000万クトラ(銀を裏付けとした現地通貨の単位)であり、これは固定費とみなしてよい。この費用は個別性が高く、職人の甚大なる努力によりようやくここまで下げられたものだ。これ以上下げることは不可能である。職人はこの費用が上がってしまわないように細心の注意を払っている。費用水準を下げて虎視眈々とチャンスをうかがう新世代の職人が参入してくるかもしれないからだ。参入を許してしまえばまた消耗戦になりこの職人が負けてしまう可能性もある。

完成した絨毯は現在世界に7,440枚存在している。経年劣化することはなく、エネルギーの源である魔法の泉が維持される限りは永久に機能する。
魔法の泉を維持するためには魔鉱石を継続的に投入しなければならず、職人がこれを担っている。魔鉱石の採掘費用は上記の1,000万クトラに含まれている。
聞いたところによればこの魔法の絨毯を買った者は以下の4つに大別できるそうだ(ちなみに買ったあとに紛失してしまった者も多くいるようだ。一説には全体の2割から3割がすでに失われているという)。

①町に出るために使う(普段使い)
②短期の金稼ぎ
③長期でもって大きく狙う
④有事の際の備え(馬やラクダが疫病にかかった場合など)

よくよく聞いてみると、枚数の比率は変動はあるものの概ね以下のような状態になっているらしい。

絨毯用途

①の比率が目立って小さい。この魔法の絨毯は飛行中非常に揺れるためすぐに落ちそうになると不評なのだ。乗り心地もよくないし速度も出ない。そのため、馬やラクダの方が使い勝手がよいと言っている者が多いのが現状である。改善の試みは見られるものの決定的な変化は今のところない。

魔法の絨毯は主に上記②の人達により日々売買されており、仲介業者である魔導商会の登場により市場が形成され活発化した。月間の取引は全体で20,000枚程度ある様子だ。職人は制作した絨毯をこの市場に持っていき、主にクトラかゴールドに換えることで収入を得ている。足元では毎月5枚のペースだ。売却の際にはなるべくコスト割れしない価格を下限としてもつようにしている。すなわち、価格がこの下限以下の場合は絨毯を保有したまま様子見をする方針のようだが、100%これが守られるかは定かではない。
職人には古代魔法で定められた副収入もあるようだ。魔法の絨毯が使われるとその分お金が湧いてくるというものらしい。ただし金額はほんの微々たるものだ。

1年と数ヵ月が経った。関係者の今の一番の関心ごとは半年以内にやってくる職人の72回目の誕生日だ。職人が72歳になると魔法の絨毯の月間制作可能枚数は半分になる。これの何が問題か。今の価格220万クトラ/枚のままでは職人が生活できなくなってしまうというのだ。
月間費用が1,000万クトラのところ、収入は平均で550万クトラ(220万クトラ/枚 × 2.5枚)となってしまい大赤字だ。赤字にならないためには、絨毯の価格が400万クトラを超えてこなければならないらしい。それがかなわないならば職人は絨毯を作るのを辞めてしまうばかりでなく魔法の泉の維持もやめてしまうだろう。魔法の絨毯が単なる普通の絨毯になってしまうということだ。普通の絨毯のために誰が何百万クトラも払うだろうか。

これは大変なことになった。魔法の絨毯をもっている者は大慌てだ。絨毯の数は古代魔法で定められているため、変更するなんてことは不可能である。
ここである主張を唱える者が出てきた。上記③(長期)に属する者だ。彼は言った。
「魔法の絨毯のような代物は今後天地がひっくり返っても作ることはできないのだから、希少価値は抜群じゃあないですか。紛失してしまった分を差し引けば全世界にもう5,000枚くらいしかないかもしれないのですよ。それにこれからは新しくできる数は毎年毎年半分になっていくことも忘れちゃいけませんよ。」
それを聞いた人々はなるほどその通りだとばかりに大慌てで市場に殺到した。魔法の絨毯の価格はみるみる上がって1,000万クトラ/枚にもなった。220万クトラから実に5倍弱もの上昇だ。

そうこうしていると声高にまた何かを主張している者がいる。①に属するが、絨毯の使い勝手に疑問を抱き始めている者だ。
「希少性はもちろんいいんですけどね、この魔法の絨毯は使い勝手がすごく悪いじゃないですか。使いようのないものを頑張って持っていても、結局何にもならんのじゃないですかね?何のためにこれを持ってるんでしょう?ひとつ伺いたいもんです。」
それを聞いた人々は今度もなるほどそれはそうかもしれないと市場に殺到した。売りが売りを呼び価格はあっという間に400万クトラ近くまで下落した。

そうなると今度はこのような声が上がってくる。
「こいつは驚いた。皆さんいいですかい?400万クトラを下回れば何が起こってしまうか、もう一度よく考えてくださいよ。魔法の絨毯が魔法の絨毯でなくなってしまうんですよ!」
するとまたそれはやっぱりひどくまずいじゃないかと市場に買いにいく人が出た。ただ今度は価格は思ったほど上がっていないようだ。どうやら④(有事)に属する者たちが少し売り始めているという噂が立っている。存続に確信をもてないならば有事の用には適していないと考えた者がいくらかいるようだ。クトラやゴールドとは異なり、価格が下がり職人が廃業を余儀なくされれば既に出回っている魔法の絨毯も単なる布切れになってしまう。これはさすがに耐えられないとの考えだ。

②(短期)に属する者たちは我関せずといった感じだ、彼らは価格の変動を的確に捉えることのみに集中している。
「議論は好き好き勝手におやりなさい。私たちは別に絨毯に魔法がかかっていようがいまいが関係ないもんですからね。要はどれだけ儲けられるかだけが大事なことなんですよ。」
といった調子だ。

③(長期)の者たちに売っている者は少ない。しかし、長期保有の根拠とその将来性に迷いが出ていると呟いている者も出てきている。

①(町使い)の人数は依然として多くない。そしてすぐに大きく増えてきそうな状況にはない。これが一番の課題だという者もたいへんに多くなってきた。

誰が買うにせよ誰が売るにせよ、魔法の絨毯が宙に浮いているためには価格が当面のところは400万クトラを超えてこないといけない。しかも年が経てば制作可能枚数がさらに減るのだから、もっともっと高い価格にならないといけないのである。価格が上がれば魔法は存続し、価格が下がれば全ての魔法は解ける。そう、この魔法の絨毯を支えているものはその価格なのだ。ではその価格を支えるものは一体何なのか。

2020年5月にその糸口が見つかるかもしれない。


※この物語はフィクションであり実在のものとは一切関係ありません。